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元榮太一郎「僕の勝ち方」(3)赤字会社の人心掌握術

社会・政治 投稿日:2020.03.20 16:00FLASH編集部

●メディア取材やユーザーの声を徹底共有…社員の「やりがい」を作れ!

 

 一方、元榮氏は起業以来、仲間のモチベーションづくりにも全力を尽くしている。

 

「一番最初は、創業メンバー3人に対してのケアでした。みんな別に本業をもってはいましたが、弁コムには収益化の見込みがまったくありませんでしたので、心を折れさせないようにするのに必死で。

 

 銀行から融資を受けるために、事業計画を練っていたときのことです。ネットで探して『大前研一のアタッカーズ・ビジネススクール』という、世界的経営コンサルタントの大前さんが主催される起業塾を発見し、通うことにしました。

 

 カリキュラムは、現場講師の方からアドバイスを受けて事業計画書をつくり、最後のコンテストで上位4人に入ると、大前さんに事業をプレゼンできるというもの。

 

 4カ月後、webサイト『弁護士ドットコム』のプランで優勝した僕は、大前さんから『10年前に俺もこのビジネスモデルを考えていた。どんどんやりなさい』とお褒めの言葉をいただいて。それですぐに創業メンバーに、『あの世界の大前研一も大絶賛だったぜ!』と共有し、なんとか気持ちをつなぎとめました」

 

 webサービスが立ち上がり、社員が入ってきたあとは、さらに心を砕いた。

 

「収益のめどは相変わらず立たない状態でしたが、有り難いことに、ユーザーからは、毎日のように感謝のメッセージが、お問い合わせフォームを通じて、僕のところに届いていました。

 

 また、メディアにもたくさん紹介をしていただいた。たとえば、『日経新聞』には、とても応援をいただきました。半年に1度のペースで本紙に取り上げていただき、サイトの小さな機能追加が出たときにも紹介してくださいました。経済誌は軒並み全誌、さらにNHKのニュースにも取材を受けて。

 

 そうしたメディア掲載情報やユーザーの声を、積極的に社員に共有していきました。そうやって、『会社にいる理由』を、どんどん作っていった。『放っておいても社員が働き続けてくれる』と思ってはダメなんです。

 

 ましてやIT人材は、引く手あまたの時代でした。本当は物心両面で、社員が会社にいる意味をつくるべきでしたが、赤字続きの弁コムは、給与面で報いることができなかった。ですから徹底的に、『やりがい』という “心の部分” を満たす努力をしました」

 

 待遇面で劣る弁コムだったが、社員の心を留める “切り札” があった。

 

「インターネットの大海で、世のため人のために役立っていることがわかりやすいサービスって、じつはそんなにあるものじゃない。ゲーム会社や受託開発をする会社から転職してきた社員も多くいますが、条件が悪くなっても、『社会に役立っている実感』に、心を熱くして入社し、長きに渡って頑張ってくれていました。

 

 そういう空気を察知して、『我々はユーザー、そして社会に貢献している』『社会的価値をメディアも応援してくれている』ということを、サブリミナルのように繰り返し伝えていきました。

 

 名のある企業からきた社員は、『経営者にケアなんてされたことがない』と驚いていましたが、伸びている会社こそ社員は外に誘惑が多いもの。『遠心力がはたらく隙を与えない』というのは、会社が冬の時代が長かったため、学べたことです」

 

 元榮氏の人事術が功を奏し、弁コムは2014年度で黒字に転化。2014年12月の株式上場に向かうころには、条件面の変わらない競合他社と、人材を奪い合うまでになった。

 

「僕の役割は、最終面接者として『採用を決めること』に変わりました。ここでも基本的には、とにかく即決が大事。ですから、『この会社に入ろう』と決断してもらえるよう、全力で挑みました。

 

 上場後のいまも、『創業時の原点』として大切にしていることですが、1人社員を雇うこと、雇い続けることは大変です。ここ数年は、毎年60名ほどが入社していて、現在は200名を超える規模になりました。働き方改革が加速するいま、仲間たちに改めて『弁コムで働く価値』を共有し、絆を強めなければ」


もとえたいちろう
1975年 米国イリノイ州生まれ 慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、1999年に旧司法試験合格、2001年からアンダーソン・毛利法律事務所(当時)にて企業法務弁護士として活躍。2005年1月に退職・独立し、同年8月に「弁護士ドットコム」のサービスを創業し、2014年12月11日に東証マザーズに上場。弁護士の起業家として注目を集め、『めざましテレビ』に金曜レギュラーとして出演するなど、メディアに多数出演。一方、2016年7月の参院選に千葉県選挙区から自民党公認候補として出馬し、当選。現在、弁護士・企業経営者・国会議員として活躍

 

※最新著書『「複業」で成功する』(新潮社)が発売中

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