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空手「銀」清水希容が「目指す境地を思い出させてくれる」一冊は江戸の剣術書『猫の妙術』【アスリート「座右の書」】

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記事投稿日:2025.03.01 06:00 最終更新日:2025.03.01 06:00
出典元: 週刊FLASH 2025年3月11日号
著者: 『FLASH』編集部
空手「銀」清水希容が「目指す境地を思い出させてくれる」一冊は江戸の剣術書『猫の妙術』【アスリート「座右の書」】

2024年5月に競技生活に別れを告げたが、現在も毎日の稽古は欠かさない(写真・保坂駱駝)

 

「この一冊で、壁を乗り越えられた」――。強い体とメンタルを兼ね備えたアスリートたちに「座右の一冊」を聞いた!

 

 2021年の東京オリンピック空手「女子形」での鬼気迫る演武で、銀メダルを獲得した清水希容(きよう)。彼女に読書の効能を説いたのは、二人三脚で五輪でのメダル獲得を目指した古川哲也コーチだった。

 

 

「『五輪書』や『孫子』といった、武道家なら必読とされる書物の現代語訳などを読むようにすすめられました。『猫の妙術』もそのなかの一冊で、いちばん腑に落ちたんです」

 

『猫の妙術』は、江戸中期の武士で戯作者の佚斎樗山(いっさいちょざん)が著わした『田舎荘子』の一話で、古くから剣術書として親しまれてきた。清水が手にしたのは、文学修士で武道家の高橋有氏が訳した『新釈 猫の妙術 武道哲学が教える「人生の達人」への道』(草思社)だ。

 

 剣術家の家に現れた大ネズミ。退治しようと集まった、ネズミ獲りの名手を自負する3匹の若猫と老猫の問答を通じ、武道の奥義が語られる。

 

「3匹の若猫のうち、最初の黒猫は所作を鍛錬し、次の虎猫は気を修行し、最後の灰猫は心を練ったと自負しているものの、いずれも大ネズミの返り討ちに遭ってしまいます。私は虎猫に自分を重ねて読みました。そして、最後にいともたやすくネズミを捕らえる老猫は、悟られないようにみごとに気を消しています。それが、武道の形のあるべき姿だとわかったんです」

 

 同書を手に取った2019年は、「武道」として究めるべき空手に、東京五輪に向けて“スポーツ”として取り組んでいた時期だった。

 

「競技としての空手には、“勝って当たり前、負けられない”という思いが強く、代表としての責任を持って臨んできました。そのために不安に駆られたり、マイナス思考になったりすることは、よくありました。本来の“道”を見失いそうになったとき、この本を読んで、自分が目指す境地を思い出していました」

 

 2024年限りで競技を引退しても、清水の空手道は続く。

 

「老猫の域に早く達することができるのならいいのですが、何事も、段階を踏んでいかなければならない。だから、私たちは生涯をかけて武道をやっているんです。私自身、いまも修行中です」

 

 現在は、ミキハウスの社員として業務をおこないながら、空手の普及活動にも取り組む清水。読書を通じて、内面の鍛錬にもいそしむ日々だ。

 

【清水起用がすすめるもう一冊! ブライアン・オーサー著『チーム・ブライアン 新たな旅』(講談社)】

 

「羽生結弦(ゆづる)さんのコーチによる回想録です。全身を大きく使ったり、指先の繊細な表現が求められたりする点で、フィギュアスケートと空手の形には、共通項を感じています。

 

 アスリートはみんなわがままで、私もコーチにイラッとしちゃうことがあるのですが(笑)、指導者はそれぞれの選手に合った指導法や、言葉のかけ方をしている。教える側の視点で書かれたこの本は、子どもたちの指導をするときにも役に立っています」

 

■オリンピアンはどんな本を読んでいる!? レスリング・藤波朱理を支えた松岡修造の言葉!

 

 自らの読書体験を、SNSに投稿するオリンピアンが増えている。

 

 北京五輪カーリング女子銀の吉田知那美は、宇宙飛行士・野口聡一氏の『どう生きるか つらかったときの話をしよう』(アスコム)を、「アスリートのための参考書」と絶賛。パリ五輪体操男子3冠の岡慎之助は、戦場カメラマン・池間哲郎氏の『あなたの夢はなんですか?』(致知出版社)を読んだときの感動を、切々と書き記している。

 

 東京五輪・パリ五輪柔道男子81kg級2連覇の永瀬貴規(たかのり)は内田篤人『僕は自分が見たことしか信じない』(幻冬舎)、パリ五輪レスリング女子53kg級の藤波朱理(あかり)は松岡修造『挫折を愛する』(KADOKAWA)。藤波は同級生から贈られた同書を支えに、みごとパリで金を獲得した。

 

 一方、東京・パリ五輪陸上女子中・長距離の田中希実(のぞみ)は、「外で動き回るのと同じくらい、本を読むのが好きな子どもだった」と父が著書で回想するほどの読書家で、取材ごとにあげる書名も異なる。なかでも日常を舞台にしたファンタジー小説をとくに好み、『いのちの木のあるところ』(新藤悦子、福音館書店)は、その白眉だそう。

 

取材/文・鈴木隆祐

※記事中一部敬称略

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