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【1940年、幻の東京五輪】(6)スキーのない札幌五輪!?万博とともに五輪返上が決まる痛恨

社会・政治 投稿日:2016.06.16 15:00FLASH編集部

【1940年、幻の東京五輪】(6)スキーのない札幌五輪!?万博とともに五輪返上が決まる痛恨

紀元二千六百年記念日本万国博覧会(東京朝日新聞創刊50周年記念絵はがきより)

 

 1938(昭和13)年7月15日、紀元二千六百年を記念した日本万国博覧会の延期とともに、オリンピック東京大会の返上が閣議決定された。

 

 また、札幌冬季大会実行委員会も、札幌大会の中止を東京の組織委員会に連絡。この瞬間、1940(昭和15)年に計画されていたビッグイベントの息の根は完全に止まったことになる。

 

 これらの延期・返上の理由は、いずれも日中戦争激化の「時局に鑑みた」というもの。確かに1937(昭和12)年あたりからは、日中戦争を筆頭に国際情勢が緊迫。

 

 政友会の河野一郎代議士もオリンピック開催は不可ではないかという趣旨の質問を、首相の近衛文麿や陸軍大臣の杉山元に対して執拗に投げかけていた。

 

 戦争長期化によって各種物資の統制が始まり、競技場などの建設に使用する鉄材についても締め付けが厳しくなった。これではオリンピック開催は極めて困難だ。しかし、果たしてそれだけがオリンピック返上の理由だったのだろうか。

 

 そもそも、1940年に東京オリンピックと万国博覧会を一緒にやろうという発想がまずかった。この両者を同時に開催した事例は過去に2度ほどあったが、実はどちらもオリンピック側にとっていい結果になっていなかった。

 

 1900(明治33)年のパリと1904(明治37)年のセントルイスがそれだ。いずれもオリンピックは万博の「添え物」と化し、進行も混乱した。

 

 そのせいで、IOCもバイエ=ラトゥール会長もオリンピックと万博が同年に開催されることを異常に嫌がっていたのだ。この点、日本側は終始認識が甘かったといわざるを得ない。

 

 この問題は東京大会招致の当初から問題化しており、招致決定後もずっとIOC委員たちの間でくすぶっていた。

 

 結局、東京大会と万博の会期がだぶらないことを小橋一太東京市長が確約することで解決を見たのは、1938年5月のこと。そんなギリギリの時期に至るまで、この万博との会期問題はもつれにもつれていたのである。

 

 札幌冬季五輪の方でも、当初からの国際スキー連盟(FIS)とIOCとの対立がそのまま持ち越されていた。スキー教師はアマチュアではないので出場を認めないとするIOCは、FISに対して妥協する姿勢をまったく見せなかった。

 

 日本側としては札幌大会と平行して別にスキーの国際大会を開くことも考えていたが、それもIOCから却下。結局、札幌大会は「スキーなし」と決定してしまった。仮に返上とならずとも、とても成功するとは思えない状況だったのだ。

 

 これらの問題が討議された1938年3月のIOCカイロ総会は、紛糾に紛糾を重ねた。すでに日中戦争は泥沼化しており、イギリスなど各国が日本に厳しい目を向けていた。

 

 これらの国々によるボイコットも懸念されていたため、総会直後にはバイエ=ラトゥールIOC会長が水面下で日本に五輪辞退を求めたりもしていた。東京五輪は、この時点ですでに「満身創痍」だったのである。

 

 カイロ総会に参加したIOC委員の嘉納治五郎や副島道正は、会期中まったく気の緩むときがなかっただろう。それが祟ったのか、嘉納治五郎は帰国途上の1938年5月4日に帰らぬ人となってしまう。高齢に長旅、さらにカイロの炎天と来て心労が重なれば、それも無理のないことだったかもしれない。

 

 だが、ここまで東京五輪を引っ張って来た「功労者」嘉納の退場は、このイベント全体に計り知れない衝撃を与えた。

 

 さらに追い打ちをかけたのが、万博プロジェクトの頓挫である。日本側スタッフの手違いや段取りの悪さから、この万博は博覧会国際事務局(BIE)の公認を取り付けることが難しくなってしまった。

 

 仮に無理に開催を強行したとしても、めぼしい国々が参加してくれそうにない。この絶望的な状況から、万博は「時局」を理由に延期を決めた可能性が高い。そして、当初から万博とワンセット化されていた東京五輪が、その「道連れ」となったとも考えられる。

 

 五輪と万博の同年開催が決まった時点で、この悲劇は決定づけられていたのかもしれない。

(了)


 

<著者プロフィール>

夫馬信一 1959年、東京生まれ。1983年、中央大学卒。航空貨物の輸出業、物流関連の業界紙記者、コピーライターなどを経て、書籍や雑誌の編集・著述業につく。主な著書に『日本遺構の旅』(昭文社)、『ヴィンテージ飛行機の世界』(PHP研究所)など。今年1月発売の『幻の東京五輪・万博1940』(原書房)は、9年の歳月を費やし札幌、大阪、長崎など全国各地への取材を経て完成した。

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