かつて「ウォーターゲート事件」を暴き、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ「ワシントン・ポスト」紙の敏腕記者ボブ・ウッドワード氏の最新刊が話題となっている。
題して『恐怖(FEAR)』。トランプ大統領が同氏の取材に対して「最も有効な政治手段は相手を恐怖に陥れることだ」と答えたことが書名の由来とのこと。
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実際、恐怖感をもてあそぶトランプ大統領の言動に世界が振り回されている。アメリカ国内には熱狂的な支持者もいるようだが、あまりの破天荒ぶりに閣僚や側近たちが次々と辞任する有様だ。
昨日まで「北朝鮮を地上から抹消する」と豪語していたのが、今日になると「金正恩委員長は素晴らしい」と、態度が180度変わってしまう。
一事が万事である。
アジアにおける最大の同盟国である日本に対しても、「アメリカから雇用を奪っている。日本製の自動車や鉄鋼に追加関税を課す」と、経済の相互依存関係を無視して、平気で日本批判を繰り広げる。
同書によると、「トランプ大統領の貿易に関する理解度は小学5年生レベル」というのが側近の判断だという。
また、「中国は特にひどい。特許権を侵して、アメリカから知的財産を奪っている」と大上段から中国を非難しながら、自らのファミリーが進める海外のリゾート開発には中国の国営企業から多額の融資や投資を受け入れている。
特に、娘のイバンカのブランド商品であるハンドバックや靴、そして宝飾品などは大半が中国で製造され、アメリカはもとより日本でも大々的に売られているのだが、そうした「不都合な真実」には見向きもしない。
これらの大統領の振る舞いに、ついにアメリカの医学界の専門家がメスを入れた。
イェール大学の主催で、アメリカの著名な精神科医や心理学者27名が参加する「トランプ大統領の危険な精神状態」と題する会議が開かれたのである。そこでは大統領選挙中から今日に至るまでのトランプ氏の言動がつぶさに検証された。
アメリカ精神医学会によれば「公職に就く者が国家に危機的な事態をもたらさないように、彼らの精神状態を観察し、国民に警鐘をならす使命がある」というわけだ。
そうした国民の疑念に応えるため、会議の内容をまとめた『ドラルド・トランプの危険な兆候』と題する報告書が出版された。その内容は驚くべきものである。
膨大な観察データから引き出された結論は「極度の快楽主義者、病理学的なナルシスト、人を信用しない偏執病」というもの。
「この狂気は伝染する性質を持つため、カルト集団のように熱狂的な信者、すなわち支持者を生んでいる」
驚くことに、このような結論にカリフォルニア大学やスタンフォード大学の有名な教授たちがこぞって賛同しているのである。
実に恐ろしい限りだが、ウッドワード記者や専門家たちがこうした声を上げることは、アメリカには民主的な精神がいまだに息づいていることの証しなのかもしれない。(国際政治経済学者・浜田和幸)