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ISに徹底抗戦「クルド人スナイパー」が戦場で見た銃声ルポ

社会・政治 投稿日:2020.01.14 16:00FLASH編集部

ISに徹底抗戦「クルド人スナイパー」が戦場で見た銃声ルポ

 

 2011年に勃発したシリア内戦が拡大し、ISが故郷に迫るなか、あるクルド人青年は10年ぶりに帰還して、抵抗運動に加わった。狙撃の腕を買われ、少数精鋭のスナイパー班の一員となった男の手記を独占公開!

 

 

 毎日、猛攻撃があった。この町を救うために結束していたが、死者があまりにも多いため、戦っているのか共に死のうとしているのかわからなくなるほどだった。

 

 

 2014年11月上旬のある日、路地を渡っていた私は、廃墟から出てきたハイリとばったり会った。あごひげが少し伸びていたものの、いつものスカーフを首に巻いて、相変わらずこざっぱりして見えた。

 

 この1カ月間、彼は、1キロメートル離れた隣の戦線で守りについていたのに、一度も会ったことはなかった。配置転換になったのだ。私たちは顔を見合わせた。片手をドラグノフ(狙撃銃)にかけ、引き金を引くほうの手をポケットに突っ込んだハイリがにっこり笑った。

 

「万事順調か、ハイリ?」
 私は言った。
「ああ、いいよ、順調だ。あんたは?」
 私は元気だと答えた。

 

 ハイリがポケットに入っている金属の何かをいじった。取り出したのは、たくさんのM16の弾丸だ。奪還したアパートでそれを見つけたという。
「寝室の床に落ちていた」
 死んだ仲間のものか、彼が殺したジハード戦士のものかわからないと言う。

 

「使えばいいよ」
私は言った。
「ちょうどいい」
「あんたは要らないんだな?」

 

 もうしばらく立ち話してから別れた。あのとき話した一語一句をほとんど覚えている。誰かに会うたびに、二度と会えなくなった場合にそなえて、頭にも胸にも刻みつけておこうとした。何が原因で死ぬかはわからない。私の傷はまだひりひりして血がにじんでいるが、傷口は閉じつつあった。

 

 しかし、誰もが疲労の限界にあった。わずかな食べ物だけを口にして2カ月を過ごしたいま、皮膚はシーツのように骨に張りつき、目は落ちくぼんでいる。疲れが精神をむしばみ、身体は休まらない。

 

 ある夜、自分の陣地で丸くなって寝ていたとき、はっと目が覚めた。心臓がばくばく鳴っていた。てっきり撃たれたと思った。全身を確認すると一つの怪我もなかった。さっき感じたのは、負傷したのではなく、筋肉が記憶していたRPG(対戦者ロケット弾)の衝撃だったのだ。これに数カ月悩まされた。

 

 集中するため、私は任務以外のすべてを切り捨てた。計画、監視、射撃、銃の掃除、組み立て、潜伏、偽装、呼吸、抵抗。これが私の人格となった。ライフルは、揺るぎない機能を持つ機械だ。速く、威力があり、必要なときだけ口を開く。ライフルと正しく向きあい、それと友であり同志であるためには、私も同じものになる必要がある。ただ存在し、動く。

 

 私は頭をからっぽにし、口を開かずに何日も過ごした。話すことがなかったのではない。それを表現する別の方法を見つけたのだ。

 

 11月中旬、ISは新戦法を導入した。それは、私たちの抵抗へのいらだちを物語るものだった。ある日の午後、私は、壊れた建物の最上階の「巣(ネスト)」で新しい穴をこしらえていた。

 

 5メートルもの巨大な亀裂のある壁の後ろでどうすれば安全かを考えていたとき、突然壁の亀裂が爆発して破片が飛び散った。防御線のあたりから巨大な爆竹のような音が聞こえ、空気を揺らす衝撃音が数秒続いた。

 

 直後、無線で助けを呼ぶ悲鳴が次々と上がった。調べにいくと、全部の陣地がやられていた。どこの陣地の床も血だらけだった。仲間は私を押しのけて、負傷者と死者を運び出した。どうしてこうなった?

 

 ISの指揮官が配下全員にすべての銃を発射せよと命じたのだと、私たちは結論づけた。敵は戦線全体に一斉攻撃をかけたのだ。その攻撃により、仲間の男女10人が死んだ。30人が負傷した。

 

 同時に多くの弾が発砲されたため、あり得ない弾道のものがいくつかあった。あるチームの指揮官は、数百メートルの距離を飛んできて壁の穴を抜け、2つの土嚢のすきまを抜けた弾に額を撃たれて死んだ。

 

 隊員の多くの者にとって、ISの新戦法は新たな悩みの種だった。だがヘルデムは、それを利用すればいいと考えた。ISの戦法をそのままやつらに向けて使おうと彼は提案した。もっと徹底的に、戦線だけでなく町全体に彼らが開けた穴に弾をぶち込んでやろうぜ。

 

 4日後、私たちは、持てるすべての銃で、事前に決めておいた無線の合図で射撃を開始した。私もマガジンをいくつも空にした。すさまじかった。大勢のジハード戦士を殺し、さらに多くを負傷させた。

 

 戦線の向こうから、悲鳴やうろたえた叫びが聞こえた。2~3日後に再度行なった。さらに2度。ISがその戦法を2度と使わなかった理由はわからない。でも、それを拝借できて嬉しかった――。

 

 

 以上、アザド・クディ著、上野元美訳『この指がISから街を守った クルド人スナイパーの手記』(光文社)をもとに再構成しました。1万2000人のジハード戦士に対抗した2000人の志願兵たちの記録です。

 

●『この指がISから街を守った』詳細はこちら

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