史上4度目の新人監督対決となった日本シリーズ。短期決戦ゆえに、指揮官の采配力、決断力の真価が問われたこの一戦。ソフトバンク・工藤公康監督の勝利で幕を閉じた。
「今の監督業は、能力より処世術だよ。昔は長期政権で監督をまかされる人が多かったから、じっくりチーム作りができた。けど最近じゃ、1、2年ですぐクビを切られる。そうなると、チームより、オーナーの顔色ばかりを窺うゴマすりが増えるわけだ」
こう語るのは、通算勝利数1565勝を誇る、名将・野村克也氏(80)。野村氏はプレーイングマネージャー、アマのシダックスを含めると5球団、28年間の長きにわたって監督を務めた。そんな野村氏が今回、現役時代に9人もの監督に仕え、現在は解説を務めるが、将来的には監督を目指している元・楽天の山崎武司氏(46)と、理想とする名将像について語ってくれた。
野村「山崎にはリーダーの資質があって弁も立つ。すぐにでも監督をやらせたい」
山崎「いやあ、よけいなことをしゃべりすぎるから、遅れちゃうんですよ(笑)」
野村「彼には楽天時代、よく助けられた。なんとか嶋(基宏)を一人前の捕手にしたかったから、ベンチでも横に座らせて、毎日のようにきつい要求もした。そんなとき、ベンチ裏に山崎が連れていって、アドバイスを送っていたんだな」
山崎「ほんと、ノイローゼ寸前でしたからね。でも、言ったことはたいしたことはないし、乗り越えたのも嶋ですから」
野村「名将の条件とは、まず選手、チームへの愛情に尽きる」
山崎「ある試合のチャンスで、礒部(公一)に回ってきた。ベンチで野村監督に、『お前ならどうする?』と聞かれたことがあった。彼は主力だったけど、調子を落としていたので、『代打では?』と言ったんです。でも、そうはしなかった。結果は三振。そのとき監督は、『三振はわかっていたけど、じゃあ礒部の気持ちはどうなんだ』と言うわけです。『まだペナントの序盤だし、ここで代打を送られれば彼は腐ってしまう。シーズンは長いし、これから彼に助けられることは多い。腐らせて、こいつを終わらせるわけにはいかないんだ』と。そこまで考えているのかと、びっくりした経験がありました」
野村「どんな人間にだってプライドがある。まずはそこを認めてやらないと」
山崎「あとはカリスマ性でしょう。野村監督は、圧倒的なオーラが出ていた。でも、最近の監督は存在感が薄い。『今日はどこにいるの?』なんて話していたら、すぐ後ろにいて驚いたりとか。監督によっては、自分の記録を抜くことに露骨に嫌悪感を示す人もいた。でも野村監督は『どんどん抜け』と。抜けるわけないんだけど、言ってくれることが嬉しかった。とくにベテラン選手の場合、これまでの実績にすごく敬意を払ってくれるんです。僕は9人の監督に仕えましたが、胴上げしたいと思えたのは、野村監督だけでした」
(週刊FLASH 2015年11月10・17日号)