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ハリー王子夫妻の王室離脱、イギリス人が激怒する6つの理由

社会・政治 投稿日:2020.01.19 16:00FLASH編集部

ハリー王子夫妻の王室離脱、イギリス人が激怒する6つの理由

写真:AFP/アフロ

 

 イギリスのハリー王子とメーガン妃が「王室主要メンバーの立場から退く」と離脱宣言したことが、イギリスで大騒動になっている。さまざまな物議をかもしてきたハリー夫妻だが、今後はイギリスと北米を行き来し、財政的に自立しながら生活していくという。

 

 王室内で事前の相談はなかった。1月8日に行われた突然の発表を受け、13日にはエリザベス女王らと緊急で話し合いがもたれた。最終的に、夫妻の希望は全面的に受け入れられたが、イギリス国民たちからは非難の声が巻き起こっている。

 

 

 日本人にはわかりにくいその背景を、イギリス在住の著述家・谷本真由美さんに聞いてみた。ざっくりいえば、イギリス人がこの問題に激怒するのは6つの理由があるという。

 

■あまりにも税金の無駄遣い

 

「イギリスの王室は、自分たちの広大な土地を持っています。それを一般人や役所に貸すことで、毎年莫大な家賃が入ってくる。そんな大金持ちの地主なのに、国の象徴で君主なので、警備代や建物の維持などに、莫大な税金が投入されています。

 

 イギリス人にとって、王室というのは公園や高速道路のような『公共物』という意識です。公共物というのは、みんながお金を出しあって作り、使うものですから、その役割を果たさないのは『けしからん』となる。王室の役割は、イギリスという国の広報みたいなものなので、ちゃんとその責務を果たすべきだと多くの人が考えるんです。
 

 イギリスは税金が高く、国民は非常にお金に細かい。だから、王室の動向に辛口の人が多いんです。この夫妻は、今までどおりにお金は欲しいけれど、公務はやりたくない、カナダに引っ越して好きなように暮らしたい、と超わがままなことを言っている。それは国民も怒りますよ」

 

■軍人蔑視ともとれるハリー王子の行動

 

 ハリー夫妻が離脱を発表した後、新たに問題が発覚した。

 

「ハリー王子はエジンバラ公から海兵隊元帥の地位を引き継いだので、イギリス海兵隊の一番偉い人になります。イギリスの海兵隊は、特殊任務など危険な仕事をするため、犠牲者もかなり出るんです。イギリスはIRA(北アイルランドの分離独立派)のテロに長年悩まされていて、海兵隊も爆弾テロで11人が亡くなっているんです。

 

 それなのに、ハリー夫妻は慰霊祭に出席せず、ディズニーの『ライオンキング』の試写会に行ってしまった。
 しかも、ハリー王子は、試写会の会場でディズニーの社長に『うちの妻が声優をやりたいって言ってるんで、よろしく!』と直営業しちゃったんです。この話が、離脱発表の直後にニュースになりました。

 

 イギリスは、日本よりもはるかに軍人が尊敬される国です。この一件は、軍人だけではなく、テロの犠牲者や一般の人の相当な怒りを買いました。これって、日本に置き換えると、東日本大震災やオウム事件の慰霊祭を皇室の方々が無視して、スタジオジブリの上映会に出席、そこで宮崎駿監督に声優になりたいって直営業する感じなんですよ」

 

■アメリカ人への批判的な国民感情

 

 メーガン妃はアメリカのロサンゼルス生まれ。両親は6歳のときに離婚し、以来母親に育てられながら、女優の道を目指した。2002年にデビューし、2011年からはテレビシリーズ『SUITS』でメインキャストとして活躍。同年、映画プロデューサーと結婚したが、2013年に離婚している。

 

「そもそもイギリス人は、アメリカ人があんまり好きじゃない。イギリスから見たら、アメリカって分家扱いなんです。でも、その分家は本家よりお金を持っている。お金が好きなイギリス人にとって、それだけで気に入らないんです。

 

 しかも分家は礼儀もなく、伝統への敬意も皆無。話し方、金銭感覚、人間の距離、ユーモア……そうした物の考え方すべてが気に食わないと感じている人が多い。

 

