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野村監督、プロ野球人生で得た教訓「他人の評価こそが正しい」【短期集中連載Vol.11】

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2021.02.11 11:00 最終更新日:2021.02.11 11:00

野村監督、プロ野球人生で得た教訓「他人の評価こそが正しい」【短期集中連載Vol.11】

 

 2020年2月11日に惜しまれつつ亡くなった、野村克也さん(享年84)。1周忌にあたり、15年間近くマネージャーを務めた小島一貴さんが、短期集中連載で「ノムさん」の知られざるエピソードを明かす。今回が最後の第11回だ。

 

 

 

「プロ野球選手は他人の評価で生きている。自分でどんなにできると自信を持っていても、球団に必要とされなければ仕事はない。人間は自己愛が強いから、自分に対する評価はどうしても甘くなるし、客観的に見ることができない。だから、他人の評価が正しいのだということを、なかなか受け入れることができない」

 

 監督はプロ野球選手一般について、よくそう語っておられた。以前はエース格だった選手が、リリーフに配置転換される。かつての4番打者がスタメン落ちするようになる。年俸交渉で揉める。ドラフト1位だった選手が戦力外になる。そのような選手のことが話題になると、決まっておっしゃられることだった。

 

 そういう考え方だったからか、監督は年俸の交渉で揉めたことは、ほとんどないそうだ。南海時代、タイトルを獲った年にダウン提示があったときは、さすがに抗議したらしいが、「それ以外は、ほとんどない」とおっしゃっていた。

 

 監督の代名詞である「野村再生工場」の成功の裏には、この考え方も大いに影響しているのだろう。戦力外を突きつけられた選手にとって、球団の判断は受け入れがたいものだ。監督もその選手の気持ちがわかっているからこそ、生き残るための道を受け入れやすい言葉で示し、再生することができたのだと思う。

 

 戦力外という球団(=他人)の評価はある意味正しい。しかし、再生可能という野村監督(=他人)の評価も、別の意味で正しいのだ。

 

 また、似たような考え方として、監督のオファーについても、以下のように語っていた。

 

「球団が監督のオファーを出すときは、社内で多くの人々が十分に議論して、当人に話をしにいくはずだ。それだけ検討しつくしたうえでのオファーなのだから、間違うことはないだろう。だから、俺は監督のオファーがあれば迷わず受けるようにしていた」

 

 この考え方もまた、「他人の評価が正しい」という認識と共通しているだろう。ただし、「阪神だけは間違いだった。あそこは俺には合わない」とおっしゃっていたことも付言しておく。

 

 監督の姿勢は、評論家をしているときにも一貫していた。監督は、テレビや雑誌の取材を断わったことはない。口では、「なんで俺なんだよ」「こんな爺さんに仕事が来るんだから不思議だ」「野球界はほかに人がいないのか?」などとボヤくのだが、けっして断わらなかった。

 

 また、監督は楽天の監督を退任されてから著書を数多く出しているが、出版の依頼も同じだ。あまりにオファーが多かったため、ひと月に2~3冊も発売される事態になったこともあった。一時は2年先まで出版の予定が決まっていた、ということもあったくらいだ。

 

 出版社の方に話を聞くと、最近は出版不況といわれるなか、監督の本は売れるのだそうだ。売れ行きが計算できるので、オファーが殺到する。商売との因果関係がある話ではあるが、監督の「他人の評価が正しい」という持論に照らせば、出版界での監督の人気は本物だということだ。

 

 監督が永眠されてから、もうすぐ1年になろうとしている。そのあいだ、監督を惜しむ声が各方面から聞かれ、監督に対する「他人の評価」はきわめて高い。監督は今、ご自身に対するこのような「他人の評価」をどのように受け止めているのだろうか――。

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