スポーツスポーツ

女子サッカーU-17日本代表・小泉恵奈、“女子1人” の男子サッカー部で掴んだ海外オファー…総監督が狙う “兄弟理論” とは

スポーツ
記事投稿日:2025.07.15 18:00 最終更新日:2025.07.15 18:37
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
女子サッカーU-17日本代表・小泉恵奈、“女子1人” の男子サッカー部で掴んだ海外オファー…総監督が狙う “兄弟理論” とは

兵庫県淡路島・AIE国際高校3年生の小泉恵奈(写真提供・合同会社KACHI)

 

 従来であればサッカーの強豪中学、あるいWEリーグのジュニアユースで研鑽を積み、各世代の代表、そして最終的になでしこジャパンへと登りつめていくのが、女子サッカー界の王道と言えよう。

 

 しかし、ここに一人、そのルートから大きく外れながら、U-17日本女子代表の “守備の要” へと成長していった人物がいる。兵庫県淡路島・AIE国際高校3年生の小泉恵奈である。AIE国際高は、2013年に設立された国際科と普通科をもつ広域通信制・単位制高等学校である。

 

 小泉は中学時代、WEリーグのノジマステラ神奈川相模原アヴェニーレ(U-15)の所属だったが、ドゥーエ(U-18)に進むことができず、進路先を探していた。そんなとき、AIE国際高に女子サッカー部設立の動きを知り、問い合わせしたのが入学へのきっかけとなった。同サッカー部の上船利徳総監督が振り返る。

 

「2022年に女子部を作る動きがあり、問い合わせのなかの一人が恵奈でした。男子部では高校サッカー選手権での優勝を目指していますが、同時に『本気でプロを目指す』子供たちが入ってきています。女子部でも同じ志を持った子が入ってきてくれることを願っていたんです。

 

 ところが、ほとんどの子が『とりあえずサッカーを続けたい』『地元に女子サッカー部がないから』といった考え。でも、恵奈だけが『ウチを卒業してプロになりたい。日本一になりたい』とはっきりと言葉に出し、サッカーへの熱量が高かったわけです。なので、練習会に呼んだのは恵奈一人だけでした」

 

 上船氏が初めて彼女のプレーを見たのは、2022年6月のことだった。

 

 

「当時、彼女のポジションは左サイドハーフでしたが、所属チームではベンチでした。でも左利きで、身長も171cmと高く、しかもスピードもある。見た瞬間、ポテンシャルはすでにあるな、と感じたんです。

 

 左足のキックを磨いて、一対一を練習して強くしたら、『こりゃあ、すごい選手になるんじゃないかな』と思ったんです(笑)」(上船総監督)

 

 上船氏の想いとは裏腹に、志の高い子は彼女以外集まらず、残念ながら女子部の設立は断念することになった。だが、上船氏には小泉を指導してみたい気持ちがあった。

 

「素晴らしいものを持っていましたから、本当に将来が楽しみだという気持ちがすごく強かった。それで『女子部はないし、ウチに来れば3年間公式戦にもできない。でも、本気でプロを目指すなら、ここには素晴らしい環境がある』と言ったわけです。

 

 なにしろ練習相手は本気で全国制覇を目指し、本気でプロを目指す男子の高校生部員ですから。なでしこジャパンはよく中学生男子と練習していますから、それよりレベルが高いわけです。そんな彼らと毎日、3年間ガチンコで対峙できるわけです」(上船総監督)

 

 では、小泉本人はどう感じたのか。

 

「女子部ができないことは残念でした。冬の選手権で『藤枝順心高3連覇!』なんてニュースを見れば、ちょっぴりうらやましい気持ちは正直ありました。

 

 ただ、私は『プロになりたい』『W杯で活躍したい』という夢がありましたから。男女は体格だったり、スピードだったり、全然違うじゃないですか。なので、男子と3年間やったほうが、プロに近づけると思ったので、入学を決めました。

 

 私はノジマステラでユースに昇格できませんでしたが、ここで折れてあきらめたらプロにはなれないし、W杯で活躍はできないと思ったので進学に迷いはありませんでした」(小泉)

