スポーツ
「ゴール欲がギラギラ」森保ジャパンW杯8強へ!元日本代表の2人が「登録メンバー」日本最速予想【松井大輔×佐藤寿人】

対談をおこなった松井大輔氏(左)と佐藤寿人氏(写真・保坂駱駝)
サッカー日本代表が、世界最速での2026年北中米W杯の出場権を獲得ーー。
3月20日、埼玉スタジアムでおこなわれたアジア最終予選のバーレーン戦に2−0で勝利し、25日のサウジアラビア戦を含め3試合を残して8大会連続8度めのW杯出場を決めた。
そこで本誌では、いずれも元日本代表の松井大輔氏(43)と佐藤寿人氏(43)に、「W杯登録メンバー」をどこよりも早く予想してもらいつつ、史上最強と評される森保(もりやす)ジャパンについて語り尽くしてもらった。
【関連記事:森保ジャパン、サウジ戦「ドロー」が “痛すぎた” わけ…W杯躍進に欠かせなかった「世界9位」の称号】
W杯は北中米大会より、出場チーム数が従来の32から48に拡大。それにともないアジアの出場枠も4.5から8.5にほぼ倍増したため、予選開始前から「楽勝ムード」が漂っていた。
とはいえ、7節までに6勝1分け(勝ち点19、得失点差+22)、2位以下に勝ち点9差もつけてW杯出場権を手にするとは誰も予想していなかったはずだ。
2024年のアジア杯ではまさかのベスト8敗退に終わっていた森保ジャパンは、なぜ “史上最強” と呼ばれるまでに評価を高めたのか。
ーーお2人は、森保ジャパンの強さをどこに感じますか。
佐藤寿人(以下佐藤) メンバー表を見ればわかりますよね。ほとんどの選手が海外でプレーしているだけじゃなく、欧州のトップリーグで活躍している。経験値の高さは、アジアのなかでは圧倒的。
松井大輔(以下松井) 今回の最終予選も、欧州組はチャーター機で帰国したみたい。僕らは海外組が少なかったので、それぞれで飛行機に乗っていたのに(苦笑)。僕は最終予選の好調と、アジア杯で準々決勝敗退したことは無関係ではないと思っている。アジア杯で早く負けたことで、アジアでの戦い方を再確認したことがよかったのでは。
佐藤 アジア杯は、少し選手たちが(対戦相手を)軽く見ていた部分もあったと思う。
松井 アジア杯でのポイントは、両ウイングの不在で攻め手を欠いたこと。つまり、三笘薫(みとまかおる・27、ブライトン)が怪我で不在なうえに、伊東純也(32、スタッド・ランス)が途中離脱したのは痛かった。引いて守りを固めてくるアジアの国が相手では、サイド攻撃が機能しないと厳しい。
アジア杯での敗退を受け、森保一(もりやすはじめ)監督は基本布陣を4−2−3−1から、より攻撃的な3−4−2−1に変更。ボール保持時には左右のウイングバック(WB)が高い位置を取り、1トップとトップ下の2人の選手とが絡み、攻撃に厚みが加わった。
ーー引いて守りを固めてくる相手に、3−4−2−1がハマった印象があります。
佐藤 「4」の両サイド(WB)に、三笘や堂安律(どうあんりつ・26、フライブルク)、伊東など、本来ウイングでプレーするような攻撃的な選手をスタメンから使うことは、守備でのリスクが高いと考えられていた。そういう意味では、相手との力関係を考えての選択だったと思う。
松井 “攻撃の槍” ともいえる、三笘と伊東の存在は大きい。スピードはひとつの “正義” だからね(笑)。しかも、その槍がひとつじゃなくてふたつ(両サイド)ある。