 そこに、全然ロイヤルじゃない嫁が来てしまった。でも、今は多様性の時代だし、ハリー王子がいいと言ってるんだから、受け入れてあげようとなったんです。女王様も服の色を合わせたり、式典ではずいぶん世話を焼いたりと、かなり気を使っていたんです。結婚式も若い人たちの好きなようにやらせてあげようとなったんですが……」

 

■結婚式はイギリス国教会の伝統を完全に無視

 

 2人の結婚式は、2018年5月19日にウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂でおこなわれた。この礼拝堂は、イギリス国教会のトップクラスに位置する格の高い教会だ。

 

「イギリス国教会は地味なのが売りなんです。装飾は極限まで少なく、歌はおとなしい賛美歌、教会では踊らない、司祭のお話は淡々として感情に訴えない、教会内では静かにする……これは信仰の基本を忠実にとらえ、無駄なものを削ぎ落とし、自らの心と神に真摯に向き合う精神の表れなんです。

 

 2人の結婚式には、アメリカからアフリカ系の司祭を呼んだんですが、その司祭が『うえーい! ゴッドブレスユー! トランプは最悪だぜ!』と感情込めまくりで超ド派手なお説教をやっちゃったんです。

 

 教会って政治的な宣伝はタブーです。それをいちばんお堅い清貧な教会でやったわけで、怒られるに決まっています。ハリー夫妻は、日本やアメリカでは『先進的』とか『王室を現代化している』みたいな持ち上げられ方をされますが、単なる伝統の破壊者になってしまったんです」

 

■勝手に商売するな

 

「イギリスの人々が一番怒っている点は、夫妻が1年も前から王室ブランドを使ってグッズを販売したり、イベントに登場したりして、お金を稼ぐ準備を着々と進めていたことです。

 

 結婚して1年も経っていないのに、アメリカに MWX Trading という会社を立ち上げ、弁護士や広告代理店とガッチリ組んで商売の準備をやっていた。ウェブサイトも完成してて、離脱宣言したその日にサイトを公開したんです。

 

 チャールズ皇太子から毎年3億2000万円(その後、6億8000万円に修正発表)もお手当をもらってるくせに、まだ金儲けしたいのか、という話です。王室ブランドは格式があるので、個人的な商売のために使いまくるのはすごく嫌われます。税金を使っているんだから社会のためになるようなことをやれ、という思いがあるんです」

 

■タイミングが最悪すぎる

 

 そして最後の理由は、タイミングの悪さだという。

 

「まず、女王様の夫のフィリップ殿下が、昨年から体調が悪く、病院を出たり入ったりしています。90代のおじいちゃんが具合が悪いのに、年寄りの気分が悪くなるようなことをするんじゃないという怒りです。

 

 さらに、2019年、児童性虐待で有罪になって刑務所で自殺したアメリカの大富豪エプスタインという人がいるんですが、チャールズ皇太子の弟・アンドリュー王子と非常に親密だったというスキャンダルが起きました。性虐待に関わっていた可能性もあり、FBIが捜査する騒ぎになっています。

 

 女王様は激怒して、アンドリュー王子は王室をクビになり、警備も一切つかないことになりました。このスキャンダルがいまだに騒ぎになっているのに、どうしてこのタイミングで離脱宣言するのか。エリザベス女王も90代ですから、やっぱり年寄りの気分を悪くさせるようなことをするな、という怒りがあるんです」

 

 ハリー王子の資産はダイアナ妃の遺産を含め42億円、メーガン妃の個人資産は5億6000万円といわれるなか、2人は「殿下」「妃殿下」の称号を返上し、公金も返却すると発表した。だが、事態はまだまだ収束しそうにない。


●谷本真由美(たにもとまゆみ)
 神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院国際関係論修士、情報管理学修士。ITベンチャー、国連専門機関情報専門官、外資系金融機関等を経て、ITコンサルタント。趣味はハードロック/ヘビーメタル鑑賞。著書に『世界のニュースを日本人は何も知らない』(ワニブックスPLUS新書)ほか。Twitterは@May_Roma (めいろま)

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