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大谷翔平、異次元のキング争いにいよいよ決着が……「米国ファンはなぜ本塁打に熱狂するのか」MLB元通訳・小島一貴氏が明かす

スポーツ 投稿日:2021.10.02 16:15FLASH編集部

大谷翔平、異次元のキング争いにいよいよ決着が……「米国ファンはなぜ本塁打に熱狂するのか」MLB元通訳・小島一貴氏が明かす

写真・USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 

 メジャーリーグも佳境を迎え、日本では大谷選手の本塁打王争いに注目が集まっているが、アメリカでもファンを熱狂させている。長らく首位を保っていた大谷選手がゲレーロJr.選手に抜かれ、さらには後半戦で猛追してきたペレス選手がついにトップに立つなど、シーズン終盤に入ってからの熾烈な争いから目が離せない。

 

 

 これほど注目が集まるのは本塁打の争いだから、という面があると思う。これが打点王や盗塁王の争いだったら、ここまで注目されていないだろう。かねてから思っているのだが、MLB(アメリカ)とNPB(日本)では本塁打に対する考え方、いわば「本塁打観」が少し異なるように感じる。日本においても長打力のある打者は貴重な存在だが、アメリカにおいてはさらに重宝され、人気があるという印象だ。

 

 アメリカでは、なぜ本塁打の注目度が高いのか、明確な理由を一つに絞ることは難しい。個人的な主観ではあるが、アメリカのファンは選ばれしプロであるメジャーリーガーたちの突出した能力を見たい、という思いが日本以上に強いように感じる。

 

 アメリカでは日本とは異なり、小学生のころから野球といえば硬式しかない。硬式は軟式と異なり当てただけでは飛ばないので、アメリカでは小さなころからフルスイングをするよう教える。また、硬式球を遠くに飛ばすことの難しさを実体験しているファンは日本以上に多いだろう。

 

 さらには高校までの試合形式はリーグ戦がほとんどなので、攻撃ではバントやエンドランなどの戦術を駆使して勝つことよりも、若い年代で身に着けるべきこと、すなわちフルスイングで強い打球を打つことを重視している。

 

 他方で大学、マイナーリーグとレベルが上がるにつれ、飛ばす力がない選手は生き残るために、長距離打者ではない方向性を選択せざるを得なくなる。結果として、メジャーの長距離打者は最後まで勝ち残った選りすぐりの一流打者として、常時フルスイングをすることが許されている猛者たち、ということになる。

 

 アメリカのファンはこうしたことをよく理解していて、メジャーリーガーの本塁打に熱狂するのだろう。そして球団側も、ファンのこうした要望を十分に理解していて、期待に応えるべく長距離打者を育てようとするのだと思う。
さらにメジャーのトップレベルにおいて、100マイル(約160キロ)の剛速球をストライクゾーンに投げられることや、それを打ち返して400フィート(約122m)も飛ばすことが、ほんのひと握りの人間にしかできないということも、よく理解されている。だからこそ、アメリカの野球はパワーとスピードが重視、賞賛されているのだと、個人的には推測している。

 

 ところで、アメリカで首位打者は「Batting Champion」と呼ばれ、高い価値が与えられている。1980年~1990年代に活躍し、ナショナルリーグ最多となる8度の首位打者に輝いたトニー・グウィンはもちろん偉大なレジェンドだ。しかし、アメリカにおける打者のスーパースターと言えば、ベーブ・ルース、ウィリー・メイズ、ハンク・アーロン、最近ではバリー・ボンズやアレックス・ロドリゲスなど、打率よりも本塁打で目立つ選手を挙げるファンは多い。

 

 MLB通算本塁打数の上位は、ボンズ(762本)、アーロン(755本)、ルース(714本)、ロドリゲス(696本)と続き、現役のアルバート・プホルス(679本)を挟んでメイズ(660本)が6位である。7位はこれまたMLBを代表する人気者といえるケン・グリフィーJr.(630本)だ。

 

 1998年、マーク・マグワイアとサミー・ソーサは、1961年にロジャー・マリスが記録した年間最多本塁打記録である61本を上回るペースで本塁打を量産したが、このときも全米をあげての熱狂を巻き起こしていた。やはり、アメリカのベースボールでは、本塁打こそがゲームの花形なのだと言えるだろう。

 

 このように本塁打を日本以上に高く評価するアメリカだからこそ、フルスイングで本塁打を量産する大谷選手の人気も高まっているのだと思う。東洋からやってきた投打の二刀流選手が大活躍、というだけでもかなりの人気選手になっただろうが、仮に大谷選手がいわゆるアベレージヒッターだったら、ここまでの人気者にはならなかったのではないか。

 

 そしてこの点は、我々日本に住むファンにとっても共通する。MLBに渡る日本人選手は、投手なら通用するが野手は難しい、いわんや長距離打者は成功しない、と長らく言われてきた。つい半年前まで、日本人選手がMLBで本塁打王争いをするなど夢のまた夢で、可能性すら語られることがなかった。

 

 その夢の世界を、あろうことか投手を兼任しながら実現している。しかも先発投手として一流と言える成績を残しながら、である。大谷選手はアメリカのファンにとっても、日本のファンにとってもかつてないスーパースターになりつつあり、我々は今、その過程を目撃している。

 

文・元メジャーリーグ通訳、現MLB選手会公認代理人・小島一貴
※成績は10月2日現在

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