
2025年6月5日、ニューヨークメッツとの試合に臨む大谷翔平(写真・アフロ)
毎年好調な6月を前に、今季は一足早く大爆発したドジャースの大谷翔平。今月の活躍はいかに──。
5月に打率.309、15本塁打、27打点、31得点をマークした大谷。15本塁打は自身と球団の月間最多記録に並ぶタイ記録で、メジャートップだ。もちろん、月間MVPを獲得。受賞はエンゼルス在籍時を合わせて通算6度めで、自身が持つ日本勢最多の受賞回数を更新した。
本塁打は54本打った昨季を上回るペースで、5月終了時点で58試合を消化し、年間61本ペース。「50-50」を記録した翌年は60本塁打と夢は広がるばかりだが、専門家はどう見ているのか。動作分析の第一人者で、筑波大学体育専門学群教授の川村卓氏が解説する。
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「今季の大谷選手は、バットを2.5cm(1インチ)長くしてスタートしました。プロの選手でも1cm長くすると『あれっ? 違うな』と感じるため、2.5cmも長くしたら違和感しかないと思いますね。プロでもないケースですから、今回の調整は普通ではないんです。
逆にいえば、それをわざわざ取り入れたのは、おそらく相当な準備をしてきたから。たとえば、練習で試しながら『これはいつかは振れるんじゃないか』と思ってやってきたのでしょう」(以下「」内は川村教授)
昨季に前人未到の成績を残した大谷だが、それでもバットを長くする意図は何なのか。
「まず背景として、現在のMLBはデータ野球全盛で、投手の攻め方のサイクルがすごく早くなってきているんです。たとえば、低めを打たれて危険だとわかれば今度は高めを攻める。すると、打者は高めに対応しようとする──と言ったように、打者と投手の駆け引きはイタチごっこのよう。そうなると、やることが多くてなかなか対応できづらくなっています。
そこで大谷選手はバッティング自体を『来た球を打つ』、もしくは『軽く振ってもホームランになる』という意識を持つために、長いバットにしたのではないでしょうか。バットが長くなれば、確実に遠心力はかかってきますので、力を抜いて遠くに飛ばせます」
バットの長さを変えたことで、打撃フォームに変化が見られるという。
「大きな変化はありませんが、少し変わっている感じはします。彼はもともとノーステップですが、お尻のあたりはけっこう動いていて、それでスイングの勢いを作っていたんです。それが今季はだんだん小さくなり、その動きもシンプルになっているで、回転も強くなっていると感じます」
もうひとつ、新バットの導入でパワーアップしている部分があるという。それはライト方向に引っ張った打球だ。
「昨季あたりから徐々によくなっている点ですね。前は引っ張ると、打球は最初上がるんですが、途中から落ちるというか、下がることが多かった。そうすると勢いのすごくある二塁打とか、ワンバウンドでスタンドに入ってしまう打球が多かったのです。あと、勢い余ってファウルゾーンに飛ぶとか。つまり、ホームランにはならなかったんです。
そして、以前はどちらかというとセンターから左への打球が基本で、引っ張った打球がたまにある感じ。それが現在は、どちらかというと引っ張る打球が基本で、逆方向にも打てているという感じです。昨季の終盤にもありましたが、今季は引っ張ってもキレない打球が特徴的で、今季のほうがよりよい打球が飛んでいます」
6月9日現在(日本時間)、大好きな6月にまだホームランは1本と、例年に比べれば控えめなスタートとなっているが……。
「長くしたバットも振れるようになってきたし、打球の質もいい。ここからますますホームランは増えていくと思います。
ただひとつ気になるのが、投手復帰ですね。報道では、7月のオールスター明けに復帰という話が出ているようですが、本当なら投手として調子を上げていかなければいけないし、実戦登板も何度かこなすべきです。今後、昼間にはマイナーで調整登坂して、ナイターでメジャーの打席に立つなんてこともあるかもしれません。そうなると、バッティングへの影響も多少なりとも出てくるかもしれませんし、ホームランは出にくくなるかもしれない。正直言って、打者だけなら60本塁打は十分に可能な数字だと思っていますが、二刀流だと難しくなるでしょう」
万全な投手としての大谷を見るなら、今季も復活を見送ったほうがいいという声は多い。しかし、投手陣の怪我が目立つ今季、ド軍に復帰を遅らせる選択肢は、おそらくないだろう。