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カブス・鈴木誠也「シカゴの風の対応がカギ」元MLB通訳が解説するホーム球場の「地の利」

スポーツ 投稿日:2022.03.22 20:40FLASH編集部

カブス・鈴木誠也「シカゴの風の対応がカギ」元MLB通訳が解説するホーム球場の「地の利」

鈴木誠也(写真:ZUMA Press/アフロ)

 

 鈴木誠也選手(27)の所属先がシカゴ・カブスに決まった。それも5年8500万ドル、日本円にして100億円を超えるという超大型契約だ。

 

 これまでの鈴木選手の実績、そして今後のMLBでの対応力も見込まれての契約であり、素直に賛辞を贈りたい。ジャパンの4番がMLBでどのくらい活躍するのか、日本のファンにとってもシーズンが待ち遠しいところだ。

 

 

 まず、カブスの本拠地リグレーフィールドは1914年にオープンした。現在のMLB球団の専用球場としては、ボストン・レッドソックスの本拠地フェンウェイパーク(1912年オープン)に次いで2番めに古い。そのため、かつては設備の悪さ、端的にいえばクラブハウス(ロッカールーム)があまりに粗末なことが、選手にとってはマイナスだった。

 

 私は伊良部秀輝選手の通訳だった2002年、ビジターのクラブハウスに入ったことがあるが、あまりに狭くて居場所がないことに心底困った。

 

 クラブハウスの外にいては役割を果たせないので、仕方なくトイレの入り口付近に体を半分隠すようにして立っていたことを覚えている。ホームのクラブハウスは豪華なのかと球団の人に質問したら、少し広いだけで大差ないよと教えてくれた。カブスの選手たちが気の毒に思えたものだ。

 

 当時、球場の構造などを見て、クラブハウスを工事しなおすことは素人目には不可能に思えた。しかし選手からあまりに不評だったこともあってか、2016年開幕前に、まずホームチーム(カブス)のクラブハウスがリニューアルされ、他球場以上のものになったという。その後、ビジターのクラブハウスも新しくなった。

 

 ビジタークラブハウスはダグアウトからかなり遠く、通路は縦にも横にも狭いという難点は残るが、少なくとも通訳がトイレに身を隠すような状態ではなくなったようだ。ホームクラブハウスは、ダグアウトから近く快適と聞いている。NPBの専用球場は近年、どれも設備が整っており、それに慣れている日本人選手にとって、クラブハウスの居心地のよさはプラス材料といえよう。

 

 守備面では、まず球場の形状から見るとライトポール際はレフトに比べて2フィート狭く、センター最深部が若干ライトよりになっているが、それほど影響はないはずだ。

 

 影響があるとすれば、風ではないだろうか。シカゴは別名ウィンディシティと呼ばれており、風が強いことで有名だ。

 

 リグレーフィールドでもシーズンを通して風向きが安定せず、極端なことをいえば外野手はその日その日で、場合によっては試合中にも異なる対応が求められる可能性がある。

 

 ただ、鈴木選手の守備力はMLBでもトップクラスだと思われる。単純な遠投力や走力といった、身体能力だけなら鈴木選手より優れた選手は少なくないだろうが、打球判断、打球への対応、送球の正確さといった技術では、ほとんどのメジャー選手よりも鈴木選手が上だろう。

 

 したがって、試合を重ねるごとにシカゴの風にも十分に対応できるようになるはずだ。もっとも、アメリカでは日本と違い本拠地でのプレシーズンゲーム(オープン戦)をほとんどおこなわないので、特に開幕直後、鈴木選手がシカゴの風にどう対応するのか、要注目だと思う。

 

 また、リグレーフィールドは伝統的に打者有利の球場とされている。ファウルゾーンが狭いのは古い野球場の特徴といえ、打ち損じがファウルフライでアウトになりづらい点では打者有利だ。近年は、左打者の本塁打が少ないというデータが出ているようだが、右打者の鈴木選手にとって、マイナスの要素はあまりない。

 

 ひとつ不利に働きうる要素は上述した風だ。自分ではしっかりとらえたはずの打球が風の影響で失速して凡打になったりすると、ついつい力みがちになり、バッティングフォームが崩れて不振に陥ることもある。

 

 しかし、風向きが安定しないということは、逆に有利に働くこともある。「風が助けてくれることもある」と、あまり影響を気にせず好調時のスイングを心がければ、そもそも実力のある打者だけに打撃面でも崩れることはないだろう。

 

 技術面以外での不安要素があるとすれば、ファンが熱狂的であることだろうか。

 

 伝統のある球団で、2016年にワールドシリーズを108年ぶりに制覇するまでリーグ優勝にすら縁がなかったこともあり、チームが不振になるとファンのヤジもかなり荒っぽくなることで有名だ。当然、ファンの声に押される形で、地元メディアもシビアになる。

 

 こうした傾向は大都市では仕方のないことではあるが、同じシカゴでもホワイトソックスはそこまで厳しくはない。大型契約を交わしているだけに、ひとたび不振になると過剰なバッシングが起きることもあるだろう。もちろん、期待どおりの活躍をすれば、それだけ声援も大きくなるのだが……。

 

 さて、私なりにさまざまな日本人メジャーリーガーを見てきたなかで、ひとつ言えることがある。それは、MLBに行きたい、プレーしたいと強く、長く思ってきた選手ほど、MLBで活躍する可能性が高いということだ。

 

 鈴木選手はあまりMLBに詳しくないと本人も言っているくらいなので、MLBへの憧れは強くないのだと思っていた。しかし、2015年に広島カープに戻った黒田博樹投手の影響で、MLBでプレーしたいと思うようになった、とも語っている。

 

 ということは、7年ほどの長期にわたり、MLBでプレーしたいと思いながら切磋琢磨してきたということになる。その間の成績も文句のつけようがない。こういう選手は、きっと活躍すると、私は確信している。

 

文・小島一貴氏(元メジャーリーグ通訳、現MLB選手会公認代理人)

 

( SmartFLASH )

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