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魚河岸の仲卸たちが語る築地と豊洲「我々には逆風だ」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2018.10.24 06:00 最終更新日:2018.10.24 06:00
呪文のようなせり場の声。おびただしい数のターレ、トラック、歩行者。狭い通路に人が入り乱れ、世界一の量の水産物とカネが行き交う。築地は “ひとつの生命体” だ。
その中心は「仲卸」。各地から水産物を集める「大卸」と、小売りや飲食店の間を仲介する彼らは、切磋琢磨して「目利き」の伝統を築いてきた。
「大事なのは鮮度、脂、色艶。同じクロマグロでも時季や産地、もっといえば、一本ごとに違います。いいマグロは庖丁を入れた瞬間に本当にいい香りがして。見極め方? 説明するのは難しいけど……。知識と経験ってとこでしょうか」
そう語るのは、生マグロ専門の仲卸「西誠(にしせい)」の小川文博社長。市場が日本橋にあった時代から続く老舗の三代目だ。
「本音を言えば、豊洲はあまり “市場らしく” ないですよ。お客様にも我々にも、使い勝手が悪くて。ただそこはもう、みんなで創意工夫してやっていくしかないです」(小川文博氏)
築地でも豊洲でも最大の売場面積を誇る、生鮮魚介の「山治」。山崎康弘社長は「築地は世界遺産だ」と言う。
「先輩方が長年築き上げてきた “文化” が築地にはあって、手放すのはもったいないです。じつは豊洲のうちの店前、一部陥没していて……。文句は言いながらも頑張っていきますよ」
冷凍マグロを中心に扱う「高徳」の小川万寿男社長は、コスト増と収支の不安を語る。
「私は脱サラ転身組なんです。ベテランの方々から、いろんな知識や技術を盗ませてもらいました。移転を機に引退する方が何人もいて寂しいです。豊洲では、衛生管理の面で格段によくなるのは確実。でもそのぶん、ランニングコストがどうなるか。
移転が延期された間に景気は悪くなるし、市場法の改正で市場での売買が自由化されて、我々には逆風です。2年前に移転していれば、やめなくてすんだ店もあったと思います」
移転組も心模様はさまざま。一方で廃業を選んだのは、高級海鮮の「富士恭」。40年以上働いた従業員が無念を語った。
「ここが俺の居場所でした。いい仕事をしたら『生きてる』って実感があって。でも最近は利益重視で言われた魚を揃えるだけで、仕事のおもしろみが消えていました。移転資金問題もあり、終わりです」
(週刊FLASH 2018年10月30日号)