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一億総無責任社会を打ち破る「田中角栄」の突破力

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2016.04.17 12:00 最終更新日:2016.04.17 12:00

一億総無責任社会を打ち破る「田中角栄」の突破力

写真:AFLO

 大阪観光大学観光学研究所客員研究員の濱田浩一郎氏が、再ブームを呼んでいる田中角栄の人気の秘密について語る。


 

  北海道新幹線が2016年3月26日に開業した。報道は「これで北海道が近くなる」とバラ色なものが多かったが、実際には、少なくとも向こう3年間は毎年約50億円の赤字が見込まれている。JR北海道の鉄道事業は年間400億円の赤字で、おそらく新幹線が札幌まで開通しても、赤字は続くと思われる。

 

 北海道新幹線にかぎらず、新幹線も高速道路も地方空港も、ほぼそのすべてを作ったのは田中角栄(1918~1993)だ。角栄は、『日経ビジネス』1981年7月27日号で、こんな面白いことを言っている。

 

「北海道から国鉄をとったらどうなる。熊だらけになってしまう。だって明治4年から北海道の鉄道は赤字だもの。これからだって相当赤字だよ。北海道の人口が1000万人になるまでは赤字だ。民営でできるわけはない。そういう意味で、北海道は北海道鉄道公社を作った方がいい」

 

 それにしても、角栄はどうしてこれほど権力を持っていたのか。

 

 そのヒントとなるのが、45万部を突破した石原慎太郎『天才』(幻冬舎)だ。石原が田中角栄になりかわって書いた一人称形式の小説である。

 

  その中には「登院の日、俺は生まれて初めての国会議事堂なる建物に歩を踏み入れた。さすがの建物だった。玄関の横で係員から議員バッジを襟につけてもらい、これでこの俺も天下の代議士なる者になりおおせた」と、石原氏の初登院時(1968年に衆院議員に当選)の感慨と思われるような一文も挿入されている。

 

 石原慎太郎の想像だけでなく、もちろん、角栄が実際に述べた言葉も記されている。それは、角栄が大蔵大臣に就任した際、役人の前で語った訓示だ。

 

「私が田中角栄だ。私の学歴は諸君と大分違って小学校高等科卒業だ。諸君は日本中の秀才の代表であり、財政金融の専門家ぞろいだ。私は素人だがトゲの多い門松を沢山くぐってきていささか仕事のコツを知っている。これから一緒に仕事をするには互いによく知り合うことが大切だ。我と思わん者は誰でも大臣室に来てほしい。何でもいってくれ。一々上司の許可を得る必要はない。出来ることはやる。出来ないことはやらない。しかしすべての責任はこの俺が背負うから。以上だ」

 

 エリート官僚たちは、この言葉を聞いて、角栄という人物に興味を持ち、そしていつしか心酔するようになったという。

 

 角栄は最初に、官僚とは真逆の自身の学歴を持ち出したうえで、大蔵官僚のことを「日本中の秀才の代表」「財政金融の専門家」と言い、自尊心をくすぐる。

 

 その上で、すぐさま「トゲの多い門松を沢山くぐってきた」と、尋常ではない修羅場の体験を述べており、この言葉で、一気に経験値の乏しい官僚の上に立つことに成功した。

 

 そして、決め台詞は「すべての責任はこの俺が背負う」である。この言葉に痺れない人はいないだろう。上司の責任転嫁や責任逃れが横行する社会にあって、最後に自分が責任を持つと断言することは、勇気と覚悟が必要だ。

 

 かつて自民党の政治家は「官僚派」と「党人派」に二分された。頭がいい、毛並みがいい官僚・華族・軍人などの出身者である「官僚派」に対し、生粋の政党出身者は「党人派」と呼ばれ、バカにされてきた。

 

 田中角栄は典型的な「党人派」だから、財界の支援はほぼなかったと言われている。そのため、経団連と距離をおき、公共事業を請け負う土建業者にカネを出させた。それが金権政治の始まりだ。

 

 金権政治は長らく批判されてきたが、現在では「いま角さんのような決断力ある政治家がいれば……」と多くの人が望んでいるようにも見える。田中角栄本がブームになるのは、日本が「一億総無責任社会」である裏返しなのだろう。

 


 

(著者略歴)

濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

 1983年生まれ、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本史に学ぶリストラ回避術』『現代日本を操った黒幕たち』ほか多数

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