スポーツスポーツ

国際ボクシング協会がIOCを刑事告訴、尾を引くパリ五輪・女子ボクシング騒動…スポーツ界で揺れる“男女の定義”とは

スポーツ
記事投稿日:2025.02.14 19:40 最終更新日:2025.02.14 19:40
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
国際ボクシング協会がIOCを刑事告訴、尾を引くパリ五輪・女子ボクシング騒動…スポーツ界で揺れる“男女の定義”とは

イマネ・ヘリフ選手(写真・アフロ)

 

 2024年7月26日から8月11日にかけて開催されたパリ五輪。誤審疑惑が度々持ち上がり話題に事欠かなかった同大会において、もっとも物議を醸したのが、選手の性別をめぐり議論が繰り広げられた「女子ボクシング」だった。

 

「話題となったのは女子ボクシング66キロ級で金メダルを獲得したアルジェリアのイマネ・ヘリフ選手と、57キロ級で金メダルを獲得した台湾代表のリン・ユーチン選手です。国際ボクシング協会(IBA)は、2023年の世界選手権で性別検査を実施したところ2人から男性の『XY染色体』が検出されたと主張し、両選手に失格処分を下しました。ところがパリ五輪では、国際オリンピック委員会(IOC)の『女性として生まれ育った』『パスポートの性別に従う』という判断で出場を認められ、ともに金メダルを獲得しました」(スポーツ紙記者)

 

 

 ヘリフは、66キロ級の2回戦でイタリア代表のアンジェラ・カリニと対戦。カリニは顔面にパンチを受けると、開始46秒で試合を棄権。試合後、カリニは鼻に強い痛みを感じたとして、「自分のために止めた」「一生に一度の試合だったかもしれないが、あの瞬間には、自分の命も守らなければならなかった」などとコメントした。

 

「多くの人がIBAの主張を信じたうえ、ヘリフ選手の筋肉質な体とあいまって、多くの人が“トランスジェンダーだ”と指摘し始めました。中には、ヘリフ選手のことを“女性を傷つける男性だ”として誹謗中傷する人まで現れたのです。

 

 ところが、IBAがおこなったする性別検査の細かなプロセスは明らかにされておらず、血液検査の詳細も明らかになっていません。つまり本当に『XY染色体』が検出されたのかもわかりません。一方、ヘリフ選手は、これまで女性として生まれ育ち、性自認も一貫して女性であることがわかっています。当事者であるカリニ選手も、試合の翌日にイタリアの新聞を通じてヘリフ選手に謝罪しています。

 

 それでも、『ハリーポッター』シリーズの著者であるJ.K.ローリング氏やイーロン・マスク氏など著名人による根拠のない“トランスジェンダー批判”は激しさを増す一方でした。ヘリフ選手はこうした誹謗中傷に対し、パリ警視庁に刑事告訴状を提出しています。

 

 ユーチン選手も同様、女性として生まれ、女性として生きてきました」(社会部記者)

 

 そして今、2人は再び“厄介事”に巻き込まれつつある。2025年2月10日、IBAが、ヘリフ選手とリン・ユーチン選手を出場させたIOCを刑事告訴すると発表したのだ。

 

「IBAの主張は、IOCが“資格がない”両選手を女子ボクシングの協議に参加させたことでほかの競技参加者の安全を脅かした、というものです。

 

 さらにIBAは、トランプ大統領が2月5日に署名した『女性スポーツから男性を排除する』という大統領令も根拠の一つにしています。この大統領令は、男性が女性のスポーツに参加することは『女性や少女から公平なスポーツの機会を奪い、女性や少女を危険にさらし、屈辱を与え、沈黙させる』と主張するものです。ここでいう男性は、生まれたときの性別が男性で性自認が違う、トランスジェンダーの人も含めています。

 

 ただ、そもそもヘリフ選手の場合は生まれたときから女性として育ち、性自認も女性であることから、大統領令が根拠になるのかどうか不明です。結局IBAの告訴は不透明な“調査結果”しか根拠がないですからね。

 

 なぜ、これほどIBAがIOCに対して攻撃的な姿勢を貫いているかといえば、同団体はIOCから資金やガバナンスの不透明さなどを理由に統括競技団体資格を正式に取り消しにされているからです。

 

 IOCは、2028年のロサンゼルスオリンピックでのボクシングを実施する場合、IBAに加盟している国や地域の選手は参加できないとしています。IBAとしては組織の存続が関わるほどの重大な対立を抱えているのです。また、IBAはロシアが主導している組織であるため、ウクライナ戦争など国際情勢も複雑に関係しています」(スポーツジャーナリスト)

 

 大国や組織の様々な思惑に翻弄されるヘリフとユーチンだが、一方でスポーツ界における“性別問題”は喫緊の課題だ。

 

「LGBTQへの理解が進むにつれて、トランスジェンダーの選手が競技に参加するケースが増えてきました。同時に、アメリカでは競泳の大学選手権の女子種目にトランスジェンダーの選手が出場し優勝したことが波紋を呼ぶなど、“公平性”の問題が頭をもたげています。医学的に完全な公平性を担保するのは非常に難しく、競技ごとにどのようなカテゴリーが必要なのか、公平性を保つための基準は設定が可能なのか、活発に議論されている最中です」(前出・スポーツジャーナリスト)

 

 スポーツの性別問題で、誰もが納得する答えが出る日は来るのだろうか……。

続きを見る
12

今、あなたにおすすめの記事

スポーツ一覧をもっと見る