社会・政治社会・政治

空前の戦車ブーム! 世界最強「10式戦車」の秘密

社会・政治 投稿日:2016.03.26 12:00FLASH編集部

自衛隊の知られざる現状を、防衛ジャーナリストの桜林美佐氏が徹底取材した!

空前の戦車ブーム! 世界最強「10式戦車」の秘密

 

 

 冷戦が終結して以降「もはや必要なくなった」「時代遅れだ」などと風当たりが強くなった戦車は、ソ連による大規模な侵攻の可能性が低くなったということで、1200両からいまや3分の1まで大幅削減された。戦車が「陸の王者」と言われた時代は、もはや過去のものになったかのようだった。

 

 しかし、ここにきて、にわかに戦車ブームが来ているという。いったい、何が起きたというのか。最近の戦車人気について、陸上自衛隊の広報担当者は次のように語る。

 

「きっかけのひとつはアニメです。戦車を身近に感じられるような内容だと思っています。これまであまり興味のなかった人にも知ってもらえ、少しでも理解につながればいいのではないでしょうか」

 

 そのアニメとは、BSで放送された『ガールズ&パンツァー』(通称「ガルパン」)だ。「パンツァー」はドイツ語で戦車を意味している。「ガルパン」は女子高生たちが、茶道でも華道でもない「戦車道」を大和撫子のたしなみとして奮闘する物語。このユニークな設定が人気を博した理由だ。

 

 とはいえ、戦車が再び注目されているのは、アニメだけが理由ではない。戦車そのものの存在感も高まっている。それは、最新鋭のヒトマル式戦車が生まれたことが大きい。10式とは2010年に制式採用されたという意味だ。この革新的な戦車の誕生こそ、すべての原動力になっているといっていい。

 

 日本の国産戦車は61(ロクイチ)式、74(ナナヨン)式、90(キュウマル)式という変遷をたどってきた。61式戦車が製造される前は、敗戦国である日本が再び国産戦車を製造するなど夢のような話だったが、戦前からの技術の蓄積や「負けじ魂」で、敗戦後わずか15年で戦車の自作に成功した。

 

 次の74式は小ぶりだが、空冷ディーゼルエンジン、油気圧サスペンションを実現したことで、山がちな地形を利用して防御力を高められる優れものだ。

 

 90式は1500馬力のエンジンを搭載し、高精度なコンピュータシステムと砲弾の自動装填装置の導入により、それまで4名必要だった乗員が3名となった。従来、人がおこなっていた装填が自動化され、装填時間の大幅な短縮を実現させた。

 

 90式の最大の特徴は、走行しながら射撃ができることだ。FCS(火器管制装置)搭載により、射撃目標にひとたびロックオンすれば、目標を追尾しつづけることが可能となった。

 

 そして満を持して登場したのが10式である。これは取り外し可能なモジュール装甲を採り入れたことで、90式の50トンに比べ44トンと大幅な軽量化に成功しており、より機動的な運用が可能になった。

 

 また、GPSなどを駆使した「C4Ⅰシステム」が備えられ、戦車同士はもとより、指揮所や歩兵とが互いの位置や状況を共有することもできる。情報が瞬時に共有できることで、市街地戦にも有利となった。こうした技術は、ゲリラ対処での使用も想定されている。

 

 開発・製造関係者が胸を張るのは、「10式が完全国産」ということだ。砲身部分は、90式ではドイツのラインメタル社のものを日本製鋼所がライセンス生産していたが、10式で初めて国産化に成功した。

 

「これまでよりブレがなく安定しています。これはラインメタルを超えたともっぱらの評判です」(製造関係者)

 

 そこで、さっそく私は富士学校で実際に10式に搭乗してみることにした。90式でも相当な安定感を感じたものだが、この10式はさらに速く、きめ細かい正確な動きをすることに驚いた。

 

 富士学校(現・自衛隊東京地方協力本部長)関係者が言う。

 

「普通の戦車では、車体を動かしながら砲身の照準を合わせることは困難です。でも10式は、2000メートルも先にある目標物に対し、畳1枚の大きさの精度で撃ち込むことができるんです。

 

 どんなに車体がブレても、照準点が変わらないように制御できる高度な技術があるからです。90式も10式と同じように動きながら射撃できましたが、操縦士の練度が必要でした。しかし、10式では誰でも簡単に照準を合わせることができるのです」

 

 スラローム走行しながら射撃し、命中させる能力は世界初のものだ。この改善は、追尾を熱源式からカメラ式に代えたことで実現した。さらに、これまでは眼鏡式だった照準合わせが、10式ではタッチパネル式に変わったのだという。

 

「画面で操作できるから、若い子のほうが上手ですね。眼鏡をのぞき込んで、目の周りにあざを作ってきた歴戦の猛者は、もうかなわない(笑)」(同)

 

 現在、戦車をエンジンまですべて国産できる国は、世界を見渡しても限られている。アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、ドイツ、イスラエル、そして日本だけである。これに追いつこうと中国や韓国が必死になっているが、まだまだ達成できないといわれている。

 

 戦闘様式の変化などで、戦車の必要性はかつてより低下しているのは事実だが、不思議なことに、各国とも今なお戦車を作りつづけている。兵器がハイテク化し、無人化の潮流のなかで、どの先進国も最強の戦車を志向しているのはどうしてか。ある自衛隊OBがこう話す。

 

「戦車製造技術を持っていることは、この国を攻めたら大変なことになると相手に思わせる大きな抑止力になります。それだけでなく、その国家の技術力を示す意味もあるのです。日本は戦後、苦労を重ねて、今やっと真の日本製戦車を作り上げました。しかも世界最高のものです。それをあえて手放すことは狂気の沙汰です」

 

 次回は、その戦車の製造メーカーの現状をルポする。

(週刊FLASH 2013年9月17日号)

 


 

桜林美佐 1970年、東京生まれ。テレビディレクターなどを経て、防衛ジャーナリストに。近著に『武器輸出だけでは防衛産業は守れない』『海をひらく - 知られざる掃海部隊 -(増補版)』 『自衛隊の経済学』ほか多数

 

続きを見る

【関連記事】

社会・政治一覧をもっと見る

社会・政治 一覧を見る

今、あなたにおすすめの記事