5月25日(火)から始まったプロ野球セ・パ交流戦。コロナ禍により2020年はおこなわれなかったため、2年ぶりの開催となる。
そんななかでの注目のひとつが、ロッテの佐々木朗希投手(19)。最速163kmを誇る、入団2年めの右腕だ。ロッテがまず対戦するのは阪神。甲子園での3連戦最終日となる5月27日に、佐々木投手の登板が予定されている。セ・リーグ首位を独走する阪神相手だけに、そこでどんなピッチングをするのか、野球ファンならずとも非常に興味をそそられるところだ。
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その前に、5月16日(日)の佐々木投手の一軍デビュー登板を振り返ってみたい。本拠地ZOZOマリンスタジアムでの西武戦。先発で5回107球を投げ、6安打5奪三振で失点4(自責点2)。最速は2回にマークした154kmだった。勝利投手の権利を得て降板したが、その後、同点とされて白星はつかなかった。
そのデビュー戦をどう評価するかーーそれぞれ立場の違う3人の専門家に聞いた。まずは、元ロッテの守護神として活躍し、現在は社会人野球の企業チーム「エイジェック硬式野球部」の投手コーチを務める小林雅英氏だ。
「初登板でのいちばんの収穫、それは、いいところも悪いところも両方出せたという点。いいところは、初登板で緊張もあるなかでもしっかりとゲームを作れたこと。注目を集めていることは自覚しているはずだが、それでも堂々としたパフォーマンスを見せられた点は素晴らしい。悪い点、つまり課題もしっかり見出せた。5盗塁を許したこともそうだし、あの変化球の精度では、プロのバッターはなかなか打ち取れないということも、はっきりわかったはず。プロ2年めで、正味のところ、プロ野球選手にはまだなっていない。ローテーションをまかされ、二桁勝利を期待される、そういう存在になるには体力的にも技術的にもまだまだ。ただし、持っているものはすごい。今は『伸びしろしかない』という状態でしょう」
続いて、データ分析と感覚を武器に「ピッチングデザイナー」として、ダルビッシュ有投手にも影響を与えた、お股ニキ(@omatacom)氏。
「ストレート最速154km、平均でも150km以上出ており、空振りは10%以上。スピードや球質はプロでも平均以上で、将来かなりの投手になる可能性は高いと思います。もともと彼の高校時代から、投げている球はメジャーリーグ級というのが私の評価です。気になったのはストレートの多さ。約60%が真っすぐでは多すぎる。もっと変化球でカウントを取れるようになりたい。二軍では通用したフォークも、一軍の打者相手では空振りが取れず、拾われていた。スライダーはフォーク以上にいいが、できればさらに緩急をつけられる球種、たとえば遅い横スライダーやカーブなどもほしいところ。体型ももっと変わっていくだろうし、そうなればもっと球の強さも出てくるでしょう」
最後は、筑波大学准教授で硬式野球部監督の川村卓氏。野球における動作解析の第一人者で、高校時代の佐々木投手の動作解析をおこなったことでも知られる人物だ。
「まず第一印象としては、体格が大人になったなということ。投手に必要なお尻や太ももの裏側、背中などの筋肉がしっかりしてきましたね。投球フォームに関しては、まだ試行錯誤の段階という印象を受けました。腕をコンパクトに振ろうという意識ですね。そのほうがコントロールもまとまり、腕や肘にかかる負担も小さくなります。オリックスの山本由伸投手の投げ方を参考にしたのかもしれません。まだ自分のものにはしきれていませんが、これからの課題です」
最大の問題は、「経験のなさ」ではないかと川村氏は言う。
「甲子園の出場経験はなく、厳しい場面で投げたことも少ない。今後さまざまな経験を積んで、状況に応じた投球ができるようにならなくてはいけない。ただし、経験を積むことと、じっくり育成することは相反することでもあります。週1回のローテーションでは、その間、投手は回復に努めるだけで、成長することは難しいんです。ただ、これはチーム事情も絡んでくることなので、難しい問題でしょうね」
高校時代に163kmをマークした佐々木。日本最速は大谷翔平(当時日ハム)の163kmだ。「夢の170km」は可能なのだろうか。
「もちろんその可能性はあります。今19歳ですが、25歳くらいに向けてしっかり体を作っていければ、そういうラインが見えてくるでしょう。ただし、それを目指すことがプロ野球の投手として正しいのかどうかは別の話。今でも十分に速いのですから、それをしっかりコントロールできるようになることが大事ともいえます。夢のある話ですが、本人もそこまで球速を追い求めているわけではなく、結果として出せればいいな、くらいに考えているのではないでしょうか」(川村氏)
課題はあるにしろ、限りない可能性を感じさせる大器。27日の登板が楽しみだ。