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消えた中国人テニス選手の“命の交渉”…元JOC参事の春日良一氏が明かす舞台裏
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2021.11.30 06:00 最終更新日:2021.11.30 06:00
あるひとりの中国人女性テニスプレイヤーの名が、世界を揺るがしている。女子テニスのダブルスで、世界ランク1位に輝いたこともある名プレーヤー・彭帥(ほうすい)選手だ。
彭帥選手は、11月2日に自身のSNSで張高麗・前副首相から性的関係を強要されたと告発した。しかし、その告発は検閲により数時間後には取り消されたうえ、その後、2週間以上にわたって彭帥選手の行方がわからなくなる事態が発生した。
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「欧米を中心に、ネット上で“失踪事件”が大きく騒がれるようになるにつれ、女子テニス協会(WTA)までこの問題に言及し、中国で開催予定のテニス大会中止の可能性までちらつかせながら、中国政府に彭帥選手の身の安全を求めました。ウイグル問題などで中国政府の人権軽視の姿勢が問題視されているなか、彼女の件も国際問題となったんです」(全国紙記者)
慌てた中国政府は、国営メディアの記者や編集者を通じて本人のメールや写真、さらには動画などを紹介して、彭帥選手の無事を主張した。しかし、そうした“証拠品”まで疑問視される事態となった。
そして11月21日、国際オリンピック委員会(IOC)は、トーマス・バッハ会長が、彭帥選手と約30分間のテレビ電話をおこなったと発表。彭帥選手は北京の自宅で安全に元気で生活しており、バッハ会長は北京五輪で食事を一緒にする約束をしたという。
「これに対し、国際人権団体の『ヒューマン・ライツ・ウォッチ』が『IOCは中国政府の人権侵害に加担している』と声明を出すなど、世界的に非難の声が上がっています。そもそも、東京五輪でバッハ会長が“ぼったくり男爵”と揶揄されたように、近年の五輪は、開催国にとって非常に大きな経済的負担となっています。そんななかで、中国政府は数少ない“お得意様”。一方の中国政府も、国家の威信をかけて北京冬季五輪を無事、開催させたい。両者が手を握り合った結果のパフォーマンスだと考えられているんです」(同前)
だが、これに異を唱えるのが、元JOC参事で五輪アナリストの春日良一氏だ。
「今回のバッハ会長と彭帥選手の会談は、バッハ会長から中国政府に持ちかけたものです。オリンピアンの命と安全を守る必要があると考え、彼女が生きている、と自らが確認できる形で直接会いたいと、中国側に申し出ました。
中国側も、何か打開策はないかと思っていたところだったので、バッハ会長なら、と習近平氏はゴーサインを出しました。ただし中国側は、彭帥選手とのやり取りを自由に公表するのはNGだ、という条件を出したんです。バッハ会長としては、まずは安否の確認が最優先と考えていたので、中国側の条件を飲みました」
ポイントは、バッハ会長が「食事の約束をした」という点だという。
「食事の約束をしたはずなのに、彼女が“消えた”となれば、IOCのメンツが丸潰れになります。つまりバッハ会長としては、少なくともその食事の日までは彼女の身の安全を守ることができると考えたんです。WTAのように中国を強く非難したところで、中国政府のさらなる反発を呼ぶだけ。バッハ会長は、オリンピアンの命を守ることを最優先にしてアクションを起こしたということです」
彭帥選手の“命”をめぐる、ぎりぎりの交渉――。だが、中国事情に詳しいジャーナリスト、もがき三太郎氏は、「火消しのために彭帥選手が命を奪われるようなことはないはずだ」と語る。
「事件の真相は、単なるエロおやじのマヌケな醜聞という可能性が高いと思います。背後で反・習近平派が暗躍している、などという複雑なものではないでしょう。たしかに中国では人がよく消えますが、それらは明確に、国家の安全にとって不都合な存在だからです。今回の彭帥選手の告発は、決して中国の統治システムへの挑戦や、習近平への批判を意図したものではありませんからね。しかも“消す”にはあまりに有名になりすぎました」
とはいえ、この先、彭帥選手が一生、政府の監視下に置かれるのは間違いないという。
「中国国内では、彭帥選手の事件はいっさい報じられていません。あるネットユーザーが、事件発覚後にいたずらで彭帥選手のアカウントを作ったのですが、わずか4分で発言禁止になったほどです。中国政府は、この件を口実に欧米諸国による北京五輪ボイコットが進むのではないかと恐れているんです。最悪のケースは、彭帥選手が海外に亡命して、好き勝手に話されること。現在、彼女の身の安全は保障されているでしょうが、厳しい監視下に置かれているのは間違いありません」
とはいえ、国家がひとりの民間人を平気で“厳しい監視下”に置くことは、事実であれば許されるものではない。元フェンシングのオリンピック選手だったバッハ会長には、華麗に快刀乱麻を断ってほしいものだが…。
写真・AFP/アフロ
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