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野村監督、唯一の趣味は「食べること」愛するせんべいで事件が…
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2020.11.20 06:00 最終更新日:2020.11.20 06:00
2020年2月11日に惜しまれつつ亡くなった、野村克也さん(享年84)。15年間近くマネージャーを務め、野村さんを人生の師とあがめる小島一貴さんが、野村さんの知られざる素顔を明かす。
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野村監督は、よく食べる。私は監督の実子である克則氏と同年代だが、監督と一緒に食事をさせていただくと、私よりたくさん食べる。現役時代は、もっと食べていたのだろう。体を酷使する仕事を長年続けるには、やはり食事が基本なのだと、あらためて思わされた。
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監督がテレビやラジオに出演する場合、初めての番組だと、どんな飲み物やお茶菓子を準備したらよいかと尋ねられることが多い。なぜか、監督の好物は「きんつば」だという情報が広まっていたが、あんこ、それもつぶあんを使った和菓子はなんでも好きだった。
飲み物は必ずコーヒーで、コーヒークリームは必須。夏はアイス、冬はホットを好むので、春や秋の場合は両方とも用意していただくようお願いしていた。当初、和菓子とコーヒーというのは何ともミスマッチのように思えたが、やってみたら意外に合うのだ。
さて。あるとき、監督がレギュラー出演していた番組で、揚げせんべい(スーパーなどで見かける有名なもの)が用意された。監督は、これをえらく気に入り、以後はこのせんべいもお茶菓子のラインナップに加えられた。
事件はそんなとき起こった。紙媒体の取材はともかく、テレビやラジオでは、当然ながら音声が必要である。和菓子と違って、せんべいは食べるときに音が出る。監督がせんべいを手放してくれないと、テープが回っていてもその部分は電波に乗せられない。
ところが、監督が収録の部屋に入って席に座り、世間話をしていると、いつの間にか核心の話になっていることがある。そして「今からテープを回します」と宣言してスタートするよりも、世間話からいつの間にか核心へというときのほうが、話がおもしろかったりするのだ。
このときも、そんな状況だった。せっかくおもしろい話をしているのに、せんべいのせいで放送できない部分ができてしまったのだ。マネージャーである私が、せんべいを早々に取り上げるべきだったのかもしれないが……。美味しそうに食べている監督から取り上げるのは、なんとも不憫に思えてしまった。
監督は、出演や取材の際にお茶菓子を食べても、食事はしっかり摂っていた。食事をご一緒するのは、ホテルでの取材のあとが多かったのだが、そのホテルの中のレストランに行くので、はっきりいって高い。監督と一緒でなければ滅多に食べられないものばかりをご馳走になってしまった。
監督はよく、「この歳になると欲がない。美味しいものを食べることくらい」と言っていた。ホテルの外のレストランも含め、何軒かでローテーションを組んでいたようだ。
監督の言葉を借りれば、少年時代は「今では考えられないくらいの貧乏だった」そうで、そういう意味でも、食事を大事にしていたのかもしれない。
沙知代夫人が元気なころは、取材が終わると決まって監督が夫人に「今日はどうする?」と、夕食の相談をしていた。夫人の答えはだいたい、「なんでもいいわよ」。なんとも微笑ましい、日常だった。