「2010年に最終報告された浸水シミュレーションは、鉄道会社にとって衝撃でした」
こう語るのは、元東京メトロ社員で鉄道ライターの枝久保達也氏だ。
「それ以降、水害対策が急ピッチで進められてきました。出入り口を密閉する防水扉や坑口の防水ゲートなどが整備され、ほぼ完成に近づいています。
ただ、問題は水の経路はそれだけではない、ということです。じつはビルと地下鉄が通じている箇所はかなり多く、浸水対策ができていないビルから水が流れ込む可能性は否定できません。
一方、大雨から堤防の決壊による河川の氾濫までは、ある程度の時間があります。現時点では完全な防水が不可能でも、水が到達する前に乗客を避難誘導するという考え方で対応しています」(枝久保氏)
そこで、鉄道各社に対策を聞いた。
「浸水エリアや浸水高を想定し、必要な対策を実施しています。さらに、近年の自然災害による被害状況を踏まえ、追加対策も進めており、2027年に全駅、全箇所で対応が完了する予定です」(東京メトロ)
「東海豪雨(総雨量589ミリ、1時間あたり最大114ミリ)並みを想定すると、水没する可能性のある駅はありません。浸水の可能性がある駅については、駅出入り口に止水板や防水扉などを設置しています」(都営地下鉄)
「止水板、止水扉を設置している駅もあります。23区内の全駅には、吸水土囊を配備しています」(JR東日本)
次のページに、内閣府による浸水シミュレーションにおいて、12時間で浸水する予測がされている東京の駅をまとめた。各路線で浸水する時間が早い順に並べてあるため、実際の駅の並びとは異なる。
また、同じ駅でも路線により高さなどの違いにより浸水する時間に差が出るため、駅名の重複がある。そしてこれは堤防決壊から12時間の時点であり、この後もさらに水量が増え、浸水する範囲が広がっていく。