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全米ベストセラーで日本の伝統工芸「金継ぎ」が使われた深いワケ

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2019.09.26 11:00 最終更新日:2019.09.26 11:00

全米ベストセラーで日本の伝統工芸「金継ぎ」が使われた深いワケ

『KNOW MY NAME』

 

 全米で話題の本が発売になった。タイトルは『KNOW MY NAME(名前を知って)』、著者はシャネル・ミラー。2015年、スタンフォード大学で起きたレイプ事件の被害者だ。

 

 この事件は名門大学構内で起きたこと、加害者ブロック・ターナーがオリンピックを視野に入れるほどのエリート水泳選手だったこと、担当判事が同大学出身の白人アスリートだったため、判決が実質3カ月の服役と軽かったことなど、当初から世間の注目を浴びていた。
 

 

 なにより話題となったのが、裁判で被害者が読み上げた陳述書だ。内容が衝撃的で胸を打つものだった。ターナーへのメッセージとして、「あなたは私を知らないでしょう」という一文から始まる。

 

 担架で目覚めた彼女は傷だらけで大量の枯れ葉にまみれ、自分がレイプの被害者であるという事実しか知らされされなかった。事件の詳細や犯人についての情報は、数日後にニュースで知る。

 

 報道後の悲痛な思い、事件後に一変してしまった家族との様子、保身に走るターナーへの冷静な言葉、世の中の女性達へのメッセージなどを切々と綴っている。

 

 この文章が瞬く間に話題となり、当時のバイデン副大統領やヒラリークリントンらがすぐにコメントを寄せた。さらにニュースキャスターや政治家、女優たちなどが、さまざまな場で彼女の文章を読み上げ、後の#Me Too運動に多大な影響を与えた。

 

 シリコンバレーの家々の庭には判事の解任を求める看板がいくつも並び、やがてレイプ犯の拘留に対するカリフォルニア州法は厳罰化され、判事は76年ぶりに罷免された。

 

 当初、自分の身分を公開しなかった被害者が、実名で書いた回顧録が『Know My Name』なのだ。アメリカの出版業界で最も権威あるとされるニューヨーク・タイムズが発売前から記事にし、人気番組『60ミニッツ』が特集を組んだ。

 

 ミラーさんはスタンフォード大学のすぐそばで育った中国人ハーフの女性。発売日、近所の書店は目立つところに彼女の著書を並べた。一方、スタンフォード大学構内の書店は目立つ場所での陳列がなく、まるで事件から目を背けたいかのような光景に見えた。ただ、書店から出てすぐの広場には学生たちが手作りのチラシを並べ、ミラーさんを支持する運動を展開していた。

 

スタンフォード大学の構内

 

 実は、この本に関して特筆すべきなのが、表紙に日本の「金継ぎ」をイメージしたデザインがあしらわれたことだ。

 

 すき焼き、芸者に始まり、寿司、カラオケなど英語ネイティブにそのまま伝わる日本文化は数知れない。着物、過労死なども最近話題になったし、Sudoku(数独)などむしろ日本人の方が知らないような言葉も広く普及している。

 

 すでに普通の名詞では飽き足らず、解説が必要な少し深い言葉もうんちく付きで広がっている。「旨味」は5番目の味覚と叫ばれ、“ウマミスパイス”がスーパーの棚に並び、ウマミバーガーが人気となった。

 

 そして、次なる流行語として、知識人が目をつけた日本文化が「金継ぎ(ゴールデンリペア)」である。壊れた部分を補強し、それをあえて強調することで、新しいものを作り上げるという日本独特の感性が共感を呼んでいる。

 

 ミラーさんが事件から立ち直って強くなっていく姿を、日本の芸術になぞらえたのだ。

 

 本の裏表紙、ミラーさんのプロフィールの下には金継ぎの解説文が添えられている。使い捨て文化がはやる昨今、金継ぎされた物を見る機会はほぼなくなっている。直した部分の景色を楽しむなど、日本文化の奥深さをこの本によって再発見させられた。

 

 外国人の理解力は日本人の想像よりも深い。

 

(写真・文/白戸京子)

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