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あおり運転、先に110番して「被害者」の立場をゲットせよ
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2019.08.29 06:00 最終更新日:2019.08.29 06:00
衝撃的な「あおり運転」動画をもとに逮捕された、宮崎文夫容疑者(43)。その容疑は、24歳男性を殴打したことなどの「傷害罪」だ。被害者は高速道路上で停車をさせられ、暴行を受けるなど命の危険にさらされた。
だが、今回の量刑は意外にも軽いものになるかもしれない−−。これまで8400件以上の裁判を傍聴してきた、交通ジャーナリストの今井亮一氏は「実刑ではなく、せいぜい執行猶予つきの判決になる」と話す。
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「今回のあおり運転は、『高速道路本線上での駐停車違反』などの交通違反にもあたりますが、より重い傷害罪での起訴になるでしょう。
ただ、宮崎容疑者に懲役の前科があったりすれば、今回も実刑判決が下るとは思いますが、そうでなければ、執行猶予つきの懲役刑にとどまると思います。
今回、それでは世間が納得しないので、検察はほかの場所での道交法違反などでも起訴することを検討しているようですが、大変だと思います」
もともと「あおり運転」という犯罪はなく、「車間距離保持義務違反」や「過失運転致死傷罪」などが適用されてきた。2018年からは厳罰化が進み、より重い罪の適用も視野に入れるよう、警察庁が指示を出した。
今井氏が傍聴してきた8400件以上の裁判データを見ると、被害者の被害状況に対して、被告人の量刑が驚くほど軽いことを実感する。
たとえば、バイクをあおって信号柱に激突させ死亡させた2008年の事件では「危険運転致死」で懲役4年6月。車両を壊し、降車した相手を殴り、怪我を負わせた2015年の事件でも執行猶予つきの判決だ。
「あくまで大雑把な印象ですが、交通トラブルの被告人は、法廷でもえらそうで、隙あらば噛みついてきそうな人間が、ほかの事件の裁判よりも多い気がします。
また、事件の詳細を聞くと、『先に110番して “被害者” の立場を手に入れた者が勝つ』という面もありますね」(今井氏)
ところで、“あおりたがり” ドライバーには、性格などに特有の傾向はあるのか。「交通心理学」が専門の、九州大学大学院システム情報科学研究院・志堂寺和則教授は次のように話す。
「まずは、
(1)男性であること
(2)車が好き
じつは、女性であおり運転をする人はほとんどいないのです。また、そもそも車や運転が嫌いな人はしない傾向にあります。その反対に、
(3)運転に自信がある
自分は絶対に事故を起こさない、周囲より優れていると過度に信じている人や、
(4)常に刺激を欲しがる
スピードが上がって興奮し、攻撃性が増すことで、あおりたくなるということも。一方、
(5)ネガティブ思考で物事を見てしまう
偶然の事象でも『俺への挑発だ』『俺を見下している』などと、状況を悪くとらえてしまいがちな人は危ないです。そして最後が、
(6)弱い者いじめをしたがる
『上司に対してはへつらい、部下に対しては厳しい』という二面性を持つ人です。すべて一概には言えませんが、こういった傾向があります」
自動車ジャーナリストの佐藤篤司氏は、トラブルを避けるために「そういった人物が運転する車に出合ったときの対応が大事」と、次のようなアドバイスをする。
「誤解されるような無駄なクラクションやパッシングをしないことは基本です。それに高速道では、追い越し車線を走り続けないこと。法令でも、『追い越し目的以外で、追い越し車線を走ること』は違反です。
加えて気をつけるなら、運転中は5秒~10秒に1回は後ろを見ることです。後続車は5秒あれば、間近に来ています。そして、追い越しされたとき、相手の顔は絶対に見てはいけません。『ガンを飛ばした』と見られても、おかしくないです。前方車との間隔は2秒。距離でなく時間を空けると、事故も防げます」
それでもあおり運転をされたとき、どう対処するのか。
「あおり運転をする車からは離れましょう。高速でも、ハザードランプを点灯させて路肩に停め、110番通報して大丈夫です。警察に現在地を伝えやすいように、『○○まで▲キロ』の看板付近だとなおよいです。
