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日本人がIOC会長に!?「長野五輪を誘致した男」が語る「大どんでん返し」が起こりうる5つの理由

小池百合子都知事を訪問したIOC会長(2018年)。右端が渡辺守成氏 (写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
国際オリンピック委員会(IOC)の会長選挙(現地時間3月20日、ギリシャ)まで2週間を切った。今年6月、任期満了によって、トーマス・バッハ会長の時代が幕を閉じることになるのだ。
節目となる10人めの会長を選ぶ選挙には、7人が立候補している。本命と目されているのは、イギリスのセバスチャン・コー氏。1980年代に陸上中距離で圧倒的な強さを見せ、引退後の2015年には国際陸上連盟(現・世界陸連)の会長に就任している。
だが、国際体操連盟会長を務める渡辺守成会長も立候補しており、アジア人として初めてのIOC会長を目指している。
「当初は『勝ち目が薄いのでは』と言われていましたが、ある発言をきっかけに、『もしかすると……』という雰囲気に変わってきました」
こう語るのは、日本体育協会、日本オリンピック委員会に17年間勤務し、「長野五輪を誘致した男」の異名を持つ、五輪アナリストの春日良一氏だ。同氏が、渡辺氏の逆転の可能性を語る。
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■評価が激変した「IOCはロールモデルになれ」発言
「流れが変わったのは、2023年10月、インドのムンバイでおこなわれたIOC総会でのことでした。このとき、すでにオリンピック憲章が定める任期(選出後8年、再選されればさらに4年の最大12年)によって、トーマス・バッハ会長の退任は決まっていました。
しかし、なかには『(IOCの憲章を変えても)続投してもらったほうがいいのでは』といった意見もあったのです。バッハ会長の業績への敬意もありましたが、今後もその恩恵にすがりたいからこその発言でしょう。
そんなとき、渡辺氏が手をあげた。『いま、スポーツ界はガバナンスが大事なとき。IOCはロールモデルにならなければいけない。率先して会長の任期を守るべきだ』と発言し、釘を刺したんです。この発言は効きました。
いままで渡辺氏のことをあまり認識していなかった委員の、彼を見る目が変わりました。なかには『それだけのことを言えるんだから、次はあなたがやるべき』と言う委員までいたほどです」(春日氏、以下同)
■アジア人初という優位性
だが、過去のIOC会長9名は、5代めのアベリー・ブランデージ氏がアメリカ人だった以外、すべて欧州出身だ。アジア人である渡辺氏に可能性はあるのか。
「たしかに、IOCを含めたスポーツ界は、これまで欧州主導でやってきたため、IOC会長も欧州出身者が多かった。
しかし、最近は世界情勢の変化もあり、欧州のIOC委員からもD&I(多様性と包摂性)を意識して『そろそろ違った国からも』という意見が出始めているんです。そこに渡辺氏の発言があり、俄然、注目される結果となっています」
■称賛された公約「世界5カ国でのリモート五輪」
さらに渡辺氏の評価が高まったのは、昨年12月に発表したマニフェストだった。7人の立候補者がそれぞれ公約を掲げたが、もっとも注目されたのが、渡辺氏が掲げた「世界5カ国でのリモート五輪」だったという。
これは、五輪の輪が示す世界5大陸の5都市で同時期に夏季大会を共催するという大胆な構想だ。そして大会を24時間中継し、配信する。たしかにこの案なら、世界中で大会の熱気を共有できるし、分散により、開催都市の財政負担を軽減することもできる。
「これまで五輪は、開催される1都市に多くの資金が集まるシステムで、そこに唯一無二の価値観があると言われてきました。
当初、渡辺氏の改革案は、これまでのオリンピックの常識とかけ離れていましたから、多くのIOC委員はもちろん、私でも難しいと感じました。でも、公約発表後から渡辺氏が熱心にしてきた説明で、周りの考え方が徐々に変わっていった。
たしかに五輪は、多くのお金が集まって注目される大会ですが、それによって肥大化し、経済的にも環境的にも、1都市での開催が難しくなっているのも事実です。
5カ国5都市で開催するなら、1都市あたりの経費負担は減り、小規模な自治体でも開催の検討が可能になります。こうした渡辺氏の『5大陸五輪』構想は、次第に共感を集めています」
■戦地・ウクライナにすぐに出向いた行動力
渡辺氏は、その後もIOC委員を驚かせることになる。
3月3日、渡辺氏は国際スポーツ記者協会(AIPS)主催のオンライン会見で、IOC会長候補としてインタビューを受けたが、その場所は、戦火にあえぐウクライナの首都キーウだったのだ。
「2月末、渡辺氏は欧州で会議に参加していたのですが、そのときゼレンスキー大統領とトランプ大統領の激しい舌戦のニュースが飛び込んできた。それを見てウクライナの選手が心配になり、キーウにすっ飛んでいったというんです。
渡辺氏はキーウの体操会場でインタビューを受け、後ろには練習する新体操の選手が映り込んでいました。その行動力にはAIPSの会長も驚いていましたね。
渡辺氏が訴える内容には『いかにスポーツが平和に貢献できるか』というものが含まれていますから、真っ先にそれを体現して見せたわけです」
■160カ国以上で続けてきた草の根活動
春日氏が太鼓判を押すのは、渡辺氏が積み重ねてきた草の根活動だ。IOC会長選では厳しい規定があるが、これも渡辺氏に有利に動く可能性があるという。
「会長選の間、候補者はほかの候補者の批判や、議論すらも禁止されています。また、自分のSNSで選挙活動もできない。旅行するにも事前にIOCに報告義務があるなど、ある意味がんじがらめです。それでも候補者は自分をわかってもらいたいから、なんとか抜け道を探すわけですが……。
でも、渡辺氏はこれまでの草の根活動があるので、改まって選挙活動をする必要もない。というのも、これまでFIGの会長として162の国と地域を訪れてきました。そこで出会った人たちとの強いコネクションをすでに持っています。
彼はスポーツ大臣を表敬するだけでなく、地域でスポーツに勤しむ人々の生の声を聞き、それぞれの支援に取り組んでいるのです。
大きな恩恵を受けた国や地域のIOC委員もいるわけですし、すでに世界のスポーツ界から信頼を得ていますから。欧州生まれのスポーツの国際競技連盟の会長に3選されていることでもそれはわかりますが」
渡辺氏は、イオングループでのサラリーマン経験があり、庶民感覚もわかる。“五輪貴族” といわれたバッハ氏の後任は――。大番狂わせで、日本人会長の誕生もあるぞ!