五輪の体制には、根本的に変えねばならないこともある。
「そもそも、暑くて湿度も高い8月に、東京でオリンピックを開くこと自体が無理難題です。では、なぜ8月に決まったのでしょうか。それは、アメリカの3大ネットワークのひとつ、『NBCテレビ』が放映権を握っているからです。
NBCが1局で、アメリカのオリンピックの放映権を独占的に取得しています。そして、IOC(国際オリンピック委員会)の運営資金の約4割は、NBCの放映権料で成り立っているのです。
さらにアメリカでは、アメリカンフットボールやバスケットボールが人気ですよね。こうした競技が『シーズンオフ』である8月にオリンピックが開かれることは、NBCにとって都合がいいわけです。
IOCも、スポンサーであるNBCの言うことを聞かざるを得ません。8月開催は『アスリート・ファースト』ではなく、『スポンサー・ファースト』で決まったのです。
オリンピックが商業主義化したのは、1984年のロサンゼルス大会からです。その2大会前、1976年に開催されたカナダのモントリオール大会は、今の貨幣価値で約1兆円という莫大な赤字を出してしまいました。
この借金は、モントリオール市とケベック州が負い、返済が終わったのは開催から30年後の2006年でした。これを見ていたほかの都市は尻込みし、なかなか開催地に立候補しなくなったのです。
そこで、8年後に開催されたロサンゼルス大会では、民間企業が大会を運営し、莫大な放映権料や公式スポンサーをつけるようになりました。以来、『オリンピックは儲かる』とばかりに、商業化がどんどん進んでしまったのです」
いまの日本では、五輪があるたびに人々が熱狂している。
「『なぜ日本は、国を挙げてオリンピックに熱狂するのか?』と、外国人から聞かれることがあります。
先ほど申し上げたように、アメリカはNBCの独占放送ですし、イギリスでも、オリンピックを放送するのは、公共放送であるBBCのスポーツチャンネルだけです。ほかのテレビ局は一切、オリンピックにふれません。1局だけの独占中継なので、国を挙げて熱狂することにはならないんです。
日本は、NHKと民間放送連盟が『ジャパンコンソーシアム』という機構をつくり、各局が分担して放送します。それで結果的に、“オリンピック一色” になってしまうのです。
そもそも、外国では日本ほど、オリンピックに関心を持たれていません。サッカーなら、ワールドカップのほうが、はるかに価値は上です。オリンピックはU-23、つまり23歳以下の選手が主ですからね。
野球だって、メジャーリーグの一流選手は出場しませんよね。オリンピックは、必ずしも最高レベルの戦いではないのです。
海外と比較すると、日本は『オリンピック至上主義』みたいなところがあります。オリンピックのためなら、なんでも許されるようなところがある。実際、テコンドーなど、さまざまな競技でパワハラ問題が起きたりしています。
もちろん、私だってオリンピックを見るのは大好きだし、表彰台で日の丸が上がれば嬉しい。ですが、もうちょっと冷静になってもいいんじゃないでしょうか」
いけがみあきら
1950年生まれ 長野県出身 慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。報道局記者などを経て、1994年から『週刊こどもニュース』編集長(お父さん)を11年務め、2005年に独立。各メディアで活躍するほか、東京工業大学リベラルアーツセンター特命教授を務める
(週刊FLASH 2020年1月7・14日号)