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マラソンで箱根ランナーが大躍進中…「箱根駅伝がマラソンをダメにする」陸上界の “負のジンクス” を覆したわけ
“正月の風物詩” として認知されている箱根駅伝。しかし、「箱根駅伝がマラソン界に悪影響を及ぼしている」と呼ばれていた時代があった。その理由を陸上専門のライターが説明する。
「箱根駅伝は大学生のレースだけに、走る選手の多くは18歳から22歳となります。この年齢時にレース・練習で20km以上走ることを多くこなすと、肉体に相当な負荷をかけることになる。しかも箱根駅伝で好結果を出すと、すぐにマラソンに挑戦することも悪例とされていました。
この年代ではトラックの1万mを多く取り入れてスピード強化に務めるべきで、マラソン転向は20代後半でいい、とされていたのです。かつて5000m、1万m、そしてマラソンの3つすべてで世界記録を保持していた、ハイレ・ゲブレシラシエの初マラソンが29歳だったという事実が、この論理の正当性を後押ししていました」
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箱根駅伝で主距離となる20kmは、世界選手権でも五輪でも種目にない。また、あまりにも箱根駅伝に賭ける思いが強いため、大学ではエースでも社会人になると期待されたほど記録が伸びない選手は珍しいことではなかった。いわゆる「燃え尽き症候群」で、早期に引退する選手も多くいたほどだ。
しかし、時代は大きく変わってきた。2018年の東京マラソンで、設楽悠太は日本人トップとなる2位に食い込んだが、このときの記録が2時間6分11秒。これまで、高岡寿成が保持していた男子記録を16年ぶりに5秒更新し、設楽はマラソン日本記録更新の報奨金1億円を手にしている。
また、箱根駅伝がマラソンに悪影響を与えないということは、記録が証明しているという。現在、男子マラソン日本歴代10傑において、箱根駅伝未経験者は9位にランクインしている先の高岡ただ一人。その高岡は、高校時代に関東の大学からスカウトを受けるも、「箱根でつぶされたくない」とすべて断り、地元京都の龍谷大学に進学した逸話を持つが、あとの9人はそれぞれ大学のエースとして箱根路を走っていたのだ。
記憶に新しいところでは、2024年2月25日の大阪マラソンに出場し、2時間6分18秒の当時初マラソン日本最高記録で優勝を飾った國學院大の平林清澄。さらに、2025年2月2日の別府大分毎日マラソンで、学生マラソン日本最高記録・初マラソン日本最高記録となる2時間06分07秒をマークした青学大の若林宏樹。2人は今年の箱根駅伝でもそれぞれエースとして走っている。
「もはや『箱根駅伝がマラソンをダメにした』は死語になっていますね。日本記録10傑の選手を見てもわかるとおり、箱根経由マラソンの道筋が完全にできあがっていますから。
確かに若いころに20km走を多くやることはよくないかもしれませんが、現在は20kmを走るために1万mのスピードを磨くという考えに変ってきました。スピードを磨きつつ、卒業後のマラソンに対応できるような練習を各大学がおこなっています。青学大の名将・原晋監督は『箱根駅伝だけでなく、マラソン転向後を考えて練習に励んでいる』と公言しています」
時を経て、箱根駅伝はマラソン転向への登竜門となっているようだ。