1923年に始まったラグビー早明戦が12月6日、秩父宮ラグビー場で開催される。大学ラグビー界を牽引してきた両チームの定期戦は今年で96回めとなり、6戦全勝で首位を走る早稲田大学と、5勝1敗の明治大学という優勝決定戦となった。
そんな大一番を前に明大ラグビー部OBが、早明戦前夜におこなわれる「伝統の儀式」を振り返る。
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「私が明治のラグビー部に在籍していたのは、1980年代中盤。倒れた選手に、やかんで水をかけていた時代ですね(笑)。
当時の大学ラグビーは、早明戦だけが旧国立競技場を満杯にしていました。悲壮感が漂うようなストイックな早稲田に対して、どこかおおらかで不器用な明治の重戦車軍団に人気は二分されていましたね。
今は、試合数日前に公式SNSで早明戦のメンバーが発表されますが、僕らの時代は前日の夜の消灯後に発表されていました。『発表される』といっても、監督やコーチから直接伝えられるわけではありません……」
そもそも試合用のジャージは、明治では「紫紺ジャージ」と呼ばれ、新入生である1年生の部員たちが管理していたという。
今では考えられない逸話だが、当時は「紫紺ジャージを洗濯している姿を上級生に見られてはいけない」という不文律があり、1年生は合宿所がある世田谷区八幡山から、人目につかぬようジャージを大きな袋に詰め、離れた駅まで持って行き、こっそりと洗濯していたという。
「洗い終わったジャージを2年生が点検するんですが、ちょっとでもシミが残っていたら『アゲイン!』と叫ぶんです。そうすると、再び離れた駅まで出かけて洗濯し直すという、なんともバカバカしい行動を繰り返していました。
ただし当時は、ちっともバカバカしいとは考えていませんでしたね。それぐらい試合用のジャージは、神聖なものだったんです」
それでは “真夜中の儀式” とは、どういったものだったのか?
「特別な任務を担った部員が、真夜中に就寝している(はずの)早稲田戦に選ばれたメンバーの枕元に、ジャージをそっと置くんです。その際、ほかの部員や当の本人には絶対に気づかれてはいけません。
メンバーは起床後、枕元にあるジャージに気づくというわけなのですが、実際はレギュラー当落線上の選手は、気になって寝られませんでしたけどね(笑)」
一方のライバル校である早稲田大学。過去に「いちばん負けている相手」は明治で、対抗戦では54勝2分39敗と勝ち越しているが、大学選手権では6勝8敗と負け越している。それではプライドが許さないのか、早稲田のほうが明治を意識している節がある。
たとえば、早明戦で早稲田が敗れた年次は卒業後、結婚式で公式な部歌である「荒ぶる」を歌うことが禁じられているという。それゆえか、早明戦が近くなると、ふだんの練習が、より一層激しくなる。早大ラグビー部OBが明かす。
「レギュラーを決める紅白戦のほうが、早明戦より数倍激しかったですね。みんなレギュラーを獲りたいと必死なので、対面(といめん)の相手には、容赦なくえげつないタックルを見舞い、怪我する部員が続出したほどです。
監督やコーチが『止めろ!』って言っても相手を離さなかったほど、みんな殺気立っていましたね」
そして試合前日、早稲田もある “儀式” をおこなうという。
「当時の練習場近くにあった『東伏見稲荷』に参拝してから前日練習をおこないます。最後にタックル練習で締めるんですが、タックルするサンドバックに明治の紫紺のジャージを着せます。それで、対面が予想される明治の選手の名前を叫びながら猛タックルするんです。
ちなみに当日、前日に叫んだ名前と違う選手だったので焦りましたけど、いいタックルを決めてやりましたよ。私も喰らいましたけどね(笑)」
数々の伝説を生んだ早明戦、2020年はどんなドラマが誕生するか――。