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大谷翔平、いよいよ投票まで1カ月…MVP獲得へ3つの「マイナス要素」&「プラス要素」をMLB元通訳・小島一貴氏が数字で解説

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2021.10.06 16:15 最終更新日:2021.10.06 16:15

大谷翔平、いよいよ投票まで1カ月…MVP獲得へ3つの「マイナス要素」&「プラス要素」をMLB元通訳・小島一貴氏が数字で解説

写真・USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 

 2001年にシアトル・マリナーズのイチロー選手がMVPに輝いて以来、日本人として2人めのMVP獲得なるか、大谷選手に期待が集まっている。NPB同様、MLBでも記者による投票で決定されるわけだが、今年のアメリカンリーグは特に悩んでいる記者が多いのではないだろうか。

 

 

 今季、サルバトーレ・ペレス(ロイヤルズ)は捕手としてのMLB本塁打記録を更新し、本塁打と打点の二冠王もジョニー・ベンチ(レッズ)が1970年、1972年と二度達成して以来2人めである。145年の歴史のなかでたった2人、しかも捕手として最多の本塁打数なのだから、通常のシーズンならまずMVPを獲ってもおかしくない。

 

 そもそも捕手は守備の負担が大きく、打撃成績が圧倒的でなくてもMVPを獲得したことがある。直近の捕手のMVPは、2012年のバスター・ポウジー(ジャイアンツ)で、彼はこの年の首位打者だったが、本塁打はリーグ22位、打点は同6位であった。ただし、チームはワールドシリーズを制覇した。

 

 その前の捕手のMVPは、2009年のジョー・マウアー(ツインズ)だ。やはりリーグの首位打者、しかもイチロー選手を抑えて.365という高打率だったが、本塁打はリーグ17位、打点は同16位で、チームは地区優勝したもののプレイオフは地区シリーズで敗退した。

 

 一方のブラディミール・ゲレロJr.(ブルージェイズ)は、今年三冠王に最も近いと言われてきたが、最終的には本塁打王をペレスと分け合い一冠だった。それでも打率はリーグ3位、打点は同5位で、こちらもMVP級の活躍と言える。そもそもMVPは上位のチームから選ばれる傾向があり、シーズン最終戦までワイルドカード争いをしたブルージェイズは結果的に地区4位だったとはいえ、プレイオフ争いから早々に脱落したロイヤルズやエンゼルスよりも上位の成績である。最近の例で言えば、リーグは異なるが2015年にMVPを獲得したブライス・ハーパー(ナショナルズ)に近い。この年のナショナルズは地区2位ながらプレイオフを逃し、ハーパーは打率2位、本塁打1位、打点5位だった。

 

 ちなみにゲレロJr.の父親は高打率で長打力もあり、足も速く肩も強い、いわゆる「5ツールプレイヤー」だった。シーズンベストは打率.345(2000年)、44本塁打(2000年)、131打点(1999年)、40盗塁(2002年)。これらの野手4部門で一度もタイトルを獲得することはできなかったが、2004年にアメリカンリーグMVPに輝いた。当時の在籍球団は、奇しくもエンゼルス。今年、ゲレロJr.がMVPを獲得すれば、MLB史上初の親子MVPとなる。それを見たいというファンも記者も少なくないだろう。

 

 そんな有力候補の2人と争う大谷選手について、まずはマイナス要素から見てみよう。

 

1.打率が低いこと

 大谷選手の打率は.257。MLBのMVP受賞者の中で打率が最も低かったのは、1944年のマーティ・マリオン(カーディナルス)の.267。もし、打率.257の大谷選手がMVPを獲得すれば、投手を除いてMLB史上最も打率が低いMVPになる。

 

 なお、過去10年の両リーグのMVPの中で野手は延べ18人いるが、最低打率は2017年ジャンカルロ・スタントン(マーリンズ)の.281。リーグ順位は24位で、過去10年では最も低い。一方で59本塁打、132打点は二冠王だった。今季の大谷選手の打率はリーグ45位である。

 

