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大谷翔平「居心地のよさ重視なら残留も」「2021年の後半失速が打撃の糧」エンゼルス番記者が明かすベンチ裏
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2023.07.12 06:00 最終更新日:2023.07.12 06:00
リアル二刀流を貫くエンゼルス大谷翔平(29)の勢いが止まらない。とくに6月は27試合すべてに先発出場し、自身3度め(日本人選手最多)の月間MVPを受賞した。
エンゼルスは7月9日時点で、ア・リーグ西地区で首位レンジャーズと7ゲーム差の4位(45勝46敗)。打者・大谷は本塁打(32本・1位)、打点(71・2位)でア・リーグの上位争いを演じるなど、初の三冠王も狙える位置につけている(打率.302はア・リーグ6位)。投げても7勝4敗、防御率3.32と、すでに2年ぶりのシーズンMVPは確実との報道も出始めているほどだ。
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はたして、エンゼルスは9年ぶりのプレーオフ出場となるか。11日、シアトルでのオールスターに3年連続で出場する大谷は、2023年オフにFAとなるため去就にも注目が集まっている。エンゼルスと大谷について、現地メディアはどう見ているのか。MLBの取材を続ける敏腕記者2人に、たっぷり語り合ってもらった。
――6月1日から3日にかけて、ヒューストンでアストロズに3連敗したときは、今季もエンゼルスのプレーオフ出場は厳しいかと思いましたが、徐々に調子を上げてきました。
サム・ブラム(以下SB) あのときはクラブハウスの空気も重かったし、3連敗した時点で、地区首位のレンジャーズに8.5ゲーム、ワイルドカード3位のヤンキースに5ゲーム差をつけられた。あのままズルズルいくんじゃないかと思っていた。
レット・ボリンジャー(以下RB) 去年の同じ時期に、14連敗したときのことを思い出したよ。ただ、2023年のエンゼルスは下位チームに対して取りこぼしが少ない。
SB 日程にも恵まれた。ホームに戻って対戦したのは、勝率5割以下のカブスとマリナーズ。そこで5勝1敗と勝ち越し、同時期にアストロズが4連敗したことで上が見えてきた。
RB そして、6月12日からテキサスに乗り込み、地区首位のレンジャーズとの4連戦に、3勝1敗と勝ち越したことが大きかった。
■前半戦のハイライトはレンジャーズ4連戦
――そこで、大谷が爆発しました。
SB 4試合で4発。しかも、初戦は延長で勝ち越しツーラン。最終戦で先発すると、6回まで2失点に抑え、終盤にダメ押しツーラン。
RB 飛距離もすごかった。450フィート(137.2メートル)、440フィート(131.1メートル)超えを連発して、打った瞬間、センターもほとんど追わなかった。レンジャーズ4連戦での活躍は、前半戦最大のハイライトになったんじゃないかな。
SB 5月の終わりからホームランのペースが上がり、気づいたら両リーグでトップに立った。テキサスでは監督に「大谷のMVPの可能性について議論するのは早すぎるか?」という質問も飛んだけど、このままいけば前半で確定するかもしれない。いや、すでに確定しているかも(笑)。
RB サムは昨年、大谷に投票したんだよね?
SB 批判もされたけど、大谷を毎日のように見ていれば、そのすごさがわかる。投打のバランスでいえば、2022年の大谷は、満票でMVPを獲得した2021年よりも上だと思った。
2022年は、早期にプレーオフ出場争いから脱落したことで、トレード期限の7月31日までに大谷が放出されるのでは、という噂が広がった。
SB 大谷は僕のことを嫌っているかも(笑)。いつも、トレードや再契約の質問をしていたからね。
RB こっちは助かったけど(笑)。今年も頼むよ。
SB チームはプレーオフ出場を争っているし、2023年はないと思う。たとえ、あるチームが大谷を獲得したとしても、今オフにFAとなるため、シーズン終了までの2カ月のレンタルとなる可能性がある。となると、獲得チームはエンゼルスが満足するような交換要員を出さないだろうね。
RB トレードで最大の交換要員を得るなら、やはり2022年やるべきだった。もしくは、2022年のシーズン終了後だった。
SB 2022年のオフは、アート・モレノオーナーが、球団を売却しようとしていたから、トレードどころか、大きな補強もできなかった。タイミングが悪かった。
■大谷ら主力3人の年俸総額が170億円超えも
――モレノオーナーは、なぜ売却を撤回したのか?
