社会・政治
税金の無駄ではなかった…「巨大ハコモノ」台風19号から日本を救う
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2019.10.24 11:00 最終更新日:2019.10.24 11:00
10月13日、ラグビー日本代表がスコットランド代表を撃破し、W杯8強入りを決めた舞台・日産スタジアム(横浜市)の周囲は、その数時間前まで冠水していた。
「競技場周辺は遊水地ですから、当然です。あまり知られていませんが、国土計画上は、スタジアムのある窪地は川なんです」
こう話すのは、岸由二・慶應大名誉教授だ。
【関連記事:写真で検証「台風19号」被災地に広がる苦悩の声】
遊水地は、ふだんは競技場の駐車場などとして使われている。スタジアムは、柱に支えられる「高床式」で、遊水地の水が流入することはないという。日産スタジアムが、台風19号の大雨による鶴見川の氾濫を、未然に防いでいたのである。
「鶴見川流域には、日産スタジアムのほかにも、多くの遊水地があります。ふだんは水を抜いてありますが、災害のときだけ水を入れるのです。川の流域にある団地などにも、調整池があります。その数は、4900カ所。国と自治体が、流域全体の問題として取り組んだ結果です」
じつは、台風上陸前にもっとも危惧されていたのは、東京都東部の大水害だった。“首都水没” は、日本の破滅に直結する。その最悪のシナリオを回避できたのはなぜか。
「大きな要因は2つ。台風の進路と治水対策の結果です」
こう語るのは、リバーフロント研究所技術参与の土屋信行氏。元東京都職員で、長年、治水対策に関わってきた。
「東京都東部には、低い土地に何本も大河川が流れています。しかし、上流にダム、中流には調節池や遊水地、下流にも放水路など、幾重にも対策がとられているんです」(土屋氏)
そのひとつが、2009年、“ハコモノ” と揶揄され、民主党政権時代に無駄な公共事業の象徴として批判を浴び、事業中止で注目を集めた「八ッ場ダム」だ。
「江戸川上流の八ッ場ダムは、完成直後で、試験湛水を始めたところでした。台風上陸後には、ほぼ満水になり、約1億トンの雨水をここで受け止められた。
しかし、もし本格運用が始まり、水がすでにためられていたら、今回の雨量を受け止めることはできなかった。幸運だったといえます」(同前)
さらに、建築マニアからは “地下神殿” と呼ばれる「首都外郭放水路」も活躍していた。埼玉県春日部市などを走る国道16号線の直下約50mの深さに設けられた放水路で、利根川水系の中小河川の水を、江戸川に放水するための施設だ。地下放水路としては世界最大級の規模を誇る。
「放水路は5つの川から水を取り込めますが、今回すべて同時に取り込んだのは稀な状況です」(江戸川河川事務所)
“地下神殿” が10月12日から15日にかけて江戸川に排出した水は、50mプール約8000杯ぶん、東京ドームなら約9杯ぶんという途方もない量だ。
東京都内でも、「神田川・環状七号線地下調整池」が威力を発揮していた。
「台風直撃後は49万トン、最大貯留量の9割まで水がたまった」(東京都第三建設事務所)というから、ぎりぎりの攻防だったのだ。
日本列島を襲った台風19号は、死者80人以上、全国60以上の河川で堤防を決壊させる甚大な被害をもたらした。「税金の無駄」と揶揄された「巨大ハコモノ」たちは、たしかに首都圏の破滅を防いだ。
しかしその力をもってしても、被害をゼロにはできなかった――。
(週刊FLASH 2019年11月5日号)