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トランプ大統領の「入国制限」に徹底抗戦する日系人がいた社会・政治 2018.11.02

写真:Shutterstock/アフロ

 

 トランプ大統領が、就任直後の2017年1月末に出した、イスラム圏からの入国を制限する大統領令については、75年前に日系米国人を強制収容に追いやった大統領令の「再来」だとする批判があった。

 

 日米開戦後の1942年2月、当時のルーズベルト大統領は、特定地域から住民を排除する権限を軍に与える大統領令9066号に署名した。その目的は、敵国・日本への協力が疑われる米国在住の日本人や日系人を強制移住させることだった。主に西海岸の日系人ら12万人以上が、全米7州計10か所の収容所に入れられた。

 

 

 トランプの大統領令は、特定の人種や宗教に対する差別的対応という点で、ルーズベルトの大統領令と共通していると言える。75年という歳月は、25年(4分の1=クオーター)をひとつの区切りと考える米国では大きな節目だ。米国で暮らす日系人は、2017年に迎えるこの節目を重視し、同じ過ちを繰り返さないように誓う貴重な機会ととらえていた。それが、トランプによって見事に裏切られたわけだ。

 

 日系の著名人の1人に、ハリウッドなどで活躍する人気俳優のジョージ・タケイ(80)がいる。1966年に始まった米人気SFドラマ「スタートレック」の宇宙船パイロット、スールー役といえば、知らない人はいない。強制収容の経験をオープンに語り、人種や性などによる差別撲滅を訴えてきたジョージは今や、「反トランプ」の急先鋒だ。

 

 ロサンゼルスで生まれたジョージは、5歳の時、アーカンソー州の収容所に家族と送られた。その後、父親が米政府への忠誠を誓わなかったため、一家は「反米主義者」を集めるカリフォルニア州ツールレイクの収容所に移された。大戦終結後はスラムで暮らすなど苦労を重ねながら、俳優を目指した。

 

 1966年にスタートレックに出演してブレイクした際、「アジア人が米国のドラマで主要な役を務めるのは初めて」という言い方をされた。その後も地道にキャリアを重ね、ドラマの他、舞台や声優としても活躍するようになった。

 

 俳優業の傍ら、人権活動にも力を入れてきた。その背景には、日系人としての誇りを持ち続けた父親の存在が大きいという。大戦中に強制収容を経験した日系人には、過去を封印するように生きてきた人が少なくない。収容されたことを「罪」と感じる人さえいる。だが、ジョージの父は違った。

 

「日系人であることを恥ずかしいと考えて沈黙する人が多い中、父は当時の体験を私に何度も話し、語り伝えることの大切さや、自分らしさに誇りを持って生きることの素晴らしさを教えてくれました」

 

 ジョージは、日系人が強制収容など差別を受けた苦難の歴史を紹介する米唯一の施設「全米日系人博物館」(1992年5月、ロサンゼルスで開館)の設立にも深く関わり、日系人の地位向上に努めた。

 

「日系人強制収容の歴史が米国にあるという事実を語り継ぐことが、『生涯の使命』だと思っているのです」

 

 父の意志を受け継いだジョージの人権問題や差別に立ち向かう姿勢は、ぶれることがない。その姿勢は、トランプの大統領就任以降、力強さを増した。

 

 トランプの差別的な発言には、最初から敏感に反応した。イスラム教徒の入国禁止を訴えたトランプに対し、2015年12月、強制収容の経験を基に製作・主演したミュージカル「アリージャンス(忠誠)」を見に来るよう呼びかけた。

 

 ブロードウェーの舞台の座席をトランプのために予約したことをメディアで喧伝し、「歴史を学ぶべきだ」と圧力をかけたのだ。しかし、トランプは現れなかった。ジョージはその後、「正面対決」を避けたトランプへの批判をいっそう強めた。

 

 ジョージはトランプと同じくツイッターを多用し、「トランプ攻撃」を仕掛けている。トランプがイスラム圏からの入国を制限する大統領令に署名した際、こうつぶやいた。

 

「入国制限は(テロの)脅威を取り除くために必要だという。それはまさに、強制収容所を正当化した時に使われた論理と全く同じだ」

 

 強制収容所は、第2次世界大戦中に米国にいた日本人、日系人が敵国・日本に協力する脅威を取り除くために設置されたものだった。それが形を変えて再現されることなど、許されるわけがない。

 

 ジョージのツイッターのフォロワーは283万人を超える(2018年9月現在)。フェイスブックではイスラム教徒支援の署名を1か月で31万人分も集め、イスラム教徒のコミュニティーで講演も行った。トランプの発言や行動には常に目を光らせ、ツイッターで「攻撃」する手を緩めることはない。声を上げ続けることの大切さを熟知しているからだ。

 

 歌劇公演などで国内外を飛び回り、多忙を極める日々は変わらないが、「やれることはたくさんある。それに、自分一人だけじゃないから。願うのはもちろん、かつて我々が受けたような差別が二度と起きないようにすることだ。それが本当の、『Make America a better country(米国をよりよい国にする)』だ」。

 

 トランプの決めセリフの「Make America great again」をもじり、強い決意を示した――。

 

 

 以上、田原徳容氏の新刊『ルポ 不法移民とトランプの闘い~1100万人が潜む見えないアメリカ~』(光文社新書)を元に再構成しました。「移民の国」アメリカで起きている現状を、読売新聞ロサンゼルス特派員が渾身のルポ。

 

●『ルポ 不法移民とトランプの闘い』詳細はこちら

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