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元安美錦と元琴奨菊 2人の新米親方が語る若手教育の難しさ「今のコはすぐ『できない』と言うし休んじゃう」
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横綱・照ノ富士と関脇・若隆景の取り組み(写真・共同通信)
秀 今はお互い引退して親方になってますけど、若いコに指導するのは難しいですよね。
安 昔とはいろいろ違うしね。
秀 最近ようやくわかったんですけど、基礎ができてないコには、何を教えても伝わらないんですよね。
安 今の若いコはネットとかで情報をいくらでも得られるから、それに頼りがちになる傾向はあるね。教えたことを1回2回やってみて「できないです」とか言われちゃうんだから。いやいや、100回200回やって少しずつ身につけるものだって言うんだけど。
秀 安美関は何回も怪我をされて、それでもいろんな工夫をしながら稽古をされてたじゃないですか。
安 それはやらないとね。師匠にも怒られるし(笑)。
秀 でも、若いコは簡単に休んじゃうんですよ。怪我をしていても、何かやれることをやったらいいのにと思うんですよ。そういうのって、相撲にも表われるじゃないですか。
安 そうだね、相撲が単調になるんだよね。
秀 そうです。教えるほうも試行錯誤してるんですよ。
ーー秀ノ山親方も、いつかは独立して部屋を?
秀 そういう希望はあります。
安 横綱、大関までいった人は、次の世代に伝えていかないといけない立場だよね。
秀 この前、稀勢の里関(二所ノ関親方)の新しい部屋に行ったんですよ。いやぁ、あれには本当に驚きました。
安 茨城の阿見町だよね。横綱の場合は地元の支えがあるし、両国からは離れるけど、それを補うことができるという判断なんだろうね。
秀 土俵が2面というのも新しい試みですよね。
安 自分もだけど、横綱も引退後に早稲田大学の大学院で勉強したから、そういうアイデアが生まれてきたんじゃないかな。菊ちゃんもどうかな?
秀 いやいや、頭がパンクしちゃいますよ(笑)。
ーー名古屋場所の展望ですが、横綱・照ノ富士はどうですか?
安 横綱はしっかり仕上げてくるでしょう。先場所も、前半あれだけ相撲が噛み合っていなかったのが、後半あそこまで持っていけた。短い間でも調整ができる。土俵に立ってさえいれば、照ノ富士は照ノ富士ですよ。横綱以外では、若隆景じゃないですか。
秀 若隆景は嫌がられる相撲というのかな。自分だったら、まず一発弾いていこうとか思うんです。でもそれを我慢されて、下から下から攻めてこられたら、こっちの攻め手がなくなってしまうんですよね。
安 基本に忠実というか、あれだけ脇をきっちり締めておっつけられたら、もう体が大きいかどうかは関係なくなるからね。体が大きくない力士にとってはいい手本になる相撲だよ。琴ノ若はどうかな?
秀 すごくいいですよ! じつを言うと、最近まで琴ノ若のよさというものが、自分にはあまり見えてこなかったんです。それが去年の九月場所、初めて上位と当たったんですが、その場所で膝を怪我したんです。そこからですね、前へ前へと出るようになった。もともと差し身のよさは持っていますから、前に出るようになって、ひと皮もふた皮もむけましたね。
安 うん、すごくよくなっている。気も強いしね。
秀 そうなんです。出稽古が解禁されて、高安が部屋に来てくれたんですよ。琴ノ若もいい稽古をさせてもらったので、名古屋は期待できますよ。
安 前は琴勝峰のほうが伸びるのかと思ったけど。
秀 琴勝峰は弟(琴手計)が入ってきたので、いい刺激になっていると思いますよ。
安 弟は序ノ口、序二段と連続優勝。次は三段目か。
ーー三段目といえば、朝乃山がいよいよ復帰します。
秀 状況は違うけど、照ノ富士や阿炎(あび)といった関取から一気に番付を落として、そこから這い上がってきた人って、勝ち負けとはまた違う次元のところで相撲を取っているように思えるんですよ。とにかく、自分の相撲を取り切ることに徹しているような。
安 相撲を取りたくても取れない時期を経験すると、一番一番しっかり相撲を取ろうと思うんじゃないかな。相撲を取れることのありがたさ、それを仕事にさせてもらってるありがたみを感じてね。そういう姿を見せていくしかないよね、朝乃山は。
秀 気持ちって、そのまま相撲にも出ると思いますから。
安 では、熱い名古屋場所、新米親方として頑張ろう。
秀 はい、頑張りましょう。断髪式のアドバイスもお願いします!
安治川親方(元関脇・安美錦)
1978年10月3日生まれ 青森県出身 関取在位117場所は歴代1位タイ記録。2019年七月場所で引退。年寄・安治川を襲名。今年5月29日に断髪式をおこなった。現在は伊勢ヶ濱部屋で後進の指導にあたっている
秀ノ山親方(元大関・琴奨菊)
1984年1月30日生まれ 福岡県出身 2016年一月場所で初優勝。2020年十一月場所で引退。年寄・秀ノ山を襲名。10月1日に断髪式をおこなう予定。現在は佐渡ヶ嶽部屋で後進の指導にあたっている
写真・多田和也、須山 杏
コーディネート・金本光弘
取材協力・「CAFE kichi」