沢尻エリカ被告(33)が、11月16日に合成麻薬MDMA所持容疑で警視庁に逮捕された事件は、安倍政権による「桜を見る会」の疑惑隠しだ――。そんな「陰謀論」が一部で囁かれている。
鳩山由紀夫元首相は、11月18日にツイッターで「政府のスキャンダルを覆い隠すのが目的」と断言。タレントのラサール石井も、11月16日のツイートで、こうつぶやいている。
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《まただよ。政府が問題を起こし、マスコミがネタにしはじめると芸能人が逮捕される。これもう冗談じゃなく、次期逮捕予定者リストがあって、誰かがゴーサイン出してるでしょ》
しかし、そんなことが本当にあり得るのだろうか。本誌が識者5人に聞いた。
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●判定人(1)ジャーナリスト・青木理氏
「国家や政権の意向を背景に発動されるのが国策捜査。バブル崩壊後に、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の経営陣が逮捕されたのは典型だろう。
『破綻銀行に多額の公的資金を投入するのか』と怒る世論を納得させるための捜査で、いずれの経営陣も最終的に無罪が確定した。沢尻さんの事件はその意味での国策捜査とは言えず、“疑惑隠し” と囁かれるのは陰謀論に近いと思う。
ただ、現政権下では甘利明氏の収賄疑惑にせよ、森友問題の公文書改竄にせよ、本来なら捜査すべき案件でも、捜査機関が政権を忖度して、“国策不捜査” 状態に陥っている。
結果として政権が長期化しているため、陰謀論的な見方も出てくるのだろう。そういう点では、政権と捜査機関の姿勢にも大きな問題がある」
●判定人(2)元文部科学次官・前川喜平氏
「警察も検察も官邸の意向次第で動く、そういう組織になっていることを感じています。いまの黒川弘務・東京高検検事長など、官邸のイエスマンですよ。
警察にしても、警察庁の中村格官房長は、例の伊藤詩織さんのレイプ事件の逮捕状執行を止めた人間です。重大な犯罪でも見逃すし、遂に小さな犯罪で都合のいいときに捕まえることもできてしまう。
そう考えると、沢尻さんの件も疑惑隠しという可能性は否定できないでしょう」
●判定人(3)元東京地検特捜部副部長・若狭勝氏
「あり得ないですね。政治問題を隠すための逮捕や捜査は、特捜部だけではなく、警察でも、そういうことはあり得ない。
仮に『国策捜査』というものがあるとしましょう。それは、国の政策という大きなものを実現するためで、それならあり得なくはない。
ただ「桜を見る会」のような、その程度の話で、ひとつの事件を仕立てるというのは、私の感覚ではあり得ないことです。『この事件をやってくれ』という指令が官邸サイド、法務省などから特捜部に来ることはありませんでした」
●判定人(4)元特捜検事の弁護士・高井康行氏
「あまりにくだらなすぎて、コメントする気にもならない。沢尻さんが逮捕された事件は、国策捜査という次元とはまったく違うでしょう。
そもそも、有名人を逮捕するときでも、ぎりぎりまで上には(情報を)上げない。警視庁トップの警視総監さえも知らないもの。せいぜい『明日やります』と、報告するぐらいのことなんですよ」
●判定人(5)元特捜検事の弁護士・郷原信郎氏
「常識的には考えづらい。警察にせよ、麻取(麻薬取締官)にせよ、芸能人を薬物事犯として逮捕するチャンスなど、そうそうあるものではない。
社会的反響が大きいだけに、まずは確実な証拠があり、さらに慎重に捜査を続け、これだというタイミングで逮捕するものだ。
確かに今回の件では、沢尻被告の体から薬物反応が出なかったこともあり、警察のやり方が乱暴だという違和感を感じないわけではない。とはいえ、上から『このタイミングで逮捕しろ』と言われて、できるものではないということだ」
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「沢尻逮捕は疑惑隠し」。そう考えるかどうかは、現政権に対するスタンスでも違ってくるのかもしれない。沢尻被告は、勾留期限となる12月6日、麻薬取締法違反の罪で起訴、保釈された。本人は、どう考えているのだろうか――。
(週刊FLASH 2019年12月24日号)