●セレクションで映える子は少数……失われた選手たちの “見せ場”
甲子園が中止になった影響は、野島・武田選手ら3年生たちの進路にも影響を与えていた。
「大会がなくなって、選手たちが希望進路先にアピールする場所が限られてきました。
たとえば、プロ志望の野島に関しては、私の仕事として『来週にはピッチングができる状態です』など、スカウトの方と密に連絡を取らせてもらっています。スカウトの方もこまめに見に来てくださいますし、こちらから動画を送らせていただいたりすることもあります。
ただ、『ゲームのなかで打者に対して』というのはお見せできていませんので、本人が一番不安ではないでしょうか。ゲーム中にアドレナリンが出て投げてるときとピッチング練習とでは、まったく違いますから。
実際、野島自身も、『プロがだめなら進学も考えてます』と、少し弱気になってきてるのは事実です。本当はスカウトの方にも、自信満々に投げている姿を見せたいんですけどね……」(岡本監督)
野島投手は、いまの心境をこう明かす。
「活躍できる場が減って、自分がアピールできる場がなくなったんですけど、スカウトの方に来てもらったときに、どうアピールしていくかを考えています。
『明日が試合です』と言われても、投げられる状態には仕上げています。好きなチームはなく、プロになれるんだったら、どこへでも行きます」
一方、大学・社会人野球を目指す選手たちも同様に、“見せ場” を失っている。
「本来なら大学に進学する子は、先方の練習に参加したりする時期なんですが、それもまったくできていない状況です。今までは、大学の方に春の県大会を見てもらって、話がどんどん進んでいきましたが、今年はそれがまったくない。
先輩が行っている学校や、本人の希望校に連絡を取ってはみるのですが、『6月中旬までは、大学として活動はしない』という返答をいただいたりしています」(岡本監督)
岡本監督には、懸念があった。
「正直、うちのチームは体の線が細く小さい子が多くて、100人~200人いるセレクションでは、映える子が少ないんです。逆に、試合で活躍している姿を見てもらって、『この子は試合で使えますよ』というアピールで開花する子が多い。
例年なら進路選択が終わっていた7月や8月にズレ込んだら、一発勝負になってしまう。そこにきて、夏の大会がないんですから……」(同前)
大学野球をめざす武田選手は、不安を払拭するように、目の前の大会に意欲を見せる。
「先を考えたときに、『活躍する場がなくなった』という不安は、もちろんあります。
大学は、『野球が強いところに行けたら』と思っていて、東都(大学野球連盟所属)の大学に連れて行っていただいたり。それもあって、『関東で勝負したい』と思っています。大学を経て、プロに行けるように頑張るつもりです。いまは、代替大会で活躍できるように頑張っています」
野球部のメンバーそれぞれが、さまざまな思いを抱えながら迎える代替大会。アフターコロナの高校野球はどうなるのか?
「いまはコロナの感染対策もそうですが、ケガをさせないようにすることに注意を払ってます。練習は、ストップをかけながらやっていかないといけませんね。熱中症のこともありますし。
1年生には、声出しやあいさつの仕方から教えていたんですが、今年はそれも難しいかなと。なにせ、『大声で、集団で』というのができないですから。当たり前にやってきたことが、すべて出来ない。
代替大会があれば、『3年生全員に背番号をつけさせてほしい』という要望をだしてます。あといま僕にできるのは、“出口” というか進路を、どうもっていってあげられるかに注力することだけです」(岡本監督)