●きっかけはネットサーフィンと過去のトラウマ…事業アイデアに奮起
それから元榮氏は、起業家についての情報収集を始める。
「起業家のインタビューを読みあさるうちに気がついたのは、有名な起業家たちには、自分の得意分野で『あったらいいな』を実現しているということ。それから、『法律や弁護士業と、何かのかけ合わせができないか』と、思索するようになりました。
一方で当時はブロードバンドが急速に普及し始め、『Yahoo! BB』が街頭でモデムを無料配布をしていたころ。『ネットが劇的に速く大容量になって、すぐに高速通信の時代がくる。インターネットが社会の隅々まで行き渡るぞ』と確信しました。
楽天の三木谷(浩史)社長はじめ多くの経営者たちが、マスコミに盛んに取り上げられ、『IT寵児』として存在感を放っていらしたこともあって、『法律とITをかけ合わせよう』と思うようになりました」
そうして “心の起業準備” をしながら、1年ほど過ごした2004年の10月、事業のアイデアにたどりつく。
「ネットサーフィンをしていて、たまたま『引越し比較.com』というサイトを見つけたんです。『価格.com』のように 商品を比較するサイトは知っていましたが、そこで『そうか、“サービス” も比較できるんだ』と気がついた。いま考えると当たり前のことなんですが(笑)」
そのとき、元榮氏の脳裏に、かつての体験がよぎった。
「大学2年のときに、車で物損事故を起こしてしまったことが、フラッシュバックしてきました。結果的に僕は、弁護士会の法律相談にたどり着き、事態を丸く収めることができましたが、相談に行く前はどうしていいかわからず、ふさぎ込んでしまった時期があった。それで、こう思ったんです。
『もしあのときの自分が現代にいたら、何かないかとネットで必死に解決の手がかりを探しているはずだ。あのときの自分みたいな人は、きっと今もいるから、そういう場所があったらメチャクチャ便利だな。弁護士業務を探せるサイトを作って、困っている人と弁護士をつなげよう』
でも、“自分が思いついたものは、大抵ほかの人がやっている” というのが世の常です。ひとまず冷静になって検索してみると……なかったんですよ(笑)。それで、『これは社会を変える可能性のある、大チャンスだ!』とワクワク感が止まらなくなって。その1週間後、事務所に辞表を提出しました」
企業法務家としてのエリート街道から外れる決意をした元榮氏だが、事務所を辞めるのもひと苦労だった。
「2004年当時の弁護士業界は、まだリーマン・ショック前で空前の好景気でした。最大手のひとつだったアンダーソン毛利には、事務所を辞める人など、まずひとりもいません。
そのうえ弁護士業は、“一生涯まっとうする” のが当たり前。わざわざ弁護士業とは別に起業をする人なんて、業界全体を見渡しても皆無に等しかった。『起業するために辞める』なんて言ったら、頭がおかしくなったと思われる時代でした。
ですから、アンダーソン毛利には、『ひとりで弁護士として独立して自分を試してみたい』と伝えました。ありがたいことに、同期からは『まったく理解できない。辞めちゃダメだ』と引き止めてもらい、上長からも『考え直せ』と慰留していただきました。でも、いくら考えても、思いついた事業をやりたくて仕方がなかったんです」