SB やはり、大谷の存在が話を難しくした可能性がある。
RB 大谷がすでに再契約を交わしていたなら、買う側も動きやすかったと思う。しかし、買収後に移籍されたら球団の価値は下がる。大谷の動向が決まらないうちは、金額が決まらなかったのでは。
SB モレノオーナーとしては、大谷を放出したオーナーとは見られたくないから動きにくかったのだろう。ただでさえ、球場に姿を見せればファンにブーイングされるほどなのに、もしFAで移籍されれば、不人気に拍車がかかる。
――ただ、エンゼルスは今オフにFAになる大谷を引き留められるのか?
RB それは、2023年次第じゃないかな。
SB 仮に2023年、ポストシーズンに行けたとしても、それが大谷との再契約に有利になるかどうかはわからない。エンゼルスは、長期的な視野でチームを作っているわけではないからね。大谷の年俸が5000万ドル(約72億円)になると、大谷、マイク・トラウト、アンソニー・レンドンの主力3人で、年俸総額が1億2000万ドル(約173億円)を超える。そうすると3人で、チーム総年俸の約3分の2となってしまい、チーム作りに影響しかねず、安定してプレーオフを目指すチームにはなりにくい。
RB 仮に今年プレーオフに出ても、2024年は失速の可能性がある。エンゼルスは、マイナーに有望選手が少ないので、将来性が高いとはいえない。オーナーが「年俸総額は気にしなくていい。優勝を狙う」と、メッツのオーナーみたいにお金を使うなら別だけど。
――そもそも2023年、エンゼルスはプレーオフに行ける?
SB 可能性は十分にあるけど……。やはり、トラウトの怪我は大きな痛手。さらに、ザック・ネト(遊撃手)が脇腹を痛めて離脱し、ジオ・ウルシェラ(一塁手)も骨盤を骨折して今季絶望。彼らの不在の影響がどう出るか。
RB メッツからエドゥアルド・エスコバー、ロッキーズからマイク・ムスターカス(ともに内野手)を相次いで補強したけど、いずれも、ピークを過ぎたベテラン。ネトやウルシェラの穴を埋められるわけではない。
投手・大谷は開幕直後の4月は4勝0敗、防御率2.25と安定していた。ただ5月以降は、やや調子を落とし(3勝4敗)、失点も増えつつある。勝利数に関してはチームとの兼ね合いがあるので、それだけで大谷の調子を判断するのは無理があるが、大谷が許した12本塁打のうち、7本がスイーパーを打たれたもので、スイーパーの投げすぎといった指摘もあった。
■バットボーイに頬を叩いてもらってゲン担ぎ
――先発では、投手・大谷も5月から6月半ばまで苦しんでいたけど、どう見ていた?
RB 疲れもあったのではないか。本人もそれをほのめかしていた。彼が疲労を認めるようなことを言ったのは初めてじゃないかな。2022年も終盤は中5日だったけど、基本的には中6日だった。しかし2023年は、ずっと中5日で投げている。しかも、WBCからフル稼働。あとは、ピッチクロック(投球間に設けられた制限時間のルール)も、影響しているかもしれない。
SB だから、チームも6月に入って一度、登板間隔を中6日にして、オールスター前後に10日前後の休みを設けたのだろう。
――疲労以外で気になったことは?