佐藤 ただW杯を考えれば、4バックで戦うことも森保監督は考えているはず。今の3バックはかなり攻撃的で、W杯では対戦相手の実力を測りながら戦うことになると思う。
松井 アジア杯とW杯では戦い方は変わるからね。だから、現チームが “史上最強” か答えるのは難しい。最終予選はアジア杯で早く負けたことが功を奏したと言ったけど、評価を高めて臨むW杯は、逆に難しくなる可能性もある。
佐藤 勝たなきゃっていうプレッシャーがかかるからね。
■ゴールへの欲がギラギラしている
予選突破が決まった今、期待されるのが新戦力の台頭だ。W杯に向けて、秘密兵器となるような選手はいるのか。
佐藤 僕は現役時代、森保監督とともにプレーしたことがありますし、サンフレッチェ広島時代は選手と監督という立場で一緒に戦いました。そんな森保監督は、どんなリスクも嫌うタイプ。最終予選では独走状態で、「新しい選手を試してみては」と思ったが、頑なに変えなかった。それって、勝ち点を落として流れが悪くなったときのマイナス要素も考える森保監督らしいやり方。でも、予選突破が決まったこの後は、新しいチャレンジをしてくるはず。ただ、今は多くの選手が海外でプレーしているだけに、大前提とは言わないまでも、基本は海外組からの選出になるのでは。
松井 国内組にもチャンスを与えてほしい。おすすめは福田翔生(ふくだしょう・24、湘南ベルマーレ)。僕は2023年にJ3のY.S.C.C.横浜で福田と一緒にプレーしていたけど、彼はFC今治(2019年はJFL、2020年〜2022年はJ3)にいた4年間は、リーグ戦で1ゴールも決められずに契約満了でYS横浜に来て、半年で11ゴール決めてJ1の湘南へ移籍。湘南でも昨季後半だけで10点取って、今季もここまで2ゴール。
佐藤 今季の湘南は、鈴木章斗(21)と福田の2トップがいい。
松井 福田は点を取ってガラッと雰囲気が変わったし、ゴールへの欲がギラギラしていておもしろい。僕は現役時代にパク・チソン(元韓国代表MF)や本田圭佑とプレーし、彼らがスターになるところを見てきたけど、選手はどんなきっかけでブレイクするかわからない。本田は南アフリカ大会のゴールで、 “本田圭佑” になったしね。
佐藤 佐野海舟(さのかいしゅう・24、マインツ)も、いつ復帰してもおかしくない。マインツはブンデスリーガ3位(26節終了時)と好調。佐野の中盤でボールを奪って展開する力は圧倒的だし、プレースタイルは森保監督が求めている理想に近い。もう招集に問題はないだろうし、佐野がボランチで守田英正(29、スポルティング)と組めれば、オプションで遠藤航(32、リバプール)をDFで起用できるかもしれない。
松井 ボランチだと、パリ五輪代表で主将を務めた藤田譲瑠チマ(ふじたじょえるちま・23、シント=トロイデン)にも期待している。
佐藤 五輪代表では、リーダーシップなども含めて存在感があった。ただ、クラブでもうひとつステップアップできていないのがね……。
松井 これだけ海外で結果を出している選手が多いと、 “ジョーカー” が必要といっても、メンバーに入るのは簡単じゃない。ただ、W杯を考えるとやっぱり点を取らないと勝てないし、ストライカーの重要性は大きくなる。その意味で福田もそうだけど、W杯までの1年ちょっとの間で出てくる選手もいるはずだし、そうでないと困る。現時点でCFは、上田綺世(うえだあやせ・26、フェイエノールト)と小川航基(27、NEC※3月シリーズは怪我のため代表未招集)が一歩リードしていると思うけど、寿人は誰に期待してる?
