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「マネックス証券」松本大のリーダー像は『バイオレンスジャック』
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2016.05.06 16:00 最終更新日:2016.05.06 16:00
「私が考えるリーダーの資質、それは決断力です。組織における決断は、多数決で決まるものではないですし、誰も決めたがらない」
マネックスグループ、マネックス証券の松本大CEOはカジュアルな服装、そして気さくな笑顔で自らのリーダー論、上に立つ条件を話し始めた。
「取締役会であろうが、株主総会だろうが、なんだろうが、重大な問題になればなるほど両論併記になり、決められない。そのときに、リーダーは決めないといけない。
僕がいつもよく思うリーダーというものは、たぶん古すぎて誰もわかってはくれないと思うのですが、永井豪の『※1バイオレンスジャック』というマンガが昔ありまして。あのイメージです。
ぐちゃぐちゃになった東京がある。そこに川があり、右に橋、左にも橋がある。今いる場所は危険で、僕らはどちらかの橋を渡って逃げなきゃいけない。
自分はリーダーとして、ここにいる全員を連れていって、逃げる。一方の橋は燃えていていかにも危険。もう一方は見た感じは安全そう。
でも、じつは燃えている橋を渡った先に安全な場所が広がり、結果として正しい選択であるかもしれない。そういうときに、リーダーとして、いろんな情報や経験をもとに判断し、皆が安全なほうがいいと言っても、全員を無理やりにでも連れて渡って行くのがリーダーの仕事です。
そこでもし橋が崩れたら、それはリーダー失格。多数決でもなく、すぐに判断できるものでもない。それでもなお、判断をしなきゃいけない。しかも結果に対する責任を取らなきゃいけない。リーダーというのは、そういう意味ではとても孤独だと思います」
●「非効率」な部分こそあなどってはならない!
いきなりマンガのたとえ話から始まる。以前の取材で「相手に合わせた話をする」と語っていた松本氏。FLASHらしくもっとマンガの話を掘り下げたかったが、趣旨が違うのでここは話を戻す。
「もちろんリーダーがやらねばいけないことは、その決断をみんなが納得してくれるような存在になること。決断した場合に皆がついてこないと仕事にならない。
100人いて、100人助けるのがミッションだとしても、20人しかついてこなかったら、仕事になってないわけです。全員つれていかないといけない。さっきの例で言うと、燃えていない橋に行く決断をすれば100人ついてくるかもしれない。
でも、これでは仕事になっていない。間違った選択だから。そのためにはコミュニケーションを大事にして、皆を連れていく説明をして、わかってもらわないといけないということです。
僕もやります。睡眠とコミュニケーションほど効率が悪いけれども、ないとダメなものはない。時間がかかるんです。睡眠は5分で終わったらすごく楽です。
でもそんなことにはならない。そして、なくせない。コミュニケーションも一緒です。5分でコミュニケーションできたらこんな楽なことはない。
でも、6時間話さないとわかってくれないこともある。これだけは短縮化することができません。
他者に伝える手段としては、創業直後の1999年からコラム※2を書いています。これは、1営業日も休まずに、出張やバケーションも関係なし。
ほかには社員向けに朝一斉メールを送ったり、月に一回全体会といって社員を集めて、顔を見ながらメガホンマイク※3で話したりします。顔を見て話すと、表情がやっぱりある。会社や私に対する不信があると、表情に出ているものです」
冷静な現状認識と、他者を動かすための愚直なまでの準備こそが松本流のリーダーの条件なのだ。
●トップの、会社の価値観を想像できる人間を求む!
では、そんなリーダーの右腕として必要とされる人はどんな人物が理想なのだろうか。いままでは饒舌だったのが、冷静にトーンを落として話し始めた。
「トップから見て、右腕としていちばん理想的な人は、同じ考え方である必要も、同じ価値観であることもまったくない。それは別の人間なので当然のことです。価値観を共有する気もないです。
ただ、チームで働いている以上は、お互い、自分のコミュニケーション力の問題でもあるけれども、やっぱり意図というか『わかってくれる人間』のほうがいいです。
自分の側近に私の考えていることがわからなかったり、行動のクセとか、なかなかわかってもらえなかったりすると、大変です。時間とコストがかかります。
会社とは、ある瞬間は生き物として動いているので、いざ態勢を変える必要があるときに、言うことを聞かない神経があったら困ります。価値観自体は別なほうがいい。
でも、その瞬間は私の価値観を想像できる人のほうが効率ははるかにいいのです。話してわかってもらうというのは想像以上に大変ですから」
イエスマンになる必要はない。ただしトップの、会社の考えを踏まえたうえで動ける人間こそがその「右腕」になり得るのである。
注(1)バイオレンスジャック
1973年連載開始。巨大地震で無法地帯になった関東を支配しようとする男、それを阻む謎の巨人の死闘と、その状況下でたくましく生きる民衆を描いた作品。講談社から復刻版が出ているが、現在は入手困難。
注(2)4000回に近づく「松本大のつぶやき」
1999年から1営業日も休まず4000回弱続けており、現在はアメブロにて掲載。
「ブログというものがない時代から書き続けていまして、メルマガでも70万人に対してつぶやいていました。800字から1000字書いています。この量を書くのが意外と難しい。株主、社員、ときには霞が関に向けて…。ときには『書かないこと』もメッセージ。わかっていただけますでしょうか」
注(3)メガホンマイクほかあえて人前に立ち続ける
「社長が話せば目がキラキラ…なんてことはなく(笑)。表情を見ることが大事。ほかに月一回チャット板でお客様のすべての質問にライブで応えています。参加者全員が見られるので、かなり晒されている状況です」
まつもとおおき 東京大学卒業。ゴールドマン・サックス在籍時の1994年、30歳で同社史上最年少のパートナーに。1999年マネックス証券を設立後、翌年株式上場に導く。2014年、人気キャスター大江麻理子さんと結婚した
構成/文・神田桂一
(FLASH+増刊号2015年5月5日)