 

 高い志を持って入学したものの、最初は苦労の連続だった。

 

「サッカー部は寮生活なんですが、なにしろ女子部員は私一人ですから。不安はあったし、部屋も寮の端っこで(笑)。練習でも孤独感は正直ありました」(小泉)

 

 上船氏も小泉の苦労を間近で見てきた。

 

「いくらいいものを持っているからといって、最初は男子部員の練習の邪魔になるような存在でした。でも、本当に努力し続けて、あきらめなかった。いまでは普通にプレーできているし、男子部員からも認められているというか(笑)。

 

 女子だからしょうがないとか、そういう雰囲気もまったくなく、普通にいち選手として要求しあっていますからね。もう女子サッカーでは、普通に世界と戦えるレベルになったかな、という感じです」(上船総監督)

 

 小泉も「毎日が充実です」と強調する。

 

「プレーで慣れてきて認めてもらえると、みんなが話しかけてきてくれるし、孤独感もなくなりましたね。いまではガチンコできます。それが楽しいんです(笑)。普通にぶつかってきてくれていると思うから。手加減がないので、みんなの本気を感じます。

 

 あとは、女子と対戦したとき、スピードで来られても『あれっ? 速くない』とめちゃ感じます。INAC神戸トップチームの練習に参加させてもらったときに、それを感じました。ふだん練習しているときのパススピードや個人のスピードのほうが全然速いと感じました。そうすると余裕も生まれます」(小泉)

 

 これこそが上船氏の狙っていたことだった。

 

「僕のなかでは “兄弟理論” と言っているんですが、要するに兄貴より弟のほうがうまくなるケースって多いじゃないですか。なぜかというと、小さいころの弟は兄と一緒にプレーし、知らず知らずのうちに揉まれてきたわけです。

 

 そういう環境でいると、どんどん成長できる。そこで今度は同年代と一緒にプレーしてみると、スピードは遅いし、プレッシャーも弱く感じるわけです。

 

 恵奈からすると、“お兄ちゃん” 的存在が男子部員なんです。ウチは中学生が高校生と一緒に練習しますが、我々がお兄ちゃんを作っているんです、環境という面でね。

 

 それって、イングランドでは普通のこと。うまい子たちはどんどん上の世代とやらせています。U-18のカテゴリーに15歳の子が入って練習していたかと思えば、18歳でうまい子は、U-21に行っている。世界はそういう流れです。

 

 女子の場合、世界に出てみて、相手は大きくて速いと実感する。なでしこジャパンのメンバーに聞いてもそうでした。でも、戦ってみて初めてわかるのでは遅いんです。

 

 だからこそ、男女の代表は若いころから世界に飛び出し、もまれて成長している。男女とも代表は、ほぼ海外組ですよね。でも、恵奈は現在、海外の女子選手より速い選手とふだんから練習しているんですよ。

 

 いま彼女ができている一対一の強さというのは、明らかに変わりました。中学生のときは守備なんかいっさいできなかったんですよ。いまはマジで一対一が強いので」(上船総監督)

 

 高校でのチームを捜すのに苦労していた小泉は、いまやU-17女子日本代表の守備の要に成長したばかりか、独・ブンデスリーガの名門・1.FCケルンやバイエル04レバークーゼン、オランダのPSVアイントホーフェンからオファーを受けるまでになっている。小泉の成功もあって、2026年にはAIE国際高に女子サッカー部設立が決定した。

 

「Instagramでは練習会の告知をしていますし、女子部を作りますが、男子と混ぜます。なぜなら恵奈の成功があったからです。たまたまではありません。必然なんです。“兄弟理論” があり、女子が日ごろからレベルの高い男子とやることによって、レべルアップできることは間違いありませんから」(上船総監督)

 

 小泉の当面の目標は、2025年10月19日から開催される「FIFA U-17女子ワールドカップモロッコ2025」だ。どんな世界デビューを飾るのか、興味は尽きない。

12

今、あなたにおすすめの記事

スポーツ一覧をもっと見る