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大栄翔、一月場所を制覇…恩師が明かす「家族孝行で大学を諦めた」決意の角界入り
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2021.01.25 13:48 最終更新日:2021.01.25 14:00
2021年の一月場所は、初日を迎えた時点で、関取の休場者は16人。さらに十日目には、横綱昇進がかかった貴景勝(24)までが途中休場に追い込まれ、その後、休場者数は18人と、戦後最多となった。
その初場所をおおいに盛り上げたのが、平幕力士の大栄翔(27、西前頭筆頭)だった。初日から小気味いい突き押しで、番付上位を圧倒。窮地に追い込まれた一月場所を救い、自身および埼玉出身力士にとっての「初優勝」という大金星で、有終の美を飾った。
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大栄翔が相撲を始めたのは、朝霞第四小学校1年生のとき。担任の先生にすすめられて埼玉県朝霞市の大会に出場して、1年生の部で優勝したのだった。この活躍を見た「朝霞相撲錬成道場」創設者の高橋昭二郎氏は、勧誘を決意したという。
「126cm30kgとガッチリした体だったため、もう一目惚れ。何度も家を訪ねました」
同道場の大竹誠監督が振り返る。
「すり足などの基本を教えました。取り口は、今も強みである突き押しがよかったので、伸ばそうと。
忘れられない思い出として、自衛隊の朝霞駐屯地で観閲式が開催され、道場のまわりを多くの警官が警備していたんです。彼はまわしが入った大きな荷物を持っていて、体が大きかったためか、警官に職務質問されたんです。小学生がですよ(笑)」
その後、「人が10倍練習したら20倍やる」(高橋氏)という努力が実を結び、小学4年・5年では全日本大会に出場。中学は、朝霞第一中学に進学した。そのころの大栄翔を知る、教師の小柴健臣氏が語る。
「相撲だけではなく、いろんなことに興味を持ち、部活は園芸部に所属していました」
とくにひまわりが大好きで、一生懸命に育てていたという。中学3年時には全国大会にも出場。この活躍に目をつけたのが、高校相撲の名門・埼玉栄高校の山田道紀監督だった。
「大会で活躍していたし、なにより筋肉の質がよかった。それで勧誘したわけです」(山田監督、以下同)
ところが大栄翔には、大きな壁が立ちはだかった。
「言うほど強くなかったんですね。学年内でも4~5番手。高2までは本当に弱かったので、基礎運動とちゃんこ番ばかりやらせました。自分は強いと思って入ってきているのに、ちゃんこ番。でも彼は嫌な顔ひとつせず、何度も基礎練習を繰り返した。
その結果、高2の終わりから急に強くなって、高3のインターハイでは、個人で3位になりました。今の子たちにも言うんです。『結果が出なくても、辛抱してやり続ければ、大栄翔みたいになれるぞ』とね」
全国で名を知られるようになると、当然のように強豪大学から声がかかった。
「彼の中には大学へ行きたい気持ちがありましたが、母子家庭で育ち、母親の苦労を知っていた。しかも、お兄さんは大学に行ける学力があったにもかかわらず、弟を高校に進学させるため、大学を諦めたんです。だから、『苦労をかけた家族に孝行したい』と言って、角界入りを決めました」
その優しさは今、後輩たちにも向けられている。
「あの子は心根が優しく、母校愛も強いんです。肉を大量に差し入れてくれたり、この前はお米を600kgも差し入れてくれたんです。本当にありがたいことです」
強烈な突き押しで、愚直に前へ――。
写真・時事通信
※休場者数は1月23日現在
(週刊FLASH 2021年2月9日号)