RB 前半戦は、あまり制球が安定しなかった。開幕からしばらく好投したけど、そのときも四球はなかなか減らなかった。そのうち、被本塁打が増え、失点が膨らんだ。スイーパーが甘く入るケースもあり、捉えられていた。
SB 逆にスプリットが減ったのは興味深い。今、ピッチセレクション(配球)は本人にまかされているが、捕手に委ねてもいいと思うけど……。
――捕手が逆に「首を振る」こともできるが……。
RB 大谷の試合でマスクを被っているのは、怪我で戦列を離れたローガン・オハッピーのほか、チャド・ウォーラック、マット・サイスら。彼らには経験がないから、なかなかNOとは言えないだろう。
SB (2022年102試合に出場した32歳のベテラン)マックス・スタッシーであれば、大谷に「それは違う。この球で攻めよう」と言えたかもしれない。ただ、彼は家族の事情と怪我で、2023年はメジャーで1試合も出場していない。
投手としては疲れを見せていた大谷だが、打者としては絶好調で、シーズンの約半分を終えて三冠王さえ狙える位置にいる。メジャー6年めで、投打のバランスは過去最高との声もある。
SB 皮肉にも、エンゼルスがFAで契約するとしたら、手の届かないレベルになりつつある。本当に年俸5000万ドルの10年契約。総額5億ドル(約720億円)の契約になりそうだからね。ドジャースはそれを想定して、2022年のオフは補強を控え、お金をセーブした。
RB ドジャース以外で、そこまで払えるとしたらあとはメッツぐらい。けど今後、主力のピート・アロンソとの契約も控えているので、動きたくても動けないのではないか。
――そもそも、大谷がお金を重視するとは思えない。それに、エンゼルスで大谷はとても居心地がよさそうに見える。
RB 試合前に、チームメートとじゃれ合ったりする光景は笑顔も多くて、これまで以上に居心地のよさを感じているようだね。2022年はバットを目覚めさせるためのゲン担ぎで、心肺蘇生をするような仕草をしていたが、2023年はマーカス・テームズ打撃コーチにコーヒーをかけてもらったり、バットボーイに頬を叩いてもらったりしているよ(笑)。
SB 一時期、ウルシェラとバットにメッセージを書き合ったりしている時期もあった。大谷がそうした居心地のよさを重視するなら残留もあり得るが、WBCで見せたような緊張感あふれる戦いを重視するなら、やはり移籍の可能性が高い。
■ヤンキース、レンジャーズとワイルドカード争い
――後半戦、大谷の活躍をどう予想する?
RB 投手としては、上がり目しかない。ピッチクロックにも慣れ、制球難も目立たくなった。スイーパーを減らして、ほかの球種を増やしたけど、これでまたスイーパーが効果的になるのではないか。
SB 打つほうは、6月の状態をどこまで維持できるか。さすがに、6月のペース(15本)で本塁打を量産し続けることは難しいけど、2021年は後半に入って失速した。相手の攻めが厳しくなったからだけど、そういうことを一度経験しているのは大きい。50本を打ってホームラン王を獲得してもおかしくない。そうなれば、打点王もついてくるかも。
――最後に、あらためてエンゼルスのプレーオフ出場の可能性を聞かせてください。
SB 今のレンジャーズは出来すぎ。得点圏打率がリーグトップで、チーム打率も2割7分を超えているけど、シーズン最後まで続くわけではない。前回の対戦を見ても、そこまでの強さは感じない。どちらかといえば、アストロズのほうが戦いにくいのでは。最終的には地区トップにアストロズが立っていると思う。
RB それには同意する。打線、投手陣、戦い方、いずれの面においても、やはりリーグでも屈指。主力に怪我人が多いが、それでもレンジャーズに2ゲーム差の2位につけている。ということはエンゼルスはヤンキース、レンジャーズとワイルドカードの枠を争うことになると思うけど、怪我人の影響がどう出るか。
SB 大谷の6月の打撃状態が後半も続くかわからない。仮に相手が対策を練って、打撃で勝利に貢献できなくても、彼の場合、投手としてチームをプレーオフに導く原動力になり得るだろう。
プレーオフ出場で、“野球小僧” のように喜びを露わにする大谷を、再びアメリカの地で見ることができるか。
取材協力&構成・EIS ※成績は7月9日時点、日時は現地時間