2.約100年ぶりの活躍であること

 2021年の大谷選手は、ベーブ・ルース以来約100年ぶりに1シーズンを通して投打で活躍した選手となった。約100年ぶりの活躍をしたことは、大谷選手をMVPに選ぶ「プラス要素」のはずだが・・・・・・。

 

 だが、ここでちょっと待てよという議論もある。大谷選手は自身にしかできない活躍を見せたわけだが、まだ27歳。健康なら来年も再来年も、いや、あと5~6年くらい同じような成績を残すのではないか。だとすると2021年、誰もできない活躍をした大谷選手をMVPに選んだとして、翌年以降も同様の成績なら、毎年大谷選手がMVPということになる。それでいいのか? という議論だ。

 

 実際に現地の中継では、解説者がこのような議論をしていた。やや詭弁のように思えるが、投打同時に一流の活躍ができるのは今現在、地球上に大谷選手しかいない以上、あり得る議論なのかもしれない。

 

3.チーム成績がよくなかったこと

 ゲレロJr.のところでもふれたように、MVPは上位のチームから選ばれることが多い。今季のエンゼルスは地区4位で、結果的に地区4位だったとはいえ、最終戦までプレイオフを争ったゲレロJr.のブルージェイズよりも下位のチームと言える。MVPに選ばれるためには、チーム成績が悪いことはマイナス要素と言える。

 

 以上のように、大谷選手がMVP選ばれない理由はいくつか考えられるのだが、逆に以下の3つのプラス要素もあることもつけ加えておこう。

 

1.打率の低さを補って余りある活躍

 打率の低さはマイナス要素ではあるが、それ以外の分野で打率が低くても関係ない! と言えるだけの活躍をしていれば、あまり考慮されないだろう。1944年MVPのマリオン(カージナルス)は打率.267、6本塁打、63打点、1盗塁と失礼ながら平凡な打撃成績である。だがマリオンは190センチと、当時としては超大型ショートで、長い手足を活かして打球を好捕することから「The Octopus」と呼ばれ、最高のショートと言われていた。つまり、マリオンの場合は打撃成績が平凡であっても、打撃成績など関係ない! と言えるくらい守備の素晴らしさが際立っていたということだ。

 

 MVP受賞者の中で2番めに打率が低いのは、1961年のロジャー・マリス(ヤンキース)で.269だった。この年のマリスは、ベーブ・ルースが1927年に記録した1シーズン最多本塁打数である60本を超える61本塁打を記録したのだから、打率はほとんど問題にならなかっただろう。

 

 言うまでもなく大谷選手は長打力、走力でトップレベルの成績を残し、投手としても一流と言える成績を残している。打率が低くても関係ない! と言って差し支えない。

 

2.約100年ぶりの活躍であること

 これはマイナス要素に挙げたが、当然プラス要素でもある。単純に年数で比較しても、大谷選手は約100年ぶり、ペレスが捕手として本塁打王と打点王の二冠を達成したのは1972年のベンチ以来49年ぶり、ゲレロJr.は三冠王を逃したが仮に三冠王だったとしても、2012年のミゲル・カブレラ(タイガース)以来9年ぶりである。

 

 このなかでは、約100年ぶりの活躍をした選手が「Most Valuable(もっとも価値がある)」のは間違いない。以後5、6年間、同じような成績を残したらどうなるのかは、その年ごとに記者の投票が答えを出すだろう。

 

3.チームの成績がよくなかったこと

 これもマイナス要素に挙げたが、プラス要素でもある。ゲレロJr.は本塁打20本以上のチームメイトが6名もいたが、大谷選手はたった1名、29本のジャレッド・ウォルシュだけだった。ゲレロJr.はこれら強打者に守られながらのシーズンだったが、大谷選手は打線のなかで孤軍奮闘状態。後ろに強打者がいれば四球はもっと少なくなり、勝負してもらえる回数も増えたはずだ。

 

 実際、過去3度MVPに輝いたチームメイトのマイク・トラウトは、2016年、2019年とチーム成績が4位ながらMVPを受賞している。チーム成績が悪かったということは、裏を返せばそれだけ好成績を残すことが難しいとも言えるのである。

 

文・元メジャーリーグ通訳、現MLB選手会公認代理人・小島一貴 ※所属チームはすべて当時のもの

 

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