もし追っかけられ続けたら、サービスエリアやコンビニなど、人が多いところに逃げること。そして、ドライブレコーダーは必須です。ない場合でも、停車時に絡まれたら、スマートフォンで撮影して証拠を残すことはしたほうがいいでしょう」(佐藤氏)
宮崎容疑者があおり運転に使っていたSUVは、「運転席が高く、相手より優位に立つと思いがち」と佐藤氏は話す。
「車体が大きいワンボックスカーで、あおる人も多いです。車は相手を攻撃できる “武器”。人間が運転する限り、あおり運転は永遠になくなりません」
あおり運転から身を守れるのは己れのみ。万全の対策を心がけよう。
【今井亮一氏が抽出した「交通トラブル」裁判23例】
●危険運転致死(裁判時期2008年:被告人26歳男性、自動車・セダン)/懲役4年6月
早朝、一般道で改造したセダンを運転中、29歳男性のバイクに追い越され立腹。執拗に追いかけたあと、幅寄せ。バイクは行き場をなくし、信号柱に激突した。被害者は胸腔内損傷などで死亡。弁護士を3人つけて争った。
●罰金(裁判時期2009年:被告人80歳男性、徒歩)/罰金50万円
歩行中に、18歳男性が運転する車からクラクションを鳴らされ立腹。18歳男性が車から降りて、近づいてきたことから「やられる前にやろう」と思い、右手に持っていた缶コーヒーで殴打。被害者は骨折の重傷を負った。
●傷害(裁判時期2010年:被告人40歳前後の男性、自転車)/懲役2年、執行猶予4年
男が自転車で走行中、右横を車が通り抜けたことに腹を立て、運転手と口論に。運転手が男の逃走を防ぐため、自転車の鍵を抜き取ったことに激昂し、顔面を殴打。被害者は右眼窩内骨折の負傷。男の父親が220万円を支払い示談に。
●傷害(裁判時期2010年:被告人40歳前後の男性、自動車・トレーラー)/懲役2年
トレーラーを運転中、そばを通過した乗用車のサイドミラーが、トレーラーの車体をこすったと立腹。追いかけて乗用車を止め、被害者を殴打、ひざ蹴り。対向車線に転倒した被害者にトラックが衝突し、被害者は多発肋骨骨折などの重傷。
●傷害(裁判時期2011年:被告人35歳男性、自動車)/不明
車の向きを変えるため、コインパーキングに入った際、前の歩道を通りかかった62歳男性の態度が気に入らず、下車して胸を突く。被害者は転倒し、頭を打ち、頭蓋骨骨折、脳挫傷、外傷性くも膜下出血に。高次脳機能障害の恐れも。
●自動車運転過失致死傷※(裁判時期2011年:被告人45歳男性、自動車)/懲役1年4月
高速バスの車線変更に立腹、前方に回り込み、走行車線上にバスを停車させる。そのバスに後方から大型トラックが衝突し、トラック運転手が死亡。民事裁判では前方不注意のため過失割合がトラック「7」、被告人とバスで「3」に。※現在の罪名は「過失運転致死傷」
●暴行(裁判時期2012年:被告人40歳前後男性、バイク)/罰金10万円
被告人がバイクを運転中、乗用車に追い抜かれたことで、執拗に追いかけて停車させる。車から降りた被害男性の肩を手で突く暴行も、裁判では「何もしてない」と否認を続けた。一審判決を不服として控訴したが、東京高裁が棄却。
●殺人未遂(裁判時期2012年:被告人43歳男性、自動車)/懲役7年
運転中の被告人の煙草の灰が、後方を走行中の被害男性の車に入り、被害男性が前方に割り込んで被告人を停車させる。被害男性が、携帯電話で被告人の車を撮影中に急発進。被害男性をボンネットに乗せ、時速50kmで150m走行した。
●傷害致死(裁判時期2012年:被告人52歳男性、自転車)/懲役4年
被告人が妻と2人で歩道を自転車で走行中、3人組の通行人とすれ違った。そのうちの1人、60歳男性から自転車を蹴られたと感じ、口論から喧嘩に発展。被害者に馬乗りになり首を絞め続け、そのまま被害者は頸部圧迫で死亡。
●道交法違反、傷害(裁判時期2012年:被告人35歳男性、バイク)/懲役1年6月、執行猶予4年
飲酒してバイクを運転中、タクシーが客を拾うために急ブレーキをかけたのを見て激昂。タクシーを追いかけ、前に回り蛇行運転。ドアを蹴ったほか、タクシー運転手を殴打、運転手の頭を路面に何度も叩きつけ重傷を負わせる。
●傷害(裁判時期2012年:被告人47歳男性、自転車)/罰金10万円