佐藤 ストライカーだったら町野修斗(25、キール)かな。所属のキールはドイツのブンデスリーガで最下位(26節終了時)に沈んでいるけど、苦しいチーム状況のなかでも、ここまでリーグ7ゴールと結果を出している。前回のカタール大会では、怪我人が出たことでサプライズ的にメンバー入りしたけど出番はなかった。悔しさもあるだろうしね。
Jリーグでは、サンフレッチェ広島のルーキー、中村草太(22)がここまで2ゴールとアピール。明治大卒で、関東大学リーグ1部では2年連続得点王&アシスト王に輝いた実績のとおり、スピード豊かな万能型ストライカーだ。
佐藤 すごくいい選手なのは確かだけど、今後は相手に研究されるだろうし、そのうえでどんな結果を出せるか。
■いよいよ悲願のW杯8強入りに機が熟した
明治大卒といえば、5度めのW杯出場を狙うベテラン長友佑都(38、FC東京)の存在を忘れることはできない。最終予選でも継続して代表に招集されてきたが、試合出場はない。一方、2月にテレビ番組で元日本代表の内田篤人氏と対談し、「W杯本番になったら自分が必要になるはず」とコメントし、注目を集めた。
佐藤 練習では先頭に立って、誰よりも声を出している。あれだけキャリアのあるベテランが、試合に出られないことがわかっている状態で招集を受け入れるのは難しいと思う。プライドもあるだろうし。それができる長友は、本当にメンタルが強い。
松井 代表に呼ばれる選手は、みんな試合に出たくてギラギラしている。試合に出られなければ、不満を口にする選手がいるかもしれない。でも、長友が文句ひとつ言っていない状況で、そんな態度を取ることはできない。僕が出た南アフリカ大会では、川口能活さんが同じような役割を担ってくれていたけど、そういうベテランがいる、いないではチームの雰囲気が全然違う。
佐藤 本人も言ってるように、W杯ではWBで攻守に激しく上下動できる長友のようなタイプが必要になるかもしれない。森保監督が招集しやすいように、クラブでは試合に出続けてほしい。
松井 でも、どのポジションも選手が揃っていて競争は熾烈。
佐藤 中盤はとくに “渋滞” しているね。
松井 唯一、4バックでの戦いを想定したときに手薄なのが左サイドバック。守備と攻撃のバランスが取れている人がいないというか。中盤の選手で、誰かやりたいって手を挙げる選手いないのかな(笑)。
佐藤 W杯では、結局最後に滑り込みでメンバーに入るような選手に注目が集まるし、誰が入るかは楽しみ。
松井 お笑いの『M−1』もそうだけど、敗者復活で残った人を応援したくなっちゃうというか(笑)。
ーー日本代表は今度こそベスト16の壁を突破し、ベスト8に進出できるでしょうか?
佐藤 僕はいけると思っています。たとえば、2010年南アフリカ大会の前に、当時の岡田武史監督が「ベスト4を目指そう」と言ったとき、僕は「えっ?」と思ってしまいました。当時は、それが現実的だと思えなかったからです。今、森保監督はW杯優勝を目標に掲げています。もちろん、優勝が簡単じゃないのは理解していますが、選手はそこに近づくために本気で取り組んでいる。熱量や実力を含めて、8強入りの機が熟したと思う。
ーー新しいW杯のレギュレーションでは、ベスト8進出にはグループリーグの後2勝する必要があります。
松井 そもそも、グループリーグだって簡単じゃないけど。
佐藤 出場国が増えたぶん、ベスト8にいくためには決勝トーナメントで2回勝たないといけない。でも、そのぶん対戦相手は厳選されたチームではないだろうし、勝てる確率はかなりあると思う。あとはカナダ、メキシコ、アメリカの3カ国開催って、移動がめちゃくちゃ大変。時差や気候の違いもあるし。そう考えるとタフな戦いになるし、やっぱり日ごろから欧州の厳しい環境で戦っている海外組が頼りになるような気がします。
2026年6月11日の開幕まで1年以上あるが、どんな “ニューヒーロー” が台頭してくるか楽しみだ。
まついだいすけ
1981年5月11日生まれ 京都府出身 2000年に京都パープルサンガでデビューし、2004年にフランスのルマンへ移籍し、欧州の複数クラブでプレー。2010年の南アフリカW杯では、ベスト16進出に貢献。日本代表31試合1得点。2023年にY.S.C.C.横浜で引退
さとうひさと
1982年3月12日生まれ 埼玉県出身 2000年にジェフユナイテッド市原でデビューし、ストライカーとして活躍。サンフレッチェ広島時代にJ1優勝3回、2012年にはJリーグMVPと得点王に。J1通算歴代3位の161得点。日本代表31試合4得点。2020年にジェフ千葉で引退
写真・桑原 靖、保坂駱駝、JMPA
取材&文・栗原正夫