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大谷翔平 本塁打王へ“最後の難関”は「審判の不可解判定」だが……MLB元通訳・小島一貴氏が明かす「大谷選手なら大丈夫!」
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2021.09.09 11:00 最終更新日:2021.09.09 11:00
MLBのア・リーグで本塁打数トップと大活躍中の大谷翔平選手(27)だが、審判の判定にやや苦しんでいる印象がある。打席ではボール気味の球をストライクと判定され、本人もやや不満げな態度を示す場面がしばしば見受けられる。
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投手としても、6月11日のダイヤモンドバックス戦で、ボークの判定に不満気なジェスチャーを取ると、その直後に2度めのボークを取られ失点した。また、6月30日のヤンキース戦でも、初回の先頭打者へのフルカウントからの投球をボールと判定され、球審に高さなのかコースなのかを尋ねると、その後も厳しい判定が続き、合計4四球で1回を持たずに降板となった。
現地放送局の解説者などが、「オオタニに不利な判定」という趣旨のことを何度も言っていることもあり、日本のファンの間でもMLBの審判への批判が増えているようだ。ただ、アメリカの野球中継は一部の全国放送を除き、基本的に地元のテレビ局が地元チームの試合を放送するというスタイルであり、エンゼルスの地元局の中継ではどうしてもエンゼルスびいきになる。NPBの試合中継は不偏不党な場合が多いが、現地のMLBの試合中継は地元球団びいきな場合が多い点は、注意が必要だろう。
それでも、ほかの選手に比べて大谷選手に不利な判定が多い気がするのは、大谷選手びいきゆえの誤解というわけでもないと思う。そう思う根拠は、MLB審判の伝統と傾向にある。MLBの審判は伝統的に、判定に不服な態度を表わす選手に厳しいという傾向があるのだ。
私が伊良部秀輝投手の通訳をテキサス・レンジャースで務めていた2002年、こんなことがあった。レンジャースのショートは、当時MLB最高年俸だったアレックス・ロドリゲス選手。ある試合で、二盗を試みた走者に対してロドリゲス選手がタッチするも、微妙なタイミングでセーフの判定。アウトを確信していたロドリゲス選手は不満げな態度を示すが、これ自体はよくあることであり、この時点では二塁の塁審は何もしなかった。
しかし3アウトになりベンチに帰ろうとしたロドリゲス選手が、わざとらしく二塁塁審の近くを通った瞬間、退場が宣告されたのだ。これには本人も驚き、監督がベンチを飛び出して抗議したが判定は覆らなかった。普段はメディアに対して紳士的なロドリゲス選手もさすがにショックだったのか、この日はメディア対応をせずに球場を後にしてしまった。
さらに日本のファンは覚えている方も多いかもしれないが、2009年のある試合で、イチロー選手が見逃し三振に倒れた場面でのこと。判定に不服な態度を示したイチロー選手は、ベースを外れた球だったじゃないかと言わんばかりに、土の上にボールが通過した軌道の線を引いた。実際にリプレイで見るとその通りの軌道だったようだが、その行為を見た球審はすぐさま、イチロー選手に退場を宣告した。
この年まで9年連続で3割を打ち、首位打者2回、盗塁王1回、MVP1回とスーパースターであったイチロー選手でも、判定に不服を示すや否や退場処分が下されるということだ。MLBの審判は、どんなスーパースターであろうと容赦しないのだ。
伊良部投手もヤンキース時代、先輩投手たちからよくこんなことを言われたという。「審判の判定を不服に思っても、絶対に態度に出すな。態度に出した途端、際どいコースはストライクを取ってもらえなくなるぞ」と。
それでもヤンキース時代、我慢できず態度に出してしまうと、やはりストライクゾーンが小さくなると感じたそうだ。そのためか、レンジャースでの伊良部投手は常に淡々と、感情をまったく出さずに投球していた印象がある。
こうしたMLB審判の伝統や傾向に対して、日本のファンから不満が出るのも理解できる。「審判は常に冷静で公平であるべきだ。判定に不満げな態度に対する報復などすべきではない」という意見も確かに一理ある。ただ、良くも悪くもMLBの審判は、何十年間もこんな感じで今もあまり変わらない。現在、スーパースターの地位にあるベテラン選手達やOBも、MLB審判の伝統、傾向に悩まされながらも好成績を収めて今の地位にいるのである。
だからこそMLB関係者やファンは、こうした審判の伝統、傾向をベースボールの一部として受け入れているように思う。その証拠に、前述のロドリゲス選手のケースでは、レンジャースもMLBに対して提訴していないし、エンゼルスも大谷選手に不利な判定が続くことについて、記者会見で多少の不満を述べることはあるが、公式に提訴などはしていない。
多くの人が指摘しているように、大谷選手はMLBでのベースボールを本当に楽しんでいるように見える。その一環として、敵味方を問わずほかの選手とのコミュニケーションも頻繁に取っている。審判ともよく会話しているし、だからこそ判定が不可解なときは、ついつい尋ねてしまうのだろう。審判の判定が不利になるのでは、などという計算とは無縁な、大谷選手の自然体でありキャラクターなのだろうから、損得を気にして無理に変える必要もないだろうし、本人が変えたくなったら変える日が来るのかもしれない。
それよりも大谷選手がすごいのは、不利な判定がほかの選手より多いのに、それでも現時点でメジャー最多の本塁打を放っている点だ。投手をしながら、という意味でもすでに規格外だが、このまま本塁打王になれば、それは数字やタイトル以上の意味を持つことになるだろう。大谷選手なら、やってくれると期待せずにはいられない。
日本にいる大谷選手のファンも、立派なMLBファンである。アメリカにいるファンと同様、審判の判定に文句を言うことは自由だろう。ただその一方で、NPBとは異なるMLB審判の伝統や傾向、もっと言えばMLBそのものの伝統や傾向を知ると、今シーズンの大谷選手のすごさが、さらに理解できるのではないかと思う。
文・元メジャーリーグ通訳、現MLB選手会公認代理人・小島一貴