深夜、65歳男性が乗用車を運転中、蛇行する被告人の自転車が前方から近づく。男性が「危ないですよ」と声をかけると、自転車をこいでいた男が激昂。車の窓ガラスを割ったうえ、エンジンキーを抜き、男性を殴打、膝蹴りした。
●傷害(裁判時期2012年:被告人39歳男性、自動車)/懲役2年6月、執行猶予3年
20代男性2人がバイク2台で走行中、後方から車で来た被告人が信号待ちで「喧嘩売ってんのか」と激昂し、バイクのキーを抜く。男性らは110番通報。被告人は車を発進、男性1人の右足指を轢き、もう1人を300m引きずる。
●傷害(裁判時期2013年:被告人39歳男性、自転車)/懲役1年2月
被告人が女性と2人で、2台の自転車に乗り、道路左側を走行中、後方から34歳男性のバイクが接近。自転車は蛇行気味になり、クラクションを鳴らされたことに激昂。バイク男性を殴打、転倒させ、サインペンで顔を複数回突き刺す。
●暴力行為等処罰法違反(裁判時期2014年:被告人70代男性、自動車)/懲役10月、執行猶予3年
被告人が車を運転中、前方の車が道路をふさいで停車し、66歳男性が近づいてきた。男性が激昂していたため、被告人は持っていた折りたたみのこぎりの刃を開き、「俺を誰だと思ってんだ」と振り上げた。裁判では罪状を否認。
●暴行(裁判時期2015年:被告人46歳男性、自動車・トラック)/罰金15万円
早朝、大型バスの運転手が、バスを追い越していったトラックを運転する被告人に「バスの車体とトラックのミラーが接触した」と怒鳴られた。バス運転手が否定すると、被告人に「ふざけんじゃねー」と胸ぐらを掴まれる。
●暴行、道交法違反(裁判時期2015年:被告人40歳前後男性、自動車)/罰金40万円
免許停止中の被告人が、車を運転。狭い道路ですれ違い、トラブルになり相手に文句を言ったところ、言い返されたことに立腹。相手の首元を掴んで、激しく揺さぶる暴行。被害男性は、丸刈り頭で巨体の被告人に、恐怖を覚えたという。
●器物損壊、傷害(裁判時期2015年:被告人46歳男性、自動車)/懲役1年、執行猶予3年
「割り込みをされた」と文句を言おうとしてトラブルに。相手車両のドアミラーを蹴り壊し、降車した相手を殴打。さらには、急発進して逃げる際、窓枠を掴んだ被害者を振り落とし、全治20日間の打撲擦過傷などの傷を負わせる。
●暴行(裁判時期2017年:被告人51歳男性、自転車)/罰金10万円→控訴審で罰金5万円
被告人が乗る自転車が斜め横断しそうに見えたとして、タクシーがクラクションを鳴らしたことに激昂し、「プロなら鳴らすな!」とタクシー運転手に暴行。控訴審ではクラクションを鳴らしたこと自体は違法だとして、一審判決を破棄。
●暴行(裁判時期2017年:被告人50代男性、自動車)/罰金20万円
被告人の運転を注意しようと、ヘルメットをかぶったバイクのライダーが運転席の窓ガラスをノック、車の前に立ちはだかった。男はバックした後に急発進した際、車体をライダーに「押し当てた」とされ、暴行と見なされる。
●傷害致死(裁判時期2018年:被告人24歳男性、バイク)/懲役5年6月
被告人がバイクで信号待ちしていたところ、突然46歳男性が立ちふさがり、「ミラーがぶつかっただろ」と大声を発した。男性がバイク後部を掴むが、そのまま発進。14m先で男性は手を放し、対向車の大型貨物に頭部を轢かれ死亡した。
●傷害、暴行(裁判時期2018年:被告人50歳男性、自動車)/懲役6月、執行猶予3年
被告人が運転する車を、バスがクラクションを鳴らしながら、道路左側から追い抜いた。そのことに腹を立てた被告人はバスを追いかけてトラブルになり、バス運転手の顔を殴打。殴られた被害者は全治10日の怪我を負った。
●傷害(裁判時期2019年:被告人39歳男性、徒歩)/罰金40万円
歩行中の被告人は、前方から自転車が2台来るのを見ると、「1台めが横をすり抜けたときイラッときて、もう1台がすごいスピードで来たときもイラッときた」という。そうして、被告人は2台めの自転車を蹴って横転させる。
●暴行(裁判時期2019年:被告人61歳男性、徒歩)/罰金20万円
出張先の新潟で飲酒した会社員の被告人が、車道に傘を投げ、車を停車させて横断しようとした。停車させられた運転手が激怒、双方が興奮して喧嘩に。被告人は車の窓から、傘を突っ込むと、運転手の唇付近に当たった。
(週刊FLASH 2019年9月10日号)