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じつは生涯G党「野村監督」憧れの川上哲治氏に素振りの秘密を…

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2020.10.30 06:00 最終更新日:2020.10.30 06:00

じつは生涯G党「野村監督」憧れの川上哲治氏に素振りの秘密を…

 

 2020年2月11日に惜しまれつつ亡くなった、野村克也さん(享年84)。15年間近くマネージャーを務め、野村さんを人生の師とあがめる小島一貴さんが、野村さんの知られざる素顔を明かす。

 

 

 野村監督は、少年時代から亡くなるまでずっと、じつは巨人ファンである。巨人に関する著作も多数ある。

 

 

 10歳のときに終戦を迎えた監督の少年時代、テレビはまだなかった。監督が育った京都府の日本海側の田舎町でも「ラジオの電波は受信できた」というが、こうボヤいておられた。

 

「でも、電波を合わせるのが、めちゃくちゃ難しいんだよ。ラジオのダイヤルっていうのかな、あれを合わせてもなかなか聞こえない。本当に、もう触る程度。微妙なところでようやく入る。それでも雑音が酷くて、なんとか聞けたというレベル」

 

 母子家庭で育った監督は、夕食後に家の手伝いをすませて、ラジオの野球中継を聞くのを楽しみにしていた。なかでも憧れは、「打撃の神様」川上哲治氏。川上氏の活躍に一喜一憂しながら、ラジオ音声だけで映像がないので、どんな打ち方なのか想像を膨らませていたそうだ。

 

 そんな監督だったから、南海に入団してオープン戦などで巨人と対戦するときは、若手に課せられる雑用を手際よく終わらせて、少しでも巨人の選手の練習や試合を見ようと張り切った。テスト生で入団した監督は、1年めはブルペンキャッチャーとして一軍に帯同できたのもラッキーだった。

 

 そのうち、川上氏のあるしぐさに気がついたという。

 

「試合中、ネクストバッターズサークルで川上さんが妙なスイングをしているんだ。ゴルフスイングみたいな感じ。構えは普通なんだけど、そこからえらい低めを振っている。

 

『あれはなんだろう、どうしてあんな素振りをするんだろう』と思ってマネしてみたけど、どういう意味があるのかすぐにはわからなかった」

 

 その後、三冠王を獲得するなど、一流プレイヤーの仲間入りした監督。日本シリーズにゲスト解説に呼ばれるようになった監督は、川上氏と話をする機会があり、あるとき思い切って聞いてみたそうだ。以下が、そのやりとりである。

 

「あのゴルフのような素振りは、どんな意味があったのですか?」
「野村くんは、どんな意味があると思いますか?」(川上氏)
「おそらく、前の肩を開かないように意識するためじゃないかと」
「野村くんは、よく勉強していますね」(川上氏)

 

 その話を教えてくれたとき、「憧れの川上さんに、あんなふうに言われて嬉しかったなぁ」と、監督は笑みを浮かべていた。

 

 さて余談だが、ネクストバッターズサークルでゴルフのようなスイングをしているスーパースターが少なくとも、もう一人いた。イチロー選手だ。あるとき私は「監督、イチロー選手もネクストバッターズサークルで同じような素振りをしていますよね」と、監督に質問した。

 

 すると監督は、当然知っていたのだろう。私の言葉が終わらないうちに、ウンウンとうなずき、こう言った。

 

「たぶん、川上さんと同じような意識でやっているんだと思うよ」

 

 スポーツは、日々進化していて、かつては正しいとされていた理論や練習方法が、現代では否定されることも少なくない。そんななかで、1958年に引退した「打撃の神様」と、それから約60年後の2019年に引退した「世界のイチロー」が、時代を超えて同じような素振りをしていたこと、そして監督がそれを見守っていたというのは、なんとも味わい深いではないか。

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