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高木美帆も小林陵侑も平野歩夢も…金メダリストの共通項は「きょうだいアスリート」活躍の理由を専門家に聞いた

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2022.02.23 06:00 最終更新日:2022.02.23 06:00

高木美帆も小林陵侑も平野歩夢も…金メダリストの共通項は「きょうだいアスリート」活躍の理由を専門家に聞いた

3人の金メダリスト(左から高木、小林、平野/写真・JMPA)

 

 17日間にわたる熱戦が繰り広げられた北京オリンピック。日本は、冬季五輪で過去最多となる「18」のメダルを獲得した。そのうち、金メダルは3つだ。

 

 第1号は、2月6日におこなわれたスキージャンプ男子ノーマルヒル決勝で275.0点をマークした小林陵侑(25)だ。

 

 11日には、スノーボード男子ハーフパイプ決勝に平野歩夢(23)が登場。最高難度の「トリプルコーク1440」を見事に決め、同競技で史上初となる金メダルを獲得。

 

 

 17日のスピードスケート女子1000mでは、高木美帆(27)が金メダル。高木は今大会で合計4つのメダルを獲得している。

 

 実は、この3人にはある共通項がある。スポーツジャーナリストがこう語る。

 

「今大会で金メダリストとなった3選手は、いずれも “きょうだい” で大会に出場しています。たとえば、小林陵侑選手の兄は、個人ラージヒルで24位となった小林潤志郎選手(30)。平野歩夢選手の弟は、ハーフパイプで五輪初出場を果たした平野海祝選手(19)です。

 

 高木美帆選手は姉・高木菜那選手(29)とともに女子団体追い抜き(チームパシュート)に出場。平昌五輪に続く2大会連続の『姉妹で金』の期待がかかりました。菜那選手が最終コーナーで転倒し、惜しくも銀メダルに終わりましたが、うなだれる姉を優しく気遣う妹の姿に激励の声が集まりました。

 

 今回、北京五輪に参加した “きょうだい” アスリートは10組20人にのぼり、過去最多となります。

 

 ほかのメダルでいうと、ノルディックスキー複合団体で銅メダルを獲得した渡部暁斗・善斗兄弟、カーリングで銀メダルを獲得した『ロコ・ソラーレ』の吉田知那美・夕梨花姉妹などです」

 

 なぜ、今大会には多くの “きょうだい” アスリートが誕生し、華々しい成果をあげることができたのか。家族とスポーツの関係に詳しい、岐阜大学教育学部の春日晃章教授に話を聞いた。

 

■身近なライバルとしての存在

 

「オリンピックは華やかな世界ですが、実際には、地道に打ち勝っていかないとたどり着けず、あらゆるものを犠牲にしなければならない。

 

 もちろん練習も、肉体的かつ精神的に、非常に苦しいものです。そのため、1人で取り組んでいると、弱音を吐いてしまいがちです。1人で苦しむ姿を見たら、親御さんも子供を競技から離れさせたくなる。

 

 しかし、 “きょうだい” で切磋琢磨しながら取り組んでいる場合、自分の心が折れそうでも、近くで頑張っている “きょうだい” の姿を見て、また頑張ろうと奮起する。苦しくても、あきらめずに競技を続けることができるのです。

 

 つまり、 “きょうだい” アスリートは基本的に、ドロップアウトしにくい。いまの子供たちって途中であきらめたりすることが多いんですが、いちばん近いところにライバルがいることで、競技から離脱しにくい環境が生まれるんです」

 

■子供に取られる時間の “効率” がいい

 

「冬のオリンピックで採用されている種目は、基本的にマイナースポーツです。特殊な競技である以上、特殊な環境がないと練習ができない。たとえば、雪があればジャンプ台で練習できますが、雪がない場合は人工芝のジャンプ台に行かなければならない。

 

 夏の競技はメジャーなものが多く、野球なら少年団、サッカーならサッカークラブと、身近に取り組める環境がある。夏の種目に比べると圧倒的に練習環境が特殊な冬のスポーツは、まず、親御さんの送り迎えが絶対的に必要になってきます。

 

 すると、弟や妹も同じように練習場所に連れていくことになる。経済的にこそ親の負担が増えますが、送り迎えなどはそれまでと同じ要領で済むわけです。そして、兄や姉の頑張る姿を見て、下の子もやりたがる。いわば、 “きょうだい” アスリートは親から見て時間効率がいいのです」

 

 たしかに、金メダルを獲った小林陵侑も「ジャンプを始めたきっかけは兄という存在が大きい」と語っている。

 

■経済的な負担が少なくてすむ

 

「家庭の経済的なメリットとして、道具の使い回しができる点もあげられます。競技を始めたばかりのときは、お兄ちゃんやお姉ちゃんのお古を使えばよく、新規で買う必要はありません。もちろん、ある程度、レベルが上がるとそれぞれの道具が必要になりますが、競技に触れる入口は広い状態と言えます」

 

 じつは、 “きょうだい” アスリートはさまざまだが、一般的には「同性が有利」「弟妹の方が大成しやすい」のだという。

 

■ “きょうだい” アスリートでは同性が有利

 

「今回の北京五輪では、合計10組の “きょうだい” アスリートが出場しましたが、すべて同性なんですよ。性が違うと、練習環境と練習プログラムが変わってしまう。一方で、性が同じだと、家族がサポートするうえで、同じ場所と同じ時間で同じ練習ができる。

 

 親はアプローチしやすい上、切磋琢磨という点でも、男女で別れていると、男性は男性的な視点での取り組み、女性は女性的な視点での取り組みとなり、お互いの見本になりづらいんです」

 

 では、下の子が有利な理由とは?

 

■弟や妹の方が大成しやすい

 

「 “きょうだい” でスポーツをやっている場合、ほとんどの場合、兄か姉が先に競技を始めます。そうすると、それを見た弟・妹は、早い年齢で競技を始めることが多い。

 

 兄・姉の練習方法を見ることで、下の子はその技術を比較的、短期間で習得できます。競技力の向上に必要なことを、幼い頃から吸収できるわけです。

 

 今回の冬季五輪を見てみてわかったように、技がすごく高度化しています。低年齢からこういった練習をしていないと、このレベルに到達するのは難しいでしょう。そういう意味で、早い年齢で競技を始めた弟・妹のほうが大輪の花を咲かせやすいんです」

 

 9歳から12歳の間は、「ゴールデンエイジ」といって運動能力がとても高まりやすい。だが、そこで運動能力を高めるには、その前の段階、5歳から8歳の「プレ・ゴールデンエイジ」にどんな取り組みをするのかが大事だという。

 

「この時期に、兄・姉の影響で特定のスポーツを始める子供たちこそが、将来的にトップレベルの能力を身につけやすいんです」

 

 スノーボードの冨田せな選手は、妹のるき選手に対し、「いちばん負けたくないライバル」と語り、見事、銅メダルを手に入れた。そうした意味でもちろん例外はあるが、たしかに弟・妹のほうが有利なことが多いのだろう。

 

 北京五輪では、苦しみを分かち合い、喜びも共有する “きょうだい” アスリートたちが、多くの感動をもたらした。

 

( SmartFLASH )

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