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中国がびびった新型ヘリ空母、造ったら100億円の赤字に!

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2016.04.24 08:00 最終更新日:2022.11.21 23:55

中国がびびった新型ヘリ空母、造ったら100億円の赤字に!

護衛艦「いせ」(写真:海上自衛隊)

 

 熊本の大震災にも派遣された「ヘリ空母」(海上自衛隊の護衛艦)について、防衛ジャーナリストの桜林美佐氏が徹底取材した!

 


 

 

 2015年3月25日、海上自衛隊最大となる新型ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」(基準排水量1万9500トン)が就役した。製造は横浜にあるジャパンマリンユナイテッド(JMU)。

 

 全長248メートル、ヘリコプター9機を同時運用できる全通甲板を持つ。海自では「ヘリ搭載型護衛艦」と呼ぶが、「ヘリ空母」ととらえていいだろう。

 

 すでにわが国では、「いずも」に先立ち「ひゅうが」「いせ」という全通甲板の大型艦(いわゆる「ヘリ空母」)を就役させている。

 

 今回、私は、呉で「いせ」に乗艦できることになった。「いせ」は「ひゅうが」型の2番艦で、2011年3月16日に就役した。

 

「いせ」は、ヘリ3機の同時着艦が可能である。本来は、中国の潜水艦に睨みをきかすのが目的だが、災害派遣でも大いに機能するだろう。

 

 艦内はとにかく広く、どこに何があるかを覚えるだけでも骨が折れる。乗員は狭いラッタルを駆け足で上り下りするが、だいたい5階建てくらいのビルに相当する。

 

「最初はこれまでの護衛艦と視野が違うので戸惑いますが、感覚がつかめれば大丈夫です。WAVE(女性海自隊員)ですか? 確かに比較的多いですが、特に気にしたことはありません。性差は関係ないですね」

 

 そう話してくれたのは「いせ」艦長。女性の居住区は充実しており、「いせ」には女性隊員が24名いるが、基本的に任務に男女の別はなく、同じ条件で勤務している。

 

「ひゅうが」「いせ」そして「いずも」を建造したのはJMUで、アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドとユニバーサル造船の2社が統合して誕生した。

 

「これだけ大きなヘリ空母を連続建造しているのだから、さぞかし儲かっているのだろう」と一般には思われているが、事実はまったく違う。

 

 じつは、この艦の建造は「赤字受注」なのである。しかも「ひゅうが」では赤字が100億円を超えるとみられるから尋常ではない。

 

「いずも」の建造費は約1200億円とけっこうな予算を投じているし、「防衛産業はボロ儲け」というイメージを現役の自衛官さえ持っているため、この話をしてもにわかには信じてもらえない。

 

 問題は同社だけにとどまらない。護衛艦の建造には2500社にも及ぶ企業が関係しているといわれるが、厳しいコスト削減で、ほとんどが赤字をかぶっていることは想像に難くない。

 

 このような事態に陥ったのは、厳しい予算事情から艦艇の建造隻数が減ったこともあるが、それだけではなく、ある「お国事情」が関係している。造船関係者が次のように話してくれた。

 

「かつては、各社がみんなで知恵を出し合って、どうしたら世界一の艦艇を建造できるか力を合わせていましたが、今は、各社が集まっても押し黙っています。情報を出したくないのです。当たり前のことでしょう」

 

 いったいどういうことか。それは1999年に導入された競争入札制度に起因するという。

 

 それまで日本の護衛艦建造は「長官指示」という方式をとっていた。「長官」とは防衛庁長官のことである。受注を希望する造船所の能力や価格などさまざまな条件を精査し決めていた。

 

 しかし、これは透明性に欠け、「よろしくない」ということで廃止された。そしてそれ以降、艦艇建造基盤は弱体化の一途をたどっている。

 

 かつて、1番艦はA社、2番艦はB社……と国策として決定し、1番艦よりもよい2番艦にしようとやってきたものが、あるときから突然、互いが競合企業になってしまった。

 

 そうなると、ライバルに自社の技術を話すわけにもいかず、「世界一を目指そう!」と力を合わせていた技術者同士が口をきくことすらできなくなった。

 

●どんな巨艦も建造は5年以内という理不尽

 

 現在の日本のやり方は問題だらけだ。そもそも予算制度上、どんなに大きな艦でも5年間しか建造期間が認められない。これも造船を少しでも知っている人にとっては考えられない話だ。

 

「建造には本来10年はかかる。たった5年で国の命運をかける艦艇を造れると思ったら大間違いなんです」

 

 私がさまざまな関連企業へのヒアリングを通して、多くの企業から共通して言われた言葉がこれだ。  

 

 従来、企業は、契約前の段階から先行投資して研究や設計などをおこなってきた。たとえば、イージス艦やヘリ空母、また掃海艇も木造からFRP(繊維強化プラスチック)製となったが、導入にあたっては、技術者を海外留学させるなど事前の研究が不可欠だ。

 

 こうした将来を見越した見えない負担は、ある程度、長官指示による契約で回収できると見込まれていたからこそ可能だった。

 

 だが、長官指示の廃止により、受注までの仕事は無償でやらねばならず、受注できる保証すらない。こんな条件での先行投資は、株主にはとても説明できない。

 

 諸外国では、複数年度にわたる一括調達によって価格低減を図るのが通常だ。しかし、日本の場合は、建造に着手する年度に一発勝負の競争入札をするため、材料や大型装置の事前準備やまとめ買いによるコスト削減効果がない。長官指示の廃止は、コスト削減も阻害していることになる。

 

 戦艦大和を生み出した、わが国の軍艦の建造技術とサポート体制、そして海自による高い運用能力。この連綿と受け継がれた歴史を途絶えさせようとしているのが、中国でも北朝鮮でもない、わが国の政策なのだから、悪夢としかいいようがない。


 

桜林美佐 1970年、東京生まれ。テレビディレクターなどを経て、防衛ジャーナリストに。近著に『武器輸出だけでは防衛産業は守れない』『海をひらく - 知られざる掃海部隊 -(増補版)』 『自衛隊の経済学』ほか多数

 

(週刊FLASH 2013年9月24日号)

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