昭和のレジェンドたちとの絆も深い。
「全日で三沢さんの衣装を作っていたときは、天龍(源一郎)さんは入れ替わりで出て行ってしまったのですが、2000年に戻ってきたときに僕のほうから逆にオファーしました。
それでタイツやシューズ、入場ガウンを作り始めました。伝説のタッグチーム『龍原砲』の入場ジャンパーを作ったときは本当に幸せでしたね。
天龍さんには、いつも『バカヤロー』って言われてました。選手から『バカヤロー』って言われるのは、最大の褒め言葉なんです。『おもしれえことやりやがって、バカヤロー!』みたいな。
でも、周囲の人は怒られてると思ってビックリしたんじゃないかな。僕も最初は戸惑いましたから(笑)」
「飛ぶぞ」のコメントで、大ブレイクした長州力とは、こんな珍エピソードが。
「長州さんには、シューズとタイツを作っていました。2015年ごろ、体型が変わってタイツがずり落ちると相談されて、今と同じサイズ、ちょい大きめ、さらに大きめのものと3種類用意したんです。穿いてみていちばんフィットするもの以外は戻してくださいと言ったら、試合後に2枚戻ってきたのですが、1枚は濡れていたんです(笑)。
さっきの試合で穿いていたジャストフィットのタイツを戻したんだと思ったら、電話が来て『こないだもらったタイツが、またしっくりこないんだ』と(笑)。ジャストフィットの1枚を洗濯して長州さんに持って行ったら『おお、今度のはピッタリだよ〜』って。そりゃあ、当たり前でしょう(笑)」
藤波辰爾とは、今でも連絡を取り合う仲だという。
「藤波さんは今、昔のガウンの復刻版を作っています。いつもニコニコしていて、笑顔が素敵な方ですね。藤波さんは新日の社長を辞めたりと、過去にいろいろありましたが、本人はまったく気にしていないんです。
スジがどうこうっていろいろうるさく言う人もいますが、そういう頑固な人ってその後の仕事があんまりうまくいってないことが多いと思うんです。その点、藤波さんは柔軟な頭を持っています。猪木さんのDNAが根づいているんだと思います」
もっとも親交の深かった三沢は、非常に律儀な人だったという。
「NOAHの旗揚げのときにガウンを作って、それを僕がもらう約束をしていたんです。
三沢さんがロンドンブーツ1号2号のテレビ番組に出演したときに、そのガウンを飾っていたんですが、(田村)淳さんが『このガウンくださいよ』と言って……まあ、番組の流れとしてはあげてしまうじゃないですか。
でも、三沢さんは「これは渡す人がいるからあげられないです』って、キッパリ断わったんです。義理人情に厚い人でしたね」
ほかにも、大仁田厚や武藤敬司など、今でも現役でリングに上がっている選手の衣装も手がけている。
「大仁田さんには、黒と白のリングシューズを作りました。大仁田さんは写真を撮るとき、自らカメラに寄っていくんですが、これは自分を大きく見せるためなんです。シューズも厚底にしているので、つま先立ちで試合しているようなものですよ。自分の見せ方を本当に考えています。
武藤さんも写真を撮るとき、ニーパッドをちょっと上げるんです。そうすると、膝下が長く見えるからだそうです。試合中はもちろん下げるんですが、そうやって観客に自分がどう見えているかを考え抜いているのがプロレスラーなんです」
全日、新日のレジェンドであるジャイアント馬場、アントニオ猪木の衣装やリングシューズには、特に思い入れが深いという。
「馬場さんの現役時代のジャージのサイズは5Lでした。体のわりに胸板が薄かったのが印象的でしたね。最近、馬場さんのジャージのレプリカを作ったのですが、サイズは本人が実際に着ていた5Lサイズのみを作りました。ファンには、馬場さんの実際のデカさを体感してもらいたかったんです。
シューズは必殺技の16文キックから、16文といわれてますが、実際は34cmなんです。16文だと38.4cmになってしまいますからね。
猪木さんのリングシューズも作っていましたが、シューズ職人から猪木さんの靴の木型が代々伝わっているんです。猪木さんは足の形が細くて、日本人にしては珍しい形なんです。陸上のアスリートみたいな足ですね。
2020年に、日本プロレス殿堂会という組織を立ち上げて、そこで歴代のスター選手のレプリカグッズを販売しています。引退後の選手のサポートや、レジェンドたちの功績を後世に伝え残したいという思いからですね」
ちなみに、小栗さんは意外なところで、AKB48メンバーの衣装も作っている。
「2017年に放送されたドラマ『豆腐プロレス』(テレビ朝日系)の衣装を担当しました。番組でコーチをやっていたミラノ(コレクションA.T.)さんを昔から知っていた縁がきっかけです。
出演者のなかで印象に残っているのは、SKE48の須田亜香里さん(オクトパス須田として出演)。
彼女の身体能力はレスラー向きですね。身長もあるし、プロレスラーになったら? と誘ったのですが、総選挙で上位の人気メンバーだって後で知って(笑)。でも、女子プロに入ったらスター選手になれる逸材ですよ。
今は地上波も夜中しかプロレス中継はやってないし、どんな形でもテレビでプロレスが取り上げられるのはありがたいですね。僕は業者ですが、プロレス業界全体を盛り上げて、もっとプロレスの人気が上がるお手伝いができれば、幸せだなと思います」