社会・政治
1973年生まれは半額に「増税延期」で年金額がどんどん減少中
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2016.07.01 13:00 最終更新日:2016.07.01 13:00
〈今 無年金です 来年四月の消費税アップに なると受給資格になり 期待しておりました 誰もが(増税に)反対 反対と言ってますが (年金の)財源など考えておられるのでしょう か? 本当にお先真っ暗です〉
消費増税再延期が報じられた5月末、民進党の山井和則衆院議員にこんな手紙が届いた。差出人は「60代の一人暮らしの老女」。
予定どおり、2017年4月に消費税が増税されれば、受給資格を得るための納付期間が25年から10年に短縮され、彼女のような「無年金者」約17万人が救済されるはずだった。
しかし、安倍首相は2019年10月までの延期を決めた。第 一生命経済研究所首席エコノミスト・永濱利廣氏は語る。
「現行の税率8%では、1.35兆円が年金制度の改善など『社会保障の充実』に使われています。それが10%になれば、予算は 2.8兆円に増える予定でした。しかし、増税延期で差し引き1.45兆円が不足することになります。
ですが、『無年金者』への政策に必要なのはわずか300億円。消費税には『後代への負担のつけ回しの軽減』名目で、社会保障にも使える税収が3.4兆円もある。そこから振り分ければ、不足分は十分まかなえるはずなのですが」
しかし、この無年金者の施策の開始時期は再検討となった。では、増税延期によって、いったい年金はどうなってしまうのか。「ブレイン」代表の社会保険労務士、北村庄吾氏が言う。
「もともと年金財政は破綻寸前でした。消費税増税の先送りでツケを払わされるのは、これから年金をもらう現役サラリーマンです」
上の表は、北村氏のチームが作成した年金受給額のシミュレーションだ。「現在」と「増税延期」を見比べると、40代~50代の現役サラリーマンが老後受け取れる年金が目減りしていくことがわかる。
80歳までにもらえる合計額は、このまま財源不足が進めば、昭和48年(1973年)生まれで4243万円→2191万円と、およそ半減してしまうのだ。
その理由は、増税延期による予算不足を補う「マクロ経済スライド」と「支給開始年齢の引き上げ」の発動だ。
「これまで、年金支給額は物価の上下に連動して増減していましたが、財源不足と、現役世代の負担減のため、『マクロ経済スライド』というシステムが採用されました。年金の増額を、一定割合ぶん物価の上昇よりも低く抑える制度(現在は0.9 %)で、まさに『年金自動カット装置』です」
これまで、「マクロ経済スライド」はデフレで物価が下がっているときは発動しないストッパーがついていたが、前出の山井議員はこう言う。
「デフレ下でも給付額を毎年減らしていく改悪案が、すでに通常国会に提出されています。参院選で自公が過半数を取れば、秋の臨時国会で強行採決するのではないか」
北村氏が、シミュレーションのもうひとつの根拠としたのが、年金支給開始年齢を68歳まで引き上げる動きだ。
「支給開始年齢を、全員一律に67~68歳程度まで引き上げようという声は有識者のあいだでも根強い。今回の増税延期がその動きを加速させることは間違いない。いま52、53歳である、昭和38年(1963年)生まれの方が68歳になる15年後をひとつの節目と考え、試算しました」
年金をもらえる期間が短くなれば、当然総額は大きく目減りする。2011年、厚労省は68~70歳へ引き上げようとし、審議会に案を示したことがある。世論の反対ですぐに撤回したが、国としてはどうしてもやりたいのだ。
では、なぜ首相は増税延期に踏み切ったのか。
「じつは最初から上げる気がなかった」と自民党関係者が言う。
「財務省に『増税しても影響は軽微』だと言われ、8%に上げたところ、リーマン・ショック以上に消費が落ち込んでしまった。だから、今回の延期については財務省を外して、経産省の人間 と一部の人間だけで内密に事を進めた。内輪では『財務省の言うことと逆の事をやると成功する』と言っています」
元大蔵官僚で法政大学教授の小黒一正氏は、こう予測する。
「次の増税のタイミングは2019年10月となります。この年は、夏にまた参院選があるし、東京五輪特需もピークは2018年くらいでしょう。私は十中八九、増税にはもう踏み切れないと考えています。団塊の世代がすべて75歳になる2025年には、年金制度は事実上破綻するでしょう」
安倍首相が恐れる“アベノミクス失敗”の烙印。審判が下るのはそれほど先の話ではない。
(週刊FLASH 2016年6月21日号)