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中国企業の1.5倍…シリコンバレーで存在感を見せる日本の投資
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2019.12.11 06:00 最終更新日:2019.12.11 06:00
シリコンバレーの一角にある小さなお店で、日本人女性数名を集めた小さなイベントが開催された。Ruti(ルティ)というブティックは、35歳以上の女性を対象としたファッションブランドだ。
テクノロジー企業の役員だったルティ・ジッサーさんが、自らデザインした服の販売を始め、10年間で10店舗を展開する規模になった。
この会社が先日、ベンチャーキャピタルから600万ドルの資金を得た。ルティの特徴は可能な限り、個人対応してくれる点だ。
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この日は、社長や他店から駆けつけたスタッフが、日本人とほぼ同人数でコーディネートを手助けしていた。シンプルなTシャツでも100ドルを超える価格設定だが、クオリティが高く、個性的で品のいいデザイン、さらに年齢を重ねた女性のスタイルをよく見せる工夫もあり、女性たちの財布の紐はゆるみがちだ。
顧客の8割がリピーターだとルティさんは語る。客にはパーソナルスタイリストがつく。日本人は普段からおしゃれでファッション意識が高く、ルティのコンセプトとの相性がいいと言う。
ルティはAIプラットフォームに力を入れており、顔認証システムで顧客管理している。客の来店時に、店員はすぐに誰が来たか把握できるシステムだ。
過去に買った服や会話から好みを割り出し、顧客の意見もデータベース化して、次のデザインに生かす。この日も店員が記念撮影風に女性たちの写真を撮影し、データを集めていた。
今後は伸びているオンライン販売にも力を入れていくと言う。
あるベンチャーキャピタルが大企業に行ったアンケートによると、シリコンバレーで展開するイノベーション拠点の4分の1近くが日系企業だった。情報収集やスタートアップ企業への投資が目的だ。
先日、大赤字の投資で世界を騒がせたソフトバンクの他にも、大手資本が50社ほど進出してきている。ソフトバンクが牽引し、出資額も日本は今年249億ドル。2位の中国の160億ドルを大きく引き離し、数でも資金力でもダントツとなっている。
日本政府は来年度にも「オープンイノベーション促進税制」を創設し、海外への出資も含め、大企業の投資を後押しする方向だ。
シリコンバレー全体には今年560億ドルの資金が集まっているそうだ。現地では投資家や起業家の数が増えており、双方をマッチングさせるため、さまざまな試みが行われている。
起業家や投資家を集めてイベントや勉強会を催し、パーティーやアクティビティなどの交流機会を与えたり、駆け出しの起業家にオフィスを提供し、そこをベースにしたネットワークを作ったり。日本人同士の交流を促進しようとしている団体もある。
中国マネーとつながりの深いF50というベンチャーキャピタルでは、新興企業に対してアクセラレータープログラムと呼ばれる支援をしている。
オーディションで選ばれた応募者に指導者をつけ、さまざまなトレーニングを行う。内容は多岐にわたっており、資金集めの計画書作成や宣伝動画の作成、投資家訪問、海外視察旅行まで用意されている。
先日のカンファレンスにはヨーロッパやアジアからの投資家を含む約700名が参加した。およそ200社の応募のなかから選ばれた8社の中に日本企業が勝ち残っていた。
POSH WELLNESS LABORATORY株式会社というヘルスケア関連の会社で、ドライバーの健康状態をモニターし、AIでシートベルト内蔵型のセンサーを解析する仕組み。今週末の卒業イベントに合わせ、投資家との交渉を続けているという。
F50のイベントに日本の会社が残ったのは、今回が初めてだ。投資する側ではトップに立った日本だが、投資を受ける側では、まだ存在感が薄い。お金の話を避けたがり、人前で派手にアピールしない日本の国民性が、こんな点にも現れているのかもしれない。
(写真・文/白戸京子)