2月18日、キャンプ5日目。
キャンプインしてから、大谷翔平はファンにサインをしていない。本球場にあるロッカールームから練習する球場までは歩いていくのだが、行きも帰りもファンの待ち構える通路を通って行く。
当然ファンは自分の目の前を通る選手にサインをねだるのだが、大谷は少しすまなそうな表情を浮かべながら、一回もサインをしてこなかった。
オープン戦の始まる前のこの時期、よほどコアなファンか、特別な目的のある人以外は、わざわざ球場に足を運んだりはしない。
特別な目的。つまりサインをオークションなどで売るバイヤーだ。この時期はファンの数も少なく、選手からサインをもらいやすい。
しかし最近はバイヤーの存在が、選手がファンサービスする意欲を失わせている。大谷も、たぶん球団や回りから言われているのだろう。
ファンの呼びかけに、申し訳なさそうな顔はするものの、サインはしなかった。この日も練習終了後に駐車場へ向かうと、いったんはレンタカーに乗り込んだ。
しかし、そこからがいつもと違った。
駐車場の外に待ち構えていた日本人ファン達が、いっせいに大声で大谷に声をかけたのだ。バイヤーではなく、純粋に大谷を見に来た日本人のファンだったのである。
帰りかけた大谷は、待ち構えるファンの元へ駆け寄ると、一人一人に丁寧にサインを始めた。やっぱり大谷はファンを大切にするいい奴だと、ホッとした次第である。(写真・文/西山和明)