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サッカー戦術に革命を起こした男…ペップの真髄は「プレーは自動的に決まる」
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2022.02.28 20:00 最終更新日:2022.02.28 20:00
ここ10年余りのサッカー界で起きている「パラダイム・シフト」を語る時、この男の名を避けて通るわけにはいかないだろう。ペップ・グアルディオラ、今現在に至るまで続く戦術の一大革命を起こしたと言われている男である。
ペップはサッカーの勝敗をコントロールするにあたって最も重要な要素は「ボールを支配すること」だと信じている。ここで言う「ボールを支配する」とはパスを回し続ける、ということとは根本的に違う。ペップは言う。
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「私はパスワークを目的とするすべてのプレーを嫌う。ティキ・タカ(細かいパスをつなげて攻めていく戦術)のことだ。そんなものはゴミで、何の意味もない。相手ゴールに迫ることを目的として、明確なパスを出さなければならない。パスワークのためにパスをつなぐのではない」
要するに意図のないパスをいくら重ねたところで、それは勝利という目的に近づく手段にはなんらつながっていないということだろう。彼が指すところの「ボール支配」とは、ボールを動かしながら相手を自陣深くに押し込みつつ守備組織を崩し、仮にボールを失っても即座に奪回出来る状態に試合を持ち込むことを意味する。
こうなると相手は自陣に亀のように籠もるしか打つ手がなく、やっとの思いでボールを奪えても、前に誰も味方がいないのでまともに攻撃すら出来ない状態だ。
気が付けばペップのチームだけが延々とボールを回しながら攻撃を繰り返している。イメージとしては格闘ゲームの「ハメ技」に近い。もはや相手チームはサッカーをさせてもらえないのだ。
ペップが最初に指揮したFCバルセロナ(2008~12年)で構築したのはまさに、この必勝パターンだった。当時、ペップバルサは圧倒的な強さを誇っていたが、それは事実上、試合から相手を消し、「ピッチにはバルサしかいなかった」としか形容の出来ない試合展開に持ち込んでいたからだ。「試合から相手を消す」、これ以上の常勝戦術はないだろう。
■相手の動きからプレーが “自動的に” 決まる
以前、ペップはインタビューで「理想のサッカーは?」と聞かれ、「私にとってのいいプレーとは相手の動きからプレーの決定を下していくもの」という主旨の発言をしている。彼にとって「どこにパスを出すのか?」は決してその場の思いつきであってはならない。そこには理由があり、それは「相手が決めてくれる」からだ。
あなたがもしシティのCB(センターバック)として試合に出ているとしよう。今、ボールが足元にある。目の前からは相手の選手がボールを奪おうと迫ってきている……さて、どうする? トップレベルの試合では、ここで次のプレーを考えているようではもう遅い。相手のプレッシャーにより、すでに選択肢は大幅に削られている。
しかし、ペップのチームは違う。あなたが次にすべきプレーはあらかじめ定められており、迷う必要がない。なぜならそれは相手が決めてくれるからだ。
迫ってきているのがWG(ウイング)ならばSB(サイドバック)がフリーになっているのでサイドにボールを出すべきであり、1トップのFW(フォワード)であれば隣でフリーになっているCBを使うべきだ。
この時、右足を使うのか左足を使うのか、それともボールを一度運んでからパスをするのか。その方法はあなたに託されているが、ボールを届けるべき目的地は定まっている。
サッカーにおいてフィールドの大きさと選手の数は決まっている。決まっていないのはスペースで、スペースとは選手が移動した後に現れては消えていく蜃気楼のようなものだ。だがペップに言わせればスペースは確実にある。なぜならボールを動かせば相手も動くから。
ペップにとって「悪いプレー」とは生まれているスペースに気付かず思いつきでプレーし、わざわざ窮屈なエリアにボールを運ぶことだ。だが味方と相手のポジションがわかっていれば、「ここにいる」「そこが空く」という感覚でプレー出来るので、ピッチには秩序が保たれる。
一つひとつのプレーとその集合体である90分間は極めて再現性の高いものとなり、必然的な勝利につながると考える。
このペップの思考は、もはやサッカーのプレーを数式化するアプローチに近い。実際に就任5シーズン目を迎えたシティでは、試合中のビルドアップに極めて高い再現性を見て取ることが出来る。選手個々に特徴の差こそあれど、誰が出ても同様の判断を下せるようプログラミングされたチームになってきた。
ちなみにカンテラ(下部組織)出身の選手が主力を形成していた頃のバルセロナでは、育成によってこの判断の統一がすでにインストールされた状態でトップチームに選手が上がってくることが強さの秘訣であった。
長年、同じサッカーフィロソフィーで育成され、その中から選抜された選手たちは、同じものを見た時には同じ判断を下せるようになっている。これが阿吽(あうん)の呼吸と呼ばれる連携につながるのだろう。
ただバルセロナの例は、世界でも特例中の特例である。したがってペップが今シティでやっていることは、これを育ちの違う者たちが集まったチームにおいても再現しようという試みなのだ。
「育ちが違う」ということは、違う言語体系でサッカーを理解している、と言い換えてもよい。サッカーを学んできた環境、何が良いプレーで何をしたらいけないのか、その根本的なところが千差万別なのだ。
ペップはこの言語体系を一致させ、共通言語を自ら作り出し、彼らの間に阿吽の呼吸と呼ばれるそれに近いものを人工的に作り出している。
ペップ自身はもっと別の言い方で表現しているかもしれないが、例えば「偽SB(SBをサイドではなく中に入れてボランチの横に配置し、中央を厚くする戦術)」や「偽9番(0トップ、通常のFWより少し下がった中途半端な位置をとる)」と改めて言葉で定義することで、チーム内での共通言語が生まれていく。これは耳から入る情報で選手たちの脳内にアプローチする手法と言えるだろう。
視覚も重要だ。例えば5レーン。見るものを同じにしてしまえば、そこに共通理解が生まれる。だからこそペップはグラウンドにわざわざ物理的にレーンを引いてまで可視化にこだわったと考えられる。
レーンを引いてしまえばルール化もスムーズに進みやすい。例えば同じレーンには2人以上入ってはいけないであるとか、誰かがこのレーンに入ったら最初からいた選手は隣のレーンに移動する、といったルールを作ってしまえばいい。
言葉で認知させ、視覚で認識させ、ルールによって動きの共通理解へと昇華させるのだ。
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以上、龍岡歩氏の新刊『サッカー店長の戦術入門 「ポジショナル」vs.「ストーミング」の未来』(光文社新書)をもとに再構成しました。現代のサッカーはどこまで進化するのか、世界の名将たちの知恵比べを読み解きます。
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