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【ネトフリがWBC独占】元 “侍ジャパン” が明かすテレビ中継の貢献ぶり…民放各社が狙う「サブライセンス契約」とは

2023年に開催された第5回WBC(写真・共同通信)
日本球界に衝撃のニュースがもたらされたのは、8月26日のことだった。
米カリフォルニア州に本社を置く動画配信大手のNetflixが、来年3月に開催される第6回ワールド・ベースボール・クラシック(以下、WBC)の日本での独占放送権を獲得したと発表したのだ。これによって、WBC全47試合は、日本の地上波テレビで見ることはできなくなった。
「2006年に始まったWBCは、国別における『世界一決定戦』を謳っていましたが、野球の母国アメリカから出場を辞退する選手、特に投手から続出したこともあり、世界一を決める大会としては不十分だと言われていました。
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そんななか、日本はできうる最上のメンバーを集めたことにより、記念すべき第1回大会を制覇。みごと世界一の称号を手にしました。続く第2回大会も制したことで、アメリカをはじめとする野球強豪国のやる気に火をつけ、近年は多くのスーパースターが出場するようになったんです。
ただし、調整を早めることが難しいとの理由で、相変わらず投手たちのなかには出場に後ろ向きの選手もいますが……」(スポーツ紙記者)
そうした背景もあり、国内ではサッカーのW杯と並び、WBCは野球における「世界一を決める大会」と認知された。特に前回大会は、大谷翔平、ダルビッシュ有らメジャーリーガーが参加したことに加え、日系のラーズ・ヌートバーも代表入りしたことで、侍ジャパンの価値も上がったと言われている。
その人気は歴代代表屈指と言われ、日本戦の地上波中継は全7試合で視聴率が40%を超えるなど、大きな社会現象となった。大谷が先発した準々決勝のイタリア戦は、野球中継歴代2位の視聴率48%を記録している(以下、数字はすべてビデオリサーチ調べ)。
「それだけに、WBC創成期から中継で大会を盛り上げてきたテレ朝、TBSの関係者のショックは大きいと聞いています。彼らは当然、来年の大会にも関われると思っていましたから。
でも、あまりにも放送権料が高騰しすぎました。前回、地上波で放送した全7試合は、合計で30億円程度でしたが、Netflixの参入で150億円前後にまで上がったと言われています。この金額では、日本のテレビ局が束になっても太刀打ちできません」(スポーツ紙デスク)
では、民放テレビ局の地上波やBSで中継が可能になるにはどうしたらいいのか。
「たとえば準々決勝の1試合を中継するには、Netflix側に『サブライセンス契約』の交渉をする必要があります。ただ、Netflixは独占中継権に強いこだわりがあるため、現時点でその可能性は限りなくゼロに近いと言わざるを得ません」(前出・デスク)
侍ジャパンのOBで、第1回から2大会連続で貴重な中継ぎとして活躍した渡辺俊介氏は、いったいどう感じているだろうか。まずは、自身が経験した “WBC狂騒曲” から。
「第1回大会の最初からすごく人気だったと思われているようですが、そうでもなかったんです。日本ラウンドの試合では空席も目立ちましたからね。大会前のテレビの扱いもそれほど大きくありませんでしたから、僕らも『注目されている!』とは感じなかったほどです。
それが変わったとわかったのは、優勝した帰りの飛行機のなかでした。誰かが『日本では大変なことになってるぞ』と。しかも機長さんが『優勝おめでとうございます。視聴率は40%です』と、聞いたことのない数字をアナウンスしてくれたからなんです(実際は43.4%)。大会後は取材が多くなったことを覚えています」
第1回大会のMLBメンバーはイチロー、大塚晶則の2人だけだったのに対し、第2回はイチロー、松坂大輔ら5人が参加した。直前の宮崎合宿は、空前の “侍フィーバー” となった。
合宿初日の2月16日から連日4万人規模の観客が来場し、期間中は6日間の稼働で約24万人が訪れた。渋滞問題も深刻化。市街地から球場に向かう国道220号は連日5kmもの渋滞となり、通常20分程度の所要時間は約50分、ときにはそれ以上に。選手の乗ったバスも渋滞の影響で到着が遅れるなど大きな問題となった。
「メジャーリーガーが多かったし、連覇を期待されていたし、前回大会とはまったく違うプレッシャーのなかで戦ったことを覚えています。なにしろ、練習に4万人が集まっていたわけですから。あんな経験は初めてでした」(渡辺氏)
結果は、決勝で韓国を下して連覇を果たしたわけだが、試合の中継は平日水曜日の午前10時35分から。にもかかわらず、ビデオリサーチによる視聴率で驚異の36.4%(関東地区・番組平均)を記録した。
「いまでもよく覚えているんですが、連覇しての帰国後、街中でもよく声をかけられたんです。で、話を聞いてみると、商店街にある電気屋さんのテレビでみんな揃って見ていたとか、ラーメン店で見ていたとかなんです。
なかには女性で『野球に興味はなかったんですが、お父さんと定食屋さんで見ていたらすごいことになって』とか。そのとき、テレビの力はすごいと感じましたが、思い返してみると、それも地上波で中継してくれたからなんだと」(渡辺氏)
渡辺氏は「心配な点がある」と、こう続ける。
「先ほど『野球に興味はなかったけど』という方の話をしましたが、ネット契約となって、野球に興味がない人がわざわざ契約しますかね。そこだけが懸念材料です。また、僕より上の世代の方は困るんじゃないかと。契約の仕方もそうですが、お金を払ってスポーツを見ることに違和感を覚えると思います。
僕としては、お金を払っての流れは理解しています。2014年から2年間、アメリカでプレーしましたから。向こうではケーブルテレビで面白いコンテンツにお金を払うのが当たり前でしたからね。そのうえ、今の若い世代は『テレビをあまり見ない』といいますし。
じつはウチもNetflixと契約していて、子供たちはよく見ています。ただ、いち野球人としては、せめて日本戦だけも無料にしていただければありがたいですね。必ず野球の発展につながりますから」
前出のスポーツ紙デスクによれば、「NetflixはWBCに続き、MLBの放送権も視野に入れている」と語る。2024年末時点でNetflixの全世界会員数は3億163万人、売上高は390億ドル(約5兆7720万円)。WBCの150億円に対し、MLBの中継権は1000億円に上るとも言われるが、その資金力なら可能なのか。Netflixの猛威は、収まりそうにない。