ボクシング元世界チャンピオン・高山勝成選手(37)が、プロのリングに帰って来る――。
日本人でただひとり、WBC、WBA、WBO、IBFの主要4団体を制覇した男は、4年前に突然プロを引退し、東京五輪を目指すためにアマ転向を発表。だが2019年8月、五輪代表選考会予選の敗戦で五輪の夢が潰えると、「リングに忘れ物がある」と、プロ復帰を宣言した。
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11月23日に予定される復帰戦(兵庫県・三田市総合文化センター郷の音ホール)の相手は、世界挑戦経験もあるIBF世界ライト・フライ級8位・小西怜也選手(27)。試合を来月に控えた高山選手が、胸中を明かす。
――プロ復帰に際して「1〜2年、太く短くやりきります」と言っていましたが、その心境とは?
「重量級だと40代・50代でも戦えますが、軽量級は年齢とともに、いろんなものが衰えてきます。どれだけしっかりケアしても、現役を30代後半までできるのは、まれ。
僕は『2021年の大みそかまでは、やりきる』と決めたので、プロでやり残した “忘れ物” を奪還して、38歳という年齢で現役を終えることを目標に、復帰を決めました」
―― “忘れ物” を具体的にいうと?
「2つあるんですが、ひとつはWBAのタイトルです。WBAでは『暫定王者』だったので、今度は “正規王者” を獲得したい。あとひとつは、まだ秘密です(笑)。第一関門をしっかり突破できたら、そのときにお話しします」
――世界チャンピオンからアマに転向して、東京五輪を目指したときの気持ちは?
「僕は、高校卒業時に目標にしていた4団体制覇を成し遂げていて、次の新たな目標を模索していたんですが、3年後に東京五輪があることに気づいて。『次はプロの世界王者ではなく、アマに転向して、4年に1度の五輪でメダルを獲ろう』という思いで挑戦しました」
――2019年8月に、五輪代表選考会で負けたときの心境は?
「正直、すっきりしました。アマチュアのルールとか戦い方を試したかったというのが本音ですが、この挑戦をすることによって、次世代の子供たちへのボクシングの普及、発展に少しでも貢献できたのであれば、自分はこの挑戦をしてよかったと。
次のパリ五輪のボクシング競技には、プロボクサーだけでなく、キックボクサーなどいろんなジャンルの選手が参戦して、格闘技全般での普及や発展に繋げてもらえればと思います」
――プロ復帰に際して、ネット上に「往生際が悪い」など中傷も書かれましたが……。
「往生際が悪いからこそ、いいんじゃないですか(笑)。だって、そもそもアマ転向もそうでしたから。『アイツ、何やってんねん!』と。これで僕がまたプロに返り咲いたら、新たな前例ができて、『30代後半でも世界を目指せるんだ』となるでしょう?
(一度引退し、10年後にプロ復帰した米国のボクサー)ジョージ・フォアマンではないですけど、選手にとっては、いいことじゃないですか。結果はどうなるかわからないですが、チャレンジする意義はあると思います。無駄な挑戦というのは、ないんです。どこまでやれるのか、僕自身が楽しみです」
――高山選手がそこまでこだわる、ボクシングの魅力とは?
「14歳からボクシングを始め、この年齢になるまでずっと、ボクシングが僕の “一番” であることは揺るがないんですね。だから常に新たなチャレンジができるし、向上心が衰えないんです。リングの上は、自分が輝ける、表現できる場所でもあります。
ボクシングは、自分との戦いなんです。命を削ってトレーニングし、命を懸けて試合に臨む。そこで得るものは勝利であったり、敗北であったり、ドローであったりするんですが、そこに至るまでの3〜4カ月の道のりは、けっして嘘をつかないんですよね。それが自分にとって自信にもなるし、生きている実感でもあります。
練習中でも試合でも、弱い自分が出てくるときは、もちろんあります。そこを克服したときの充実感が気持ちいいんです」
――どうなれば、「太く短くやり切った」と思えるのでしょうか?
「どんなときでしょうね(笑)。いちばんは目標と目的を達成できたときなんでしょうが、もしかすると、小西選手との戦いで満足してしまうかもしれないです。
いずれにせよ、100%の力をリングで出せれば、やり切った感が湧いてくると思います。ファンのみなさんが、僕の戦っている姿を見て、『俺も何か勝負してやろう、何かチャレンジしてやろう』という前向きな気持ちになってくれたら嬉しいですね」
高山選手のチャレンジは、いよいよ最終章に突入した。日本人でただひとり4団体を制覇し、ただひとりプロからアマへーー。そして、2度めの “プロデビュー戦” に向けて、命を削ってトレーニングに励んでいる。
撮影、取材、文・北浦勝広