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辛坊治郎の「Q&A日本国憲法」(3)自民党が考える96条改正ってなに?

社会・政治 投稿日:2016.05.05 08:00FLASH編集部

辛坊治郎の「Q&A日本国憲法」(3)自民党が考える96条改正ってなに?

 

 あなたは「憲法」の何を知っているか? 本誌連載でもお馴染みの辛坊氏による「初級編の解説」からお届けしたい。

 

【Q11】第96条改正問題って何?

【A11】

 昔は日本の憲法改正議論は、ほぼ9条問題一色だったんですが、ここへきて第96条改正問題のほうが目立ってきました。第一次安倍政権で成立した国民投票法が前提としているのが、個別の条文の改正ですので、いきなり第9条を変えるよりも、憲法改正手続きを定めた第96条を変えるほうがハードルが低いんじゃないかと考える人が増えてきたからです。

 

 第96条は、憲法改正のためには衆議院と参議院の両方で、全議員の3分の2以上の賛成で改正を提案して、国民投票で有効投票の過半数を獲得しなければならないと決めています。

 

 これは、「出席議員の3分の2で改正案を議決できる」とした大日本帝国憲法より改正のハードルが高いんですね。そこでまずこのハードルを、たとえば「衆参両院の定数の半分」、あるいは「出席議員の半分」で発議できるように変えれば、衆参で過半数を抑えた政権与党は簡単に憲法改正を国民に問うことができるようになります。

 

【Q12】その改正問題の議論とは?

【A12】

 一部改憲派の憲法学者のなかからも「本音である第9条の改正を隠して、憲法改正手続きのハードルだけを先に下げるのは卑怯」という指摘が出ています。

 

 一方で96条先行改憲派は、「現行憲法の異様に高い改憲のハードルが、時代に合った憲法改正を妨げ、無理な解釈改憲が横行する原因となっている」として、改正の難しい憲法(硬性憲法っていいます)である現行憲法の性質そのものを変えるべきだと主張しています。

 

【Q13】自民党の改憲案とは、どのようなものなの?

【A13】

 最新版の改憲案を読むと基本的に、このQ&Aで述べた改憲派の主張をほぼ網羅する改憲案になっていることがわかります。現行憲法では誰が国家元首か曖昧なんですが、自民党案では天皇を元首と明記し、第9条第1項はほぼ残しつつ、戦力不保持が書かれている第2項の代わりに自衛権の存在が記されています。さらに第10条では、自衛隊を国防軍として明確化することが謳われています。

 

【Q14】自民党改憲案にはどんな反対意見があるの?

【A14】

 この憲法案については、いわゆる9条護憲派からの批判だけでなく、「憲法は国家権力を縛るためのもので、国民を縛るためのものではない」という立場から、たとえば「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」「家族は、互いに助け合わなければならない」という規程などに、「大きなお世話だ」と拒否感を持つ人もいるようです。

 

【A15】

 近代憲法はアメリカ独立宣言、フランス人権宣言から出発していますから、「国民の権利を守る」ための規定を強く前面に打ち出しています。

 

 ところが平時においては大切なこの規定、たとえば「居住の自由」なども、ひとたび外国に攻め込まれて国内が戦場になるような場合には、「憲法上の国民の権利を完全に守っていたのでは国を守れない」ということも起こりうるわけです。

 

 多くの改憲派の憲法学者は、「世界のほとんどの国の憲法で、国家の存続が危うくなるような事態の下では、憲法が保障する国民の権利が制限されうる『緊急事態条項』が定められている」と指摘しています。

 

 理屈としては、「国民の権利というのは、国家の存在を前提として保障されているわけだから、国家がなくなって権利が残るわけはない。

 

 そこで国家的危機の際には、『国民の権利を守るために』国民の権利を一時的に制約できる根拠を憲法の中に入れておくべき」だ、ということなんですね。

 

 自民党の改憲案にも、それだけのために一章を立てて、第九章「緊急事態」として詳細な手続きが書き込まれています。将来、憲法改正が具体的な日程に上るときには、間違いなく大きな議論の対象になりそうです。

 

(週刊FLASH 2013年9月24日号)

 

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