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白鵬クラスの強い力士、なぜ近ごろ登場しなくなったのか

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2021.07.04 11:00 最終更新日:2021.07.04 11:00

白鵬クラスの強い力士、なぜ近ごろ登場しなくなったのか

 

 白鵬は史上最強と言っても良いだけの優勝回数、通算勝利数を誇り、データという側面から考えるとこれに反論するのが難しいほど圧倒的な実績を誇ります。そもそも比肩する存在が現れることを想像しにくいのですが、白鵬以降横綱に昇進したのは世代がほぼ同じである日馬富士、鶴竜、稀勢の里であることが気がかりです。

 

 早熟の力士は大抵、20代前半で横綱に昇進しています。つまり、35歳の白鵬を軸に見ると白鵬以降の世代については10年ほど突出した才能を輩出できずにいるとも言えます。

 

 

 これだけ横綱が途絶えているのは異例のことです。

 

 1972年生まれの貴乃花の次の世代が朝青龍で、8歳分の不在はありましたが、今の幕内力士の中で横綱を目指せるほどの突出した力士は誰かと言われても答えに窮してしまいます。次世代の育成という意味で、大相撲は今問題を抱えていると言って良いでしょう。

 

 さて、突出した才能が現れない理由は何でしょうか。幾つか理由が考えられますが、まず入門する力士数の減少という問題があります。

 

 角界への入門者数が最も多かったのは若貴ブームの頃の223人ですが、これを境に減少を続けました。10年前からおよそ80人前後の横ばいで推移しており、大相撲が人気回復して以降も上昇には転じていません。

 

 不祥事が発生しても人気が高まっても変化がないのはある意味で相撲の持つ底力とも言えますが、分母が減れば逸材が現れる確率は当然減少します。

 

 日本相撲連盟に登録されたアマチュア力士数を見ると、相撲の競技人口が少ないことがわかります。2014年時点で小学生数は1137人、中学生は472人、高校生は1052人、大学生496人です。

 

 大相撲の力士数がおよそ660人ですから、アマチュアがいかに少ないかわかるかと思います。入門者数もさることながら、競技人口自体がかなり少ないのです。

 

 高校相撲については、東京都で団体戦のチームが組めるのは5校しかないという話もあります。

 

 どんな競技でもレベルアップにはライバルとの切磋琢磨が必要ですが、このような状況では基本的にライバルは校内に求めるしかありません。

 

 レベルの高い学校であれば全国大会に出場したり、少し時間は掛かりますが強豪校との合同稽古という方法もあるかもしれません。

 

 ただ、競技人口が少ないために校内や関係性の深い学校でも様々なタイプの力士と稽古するのは難しいでしょう。例えば同学年の選手が1.5倍くらい重く、なかなか相手にならないという例もありました。アマチュアレベルで実力を高めるために障壁が存在しているのは問題だと思います。

 

 このような状況から、大相撲を目指す分母が少ないことがおわかりいただけるかと思います。

 

 そして、アマチュア力士をめぐってはもう一つの問題があります。競技を続けるにしても、大相撲を選ばない選手が多いのです。

 

 アマチュアスポーツは競技によってはユース世代で活躍した選手がプロでは活躍できないケースもあるかと思います。サッカーのU-17世界大会に出場した過去の日本代表メンバーを見ると、その後活躍している選手とそこから伸び悩んだ選手に分かれることがわかりますが、相撲の場合は若い頃に能力を発揮している選手がそのままプロでも活躍しやすい競技と言えます。

 

 そのため、中学生くらいの頃から有望な選手が相撲部屋からスカウトされることもよくあります。ただ、その時点では踏ん切りが付かずに大学卒業のタイミングで改めて入門するケースもあり、7年越しにラブコールが実ったという話を聞いたことがあります。

 

 こうした事情から、高い能力を見せている学生を相撲部屋が放っておくことはないのですが、驚くべきことに中学生ナンバーワンである全国中学校相撲選手権大会の覇者が2001年の影山雄一郎(元:栃煌山)から2011年の佐藤貴信(現:貴景勝)まで一人も大相撲の世界に入っていないという、異常事態が発生しているのです。

 

 栃煌山は1986年生まれですから、1985年生まれの白鵬を脅かす力士が10年以上現れていないという問題にこの期間が符合してしまいます。

 

 有名な話ですが、御嶽海は大相撲入門か公務員になるかで迷っていたそうです。その後大関昇進を目指すことになる力士ですら、大学卒業前に大相撲の道へ進むことをためらっていたという事実は重いです。

 

 相撲に限らずどんな競技でも世代で頂点を極めれば自身の力を試したい、さらに上に行きたいと思うのが自然なことです。しかし、それをしない選手が多いというのは競技として大きな問題ではないかと思います。

 

 ただ、中学横綱については佐藤貴信以降相次いで入門しており、深井、竜虎、塚原、栃神山、そして16歳での幕下昇進が話題になった吉井といった有望な力士達が名を連ねています。有望な力士が入門しないというトレンドは少しずつ変化しているので、近い将来こうした力士達が頭角を現すことで上位の力関係が変わる可能性があります。

 

 振り返ると貴乃花引退以降の大相撲を引っ張ってきた大横綱は朝青龍と白鵬であり、日本人力士で大横綱になれる潜在能力を見せた力士は20年現れていません。

 

 そもそも三代目若乃花以降で日本人横綱は稀勢の里ただ一人なのです。しかも、その稀勢の里でさえ不運な怪我で短命に終わっている。

 

 つまりこのトレンドが続くならば、大横綱の系譜を継ぐだけの資質を持つ外国出身力士が現れない限り、現在の「白鵬不在の戦国場所」のような構図は変わらないことが予想されるのです。

 

 

 以上、西尾克洋氏の新刊『スポーツとしての相撲論 力士の体重はなぜ30キロ増えたのか』(光文社新書)をもと

 

に再構成しました。「決まり手」「体格」「怪我」「指導」「学歴」「国際化」「人気低迷」…7つのキーワードから見えてくる、大相撲の現在。

 

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